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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
大脱走! ダンジョン前署大怪獣パニック
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地球防衛軍ダンジョン前署

「ナマで見ると中継よりデカく見えるな」

「俳優さんとか実際に見掛けると小さかったりするんですけどね」

「プロ野球選手はナマで見た方がデカいっスよ」


 などと緊張感のない会話をしているオレたちは今、相生橋(あいおいばし)の上にいる。

 市民の皆さまには申し訳ないが現在封鎖中。

 レインボーブリッジじゃないので許してほしい。


 それはさておき、オレたちダンジョン課が陣取る先には、

 江東区越中島(えっちゅうじま)側の清澄(きよすみ)通り。

 その路上に、



『ギャアアアアアン!!』



 ガメラかウルトラマンでも呼びたくなる巨大怪獣。


 雄叫びを上げるだけでもうるさくてかなわない。

 なのに翼をブンブン振って、ビルや電柱まで破壊する。

 向こう側の市民の避難は済んでいるため、悲鳴は聞こえないのが救いか。

 めっちゃ風圧来るけど。


「うひゃー寒い!」

「冬も近いですしね!」

「私がミニスカポリスだったら危なかったわ!」

「オエッ!」

「おい上総?」


 後ろではなんかゴチャゴチャ言っとるが、真面目にやる気が失せるのは分かる。

 それくらい現実じゃないサイズ感だ。


「だが粟根。聞くかぎりじゃアレはダンジョンにいるサイズじゃないんだろう?」

「そうですね」

「じゃあオレたちの管轄じゃないんじゃないのか? もうこれ、自衛隊とか」


「ヴァアアァァァ……!!」


 背後から上総の背骨の断末魔が聞こえる。

 粟根すら怪獣を見据えているのに、何をやっとるのだ。


「でも夏菜奈さん曰く、ダンジョンの生物が外に出ると巨大化することがあるそうです」

「前例があるのか……」

「たまにペットにしようと連れ帰る人がいるんですよ。で、種族によっては大きさの成長限界がないのもいて。エサが限られてる野生と違って、食べれば食べるだけデカくなったりとか」

「それにしたってデカくなりすぎだろう。石油王にでも飼われてたんか」


 これだけでもドン引きだし、実に食欲旺盛そうでウンザリだが、


「待て、ということは」

「そうだ」


 唐突に割り込んだのは敷島課長。

 普段から硬い表情の顔立ちだが、今は一段と渋い。


「あれは市民のペットだ。江東区北砂(きたすな)3丁目のご家庭から、『ペットのギョンちゃんが脱走した』と通報があった」

「本当にペットだったんですか……!」

「よく今までバレませんでしたね。地下に核シェルターでもあったのかな?」


 粟根の疑問はもっともだが、そこはもはやどうでもいい。

 一番の問題は、続く課長の言葉。



「よって本庁からは、『可能なかぎり拳銃を使用せず、生け捕りにすること』とのお達しが来ている」

「あのプテラノドンみたいなヤツをですか!?」

「麻酔銃なら使っていいとは言われている!」

「あのプテラノドンみたいなヤツにですか!?」



 絶対言っている方も無茶だと分かっているだろう命令だ。


「まぁあんなの拳銃があったって歯が立ちませんし」

「じゃあ麻酔銃なんてもっと無理じゃないか」


 粟根の言うことも事実だが、そういう話じゃない。

 あんな怪獣、手段を選ばずやってもどうなるか分からんというのに。

 小田嶋が休職中なのを知らんのかもしれんが、捨て駒みたいな命令だ。


「では課長、どうするんですか?」

「……」

「課長?」

「……」

「課長!」

「ダメだこりゃ」


 粟根がのんきに爪へマニキュアを塗りはじめる。


「おまえはおまえで、よく怪獣を前にそうしてられるな」

「死に化粧は大事ですし」

「オレより絶望してた」


 もしかしたら中継を見ていたみんなのリアクションが冴えないのも、

 係長たちが後ろでプロレスしてるのも。

 絶望の向こうにある逃避行動なのかもしれない。


 係長が上総にキャメルクラッチしているのも、

『生物は死が迫ると子孫を残す本能が高まり性的興奮を起こす』

 というヤツで若い男に組み付いているのかもしれない。


 そんななかフリーズしている課長だったが、


「だ、大丈夫だ」


 ついに再起動を始める。

 しかも吐き出した文章は『Error』ではなく希望ある一言!


「おぉ! 何か策が!?」

「私たちどうすれば!?」


 さすがこの絶望的職場ダンジョン課のまとめ役、ベテラン警部!

 迷える我々若造に指し示されたる指針は、



「どうせ今はどうもできん」



「「ええええええ!!??」」


 目の前の怪獣とオレたちの視線から逃げるように、課長はクルリと背を向ける。

 それを粟根は回り込んで前から、オレは背中側から回転させる。


「それのどこが大丈夫なんですか!」

「かちょお〜!」


 今度はオレが前から、粟根が後ろから課長の肩を揺するが、


「ふっ、甘いな熱血刑事(デカ)1号2号」

「その呼び方はトラウマなのでやめてください」

「流行らなかった昭和の特撮ヒーローみたいな名前付けないでください」

「たしかに『警察はいざというとき動かないからダメなんだ』でバズったおまえの気持ちは分かる」

「黒歴史掘り返さんでください」

「オレだって妻と大学生の娘がいる。守るべきものがある」


 課長は無駄にキリッとした表情を作る。


「だから正直、娘が卒業するまでは危険な目に遭いたくないし、命だけはお助けいただきたいんだが、あんなの放置できないし、背に腹はかえられないし……」


 と思ったらすぐに目を逸らしてウジウジしはじめた。


「分かりました分かりました」


 オレは独身なだけに、所帯持ちの悲哀がよりお辛く映る。

 とにかく宥めに掛かるが、


「じゃあさっさと突撃したらいいじゃないですか」

「粟根ーっ!!」


 まだ所帯とか考えない若さの娘が遠慮ない一撃を浴びせる。

 しかし課長は首を左右へ振る。


「だがそうはいかん事情があるのだ」

「家とエアロドンの進行方向が違うから別にいいやってことですか?」

「粟根、もう少し遠慮ってのをだな」

「いや、それよりもっと重大な問題だ」


 さすが課長、心が広い。粟根の失礼な発言も気にしない。

 きっと思春期の娘さんにもっと厳しい言葉を浴びせられたりしたんだろう。


「それはだな」

「「それは……」」


 迫真の表情と溜めに、我々も思わず唾を飲む。

 衝撃の内容は、



「これ以上進むと清澄署の管内に入ってしまうからだ!」



「「は?」」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

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