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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
ダンジョン前署へようこそ
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バズ・ライトスタッフ

「えー、ダンジョン前署・ダンジョン課長の敷島(しきしま)だ。二階警部補、とりあえずようこそ。歓迎する」

「お世話になります」

「だが……」


 ようやく戻ってこれた警視庁ダンジョン前署庁舎。

 そのダンジョン課ブース、課長のデスク。


 ナイスミドルで実直そうな課長はドン引きしている。

 初見で『ドン引きしているのに実直そうだ』と分かるのだ。

 これは相当できた人間でいらっしゃるだろう。


 その人間が露骨にドン引きしている。

 これはドン引き中のドン引きだろう。


 そこまで酷いらしい。

 オレのやったことと、


 右頬の青アザは。


「早速事件を解決してくれて感謝する、べきところなのだが」


 彼は気まずそうに、デスクに備え付けの電話へ目を向ける。


「本庁より、『動画投稿サイトの配信内にて、警察官が市民相手に暴れている。いったいどういうことか』とお叱りの電話があった」

「あれは公務執行妨害の現行犯逮捕であって、暴れてたんじゃありません!」


 粟根が擁護してくれるが、


「我々が訓練する逮捕術に『右ストレートで突っ込んでいく』というものはない。そもそもあんな凶器を持っている相手に、素手で突っかかるのは危険すぎる。我々には可能なかぎり殉職を回避する義務がある。あの行為は市民に間違った印象を与え、若手の警官にも悪影響だ」

「おっしゃるとおりです。熱くなりすぎました」

「二階さぁん……」

「上総巡査長も負傷したんだ。そのことについての責任はある」



 あのあとオレは昭和が過ぎる解決法に乗り出し、そこそこ面倒なことになった。

 と言っても、少しはオレの言葉が響いてくれたのか。

 そんなガチな抵抗はされなかった。


 だが向こうも張り合った手前、まったくの無抵抗もバツが悪かったのだろう。

 つい反射的に手が出てしまった。


 それを見て、すでに助太刀に入っていた上総がヒートアップ。

 本気のパンチを繰り出し大剣の峰で受けられ、思いっきり手首を痛めた。

 今は係長に手当てしてもらっている。



「まぁ今回は不問となったが、こういうご時世だ。特に我々の現場は、最近流行りの配信者がどこで撮影しとるか分からん」

「以後、気を付けます」


 説教こそあったが、課長は一定の理解を示してくれているようだ。

 素直に返事をすると、安心したように鼻から息を抜く。


「では、ここで課のみんなに紹介、と行きたいところなんだが。悪いが被疑者の聴取に当たってくれ」

「自分がですか」


「『君になら話す』と言っている。頬の手当てが済んだら始めてくれ」


「はい」



 一旦デスクに戻ると、粟根が係長から湿布をもらってきてくれた。


「貼ってあげます」

「自分でやれるよ」

「いいからいいから。それより、今日から相棒になるデスクの座り心地はいかがですか?」

「あぁ、転んだ腰に優しいよ」


 どうやらデカいサイズの湿布をもらってきたらしい。

 彼女は青アザと睨めっこして、サイズを合わせるべくハサミを取り出す。


「そういえば、二階さん」

「なんだ」

「『エラそうにならないために、警察官は立ち向かわないといけない』ってお話。あれ()()()()よかったです。私感銘受けちゃった」

「……言った端から、説教垂れてしまったな」


 一番恥ずかしいヤツである。

 だが、あの明け透けでテンション高めな娘が()()()()こぼすのだ。

 我ながらいいことが言えたのかもしれない。


「みんなそう思ってるみたいですよ?」

「みんな?」


「あの現場、ずっと配信されてたでしょ? なので二階さんのお話も一緒に流れまして。コメント欄は大盛況ですよ?


『信頼は大事』

『全ての警察官に、この思いは忘れないでいてほしい』

『熱血警官現る』

『昭和の()()()がする男』

『やだ、イケメン……(トゥンク)』

『自分はまだ若いと思ってそう』


 などなど!」


「……いろいろ言いたいことはあるが、オレは平成生まれだ」


 変なコメントも多かったが、ツッコんでいたらキリがない。

 そもそもオレが細かく答えるまえに、


「ま、今日は『新人さんようこそ』と名物刑事(デカ)誕生を(しゅく)して! 夜は()()()()で歓迎会と行きましょう!」


 粟根は話を切り替えてしまった。


「口の中切ってるから、熱いのは勘弁してほしいんだが」

「ノンノン、ダンジョン前署の宴会はもんじゃと決まってるんです。商店街に出たら、もんじゃのお店が60はありますから!」

「多いな」

「ウチに来たからには、お気に入りの店を見付けるのがルールですからね!」

「それはちょっと」

「なんでですか」


 どれだけもんじゃ愛が深いのか。

 ちょっと遠慮しただけで、初の冷たい目線を向けられる。


「なんでって、初日からこれじゃあなぁ。今回はなんとかなったが、普通に危険すぎる。勢いで行ったヤツの言えたことじゃないが、命がいくつあっても足りんよ。早いとこ実績を上げて、死ぬまえに本庁へ……」


「うるさい。しゃべらないで。湿布貼りにくい」

「えぇ……」



 どうやらオレが放り込まれた職場は、ダンジョンに負けず厄介な穴らしい。

 保険を見直した方がいいかもしれない。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

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