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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
バズりの功罪!? 二階宗徹密着取材
32/57

張り込み

 さすがにコスプレで張り込みはできない。

 更衣室でスーツに着替えていると、後ろに気配がする。

 他のメンツは割り振りがあるから、その正体は


「今回ばかりは付いてくるな」

「でも」


 予想どおり、帰ってきたのは畠山の声。


「『自分も仕事だから引き下がれない』そう言いたいんだろう」

「えぇ、まぁ」

「ならオレは逆だ」

「へっ?」


 振り返ると、彼は相変わらず青ざめていた。

 オレの発言にか表情にかは分からんが。


「見たら分かるだろう。今のオレのどこに、職責を果たす組織人の姿がある」

「えっと」

「ここにあるのは、一人の男とその暴走だ。相手は爆弾魔だ。



 保証せんぞ」



 今度は意識的に圧を込める。

 すると畠山の背筋が伸びる、いや、硬直する。


「ここまででじゅうぶんネタになる『熱血刑事(デカ)の暴挙』だろう。それ書いて満足しろ」


 着替え終わり、すれ違いざまに肩を叩くと。

 付いてくる足音はしなかった。






 勝どき三丁目、清澄(きよすみ)通りから東仲(ひがしなか)通りの方へ折れた路地。

 そこにあるのが『Bar KYOHGOKU』。


 カウンター席の目立たない最奥で、オレはバーボンの入ったグラスを握り締めている。


 勝どき・豊海町のバーで、毎晩必ずボブ・マーリーが流れるのはここだけだ。

 もちろん以前に目撃情報があった店に現れるかもしれないが。

 ダンジョン前署の範囲で現れるならここだろう。


 来い。



 来い、桂!!



 現在フロアやトイレにヤツの姿はない。

 じっと出入り口を睨んでいると、


「あっ!」

「しっ」


「アイツら」


 粟根と水崎さんが入ってきた。

 二人はオレを見つけると、足早に来て隣に付ける。


「二階さん確保!」


 スーツの水崎さんはともかく、粟根はメイドのコスプレ。

 制服じゃ張り込みにならないからって()()()()だ。


「おまえらがここの担当か。偶然にしては」

「偶然じゃありません。頼んでここに配置してもらいました。真澄(ますみ)ちゃんが、『二階さんが行くならここだ』って」

「ほう、よく分かったな」


 真澄ちゃんとは水崎さんの下の名前だったか。

 オレと粟根を挟んで向こうの彼女は、自慢げに微笑む。


「セトリにボブ・マーリー、でしたよね? バーとかディスコってスリやら置き引きやらが多いですから。私ちょっと詳しいんですよ」


 なるほど、盗犯係ならではの情報網か

 と思ったが、他の盗犯係が気付かないのなら彼女の視野の広さだろう。この場合は聴覚だが。

 部署で言うなら保安課の方が詳しいはずだし。


「そうか。君が優秀なのは分かった。だからここは任せて他所へ行け」

「そうはいきません!」


 粟根が手錠を取り出す。


「なんのつもりだ。張り込み中だぞ。しまえ」

「二階さんと繋がれてでも残りますからね」

「勘弁してくれ」


 立ち上がった粟根の向こう。

 水崎さんが上体を(かが)めてこちらを覗く。


「二階さん一人で飛び出しちゃったから。みんな怒ってないけど心配してます。だから私たち、あなたを見ておくのも任務です」


 違う係の人に言われると強く出られない。

 いや、そんな遠慮があるなら、最初からこんな勝手はしない。

 彼女個人に『相手に有無を言わせない』何かがあるのかもしれない。

 大学時代、『弟が3人いる長女』の同期がそういう人だった。

 肝っ玉母ちゃん的な。


 粟根も腰を下ろして、オレの顔を覗き込む。


「何か事情があるんですよね? 見てたら分かります」

「二階さんがご自分の事情を通すなら、私たちも私たちの事情を通させてもらいます」


 ルールがどうだ責任がどうだと理詰めで諭されるより、こっちの方が反論しづらい。


「……だったら君たちも何か注文しろ。飲み物なしで居座っている客は怪しい」

「張り込みは溶け込まないといけませんもんね」

「メイドがいる時点で台なしだがな」


 チラリと目線を向けるも、当の本人は、


「二階さんの奢りですか!? 何にしようかな! スクリュードライバーにしようかな!」


 少し心を許すと、すぐにいつもの調子に。

 素直でいい娘だ。


「経費で落とせ。あとアルコールを頼むなら飲むなよ。任務中だ」

「えー」

「じゃあオレンジジュースとかが無難ですね」


 だからこそ、危険なヤマに巻き込みたくはなかった。


 いや、どこまで身勝手なことばかり言うんだろう、オレは。






 とは言っても、張り込みを開始したのは秋の夕暮れにもならない時間帯。

 そうそうバーに客は来ないし、開いている方がめずらしいくらいだ。


 他所から桂発見の報告もない。

 結局ローズマリーポテトなどを頼みチマチマ時間潰して20時。


「張り込みってこんなに無駄な時間長いんですねぇ」

「内勤には経験のないことだったかな」


 この地獄のような地道さ、畠山がいたら非難轟々だっただろう。

 粟根に至っては、飲んでもいないのにフニャフニャ潰れて何度か起こされている。

 まぁ6時間もカウンターで石のようになっているんだ。無理もない。


「ちょっと、ちょっとだけ外出てきます」


 座るのに耐えかねた水崎さんが、11回目のストレッチへと腰を上げたそのとき、


 マーリーではなくディランの『Knockin' on Heaven's Door』が流れるなか、

 ドアベルが控えめに鳴った。

 同時に店内へ姿を現したのは、


「あっ」


 水崎さんが慌てて席に戻る。

 粟根は口元を抑えて、オレの方を見る。


「静かに」


 オレが息だけで答えると、二人は小さく何度も頷く。


 少しでもカウンターに隠れるよう姿勢を低く。

 バー独特の形状のビールサーバーで視線を切るように。

 そうしてわずかな隙間から覗き見るようにして、視界に映る男の顔は、


「二階さん」

「あぁ、間違いない。



 桂だ」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

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よろしくお願いいたします。

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