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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
ダンジョン前署へようこそ
3/57

なぜ警察官は嫌われているのか

 いよいよ取り押さえるのは現実的でない。

 このままでは近寄れない。


「よし、説得しながら接近しよう」

「えー!? やめときましょうや。危ねっスよ」

「配信のコメントでも『おっさん吹っ飛んでて草』とか書かれてますよ。あんまりやると警察の恥です」

「勤務中だぞ。何見てるんだ」


 そもそも電波が入ること自体驚きだが、今はどうでもいい。

 ネクタイを締め直す。


「おーい! そこの二人! 警察だ! ケンカをやめろ!」


 しかし反応はない。

 人が飛ぶほどの風圧なのだから、この距離では音で聞こえないか。

 防刃チョッキよりメガホンが必要だったかもしれない。


「おーい! 警察だ! 一旦止まれ! 話を聞け!」


「げっ! あの人どんどん近付いてくじゃねぇか!」

「止まった方がいいのは二階さんですよーっ!!」


 オレも後ろで見ている側なら同じことを言うが、そうはいかんのが警察だ。


「うおっ」


 また強風に煽られるが、なぁにこの程度。

 数年に一度は更新される歴史的台風の日も、捜査で走り回ってきたのだ。

 背中で語るには情けないかもしれないが、姿勢を低くして進むうち、



「おーい! ケンカをやめろ!」


「誰だおっさん?」



 ついに声が届いたらしい。

 二人は争う手を止め、初めてこちらを認識した。


「危険なので退がっていてほしいんですが」

「その危険行為をやめろと言っているんです。いい歳してケンカするもんじゃない」

「だから誰なんだよおっさん!」

「警察だ」


 ジャケットの内ポケットから手帳を取り出して見せる。

 ときには拳銃警棒よりよっぽど効果的なものなのだが、



「消えな、おっさん」



 オレが摘んでいる上半分を残して、パサッと地面に落ちた。

 相変わらず動きが見えない。


「……公務執行妨害で()()()()()()たくはないだろう」

「やれるもんならやってみろや」

「あのな。おまえの配信見てる人が、心配して通報してくれたんだ。理由があっても力があっても、やっていいことと悪いことがな」


「うるせぇ!」


「ぬあっ!?」

「二階さんっ!」


 どうやらまた吹っ飛ばされたらしい。

 剣が直撃まではしなかったが、さっきより至近距離。

 風圧も凄まじく、派手に宙へ浮いた。


「大丈夫ですか!? 二階さんっ!」

「怪我ねっスか!?」

「腰を打ったかもな、いててて」


 粟根と上総に助け起こされるオレに、ブレザーの方が吠え掛かる。


「調子乗んなよエラそうに! 実際警察がどんだけ偉いってんだよ!」


 ケンカに割り込んだとはいえ、見知らぬおっさんに凄まじいまでの攻撃性だ。


「あーあーあーもうヤベぇよ。素子ちゃん、夏菜奈(ななな)さんは?」

「夜番明けだったから、今頃仮眠室で寝てるんじゃないかな」

「こりゃもうダメっス。退がりましょう二階さん」

「配信のコメント欄でも『いいぞもっとやれ』とか、『公権力の犬をエノコロ(めし)にしてしまえ』とか書かれてますよ」

「うひゃー、警察って嫌われてんなぁ」


 後ろの二人は気持ちが切れているのか。

 あるいは日常茶飯事で最初から諦めがついているのか。

 とにかく問題解決に対する熱意は消え果てている。

 だからこそ、


「何を、言っているんだ二人とも」


 腰の痛みを我慢して、なんとか立ち上がる。

 まだ30代なのに、ギックリになったらどうしてくれるんだ。


「そんなんだから、嫌われるんだ」

「いきなり何言ってんスか!」

「いや、何言ってもいいけど危ないから退がって!」


 ブレザーの方に向かおうとしたところ、粟根に袖をつかまれる。


「二人とも、心配して止めてくれているのは分かる。だがな」


 軽く腕を振るうと、彼女の手が離れるとともに袖のボタンが取れる。あぁ、一張羅(いっちょうら)が。


「なぜ警察が嫌われているのか、分かるか」

「えっ」

「急になんの話スか」


 背中を向けていても表情が分かるような、抜けた返事が聞こえる。

 まぁ、当然のリアクションだろう。


「いろいろ乱暴なイメージがあるから?」

「あるな」

「公務員は税金ドロボー的なアレっスか?」

「かもなぁ」

「ネズミ捕りのやり口がセコい点数稼ぎにしか思えないから?」

「思われてもしょうがないな」

「全部じゃないスか」

「全部だ」


 よく分からん問答をしながら近付いてくるからだろう。

 配信者二人も手を止め、怪訝(けげん)そうな顔でこちらを見る。


「次に、『偉い人』と『エラそうなヤツ』の違いを知っているか」

「今度はなんスか」

「知識があるか()()()()()()か?」

「違う」

「今度は違うんだ」

「態度がデケぇとか?」

「本当に偉い人は格上なのだから自然な序列だ」

「えー」


「正解はな、『いざというときにやってくれるかどうか』だ」


 ブレザーの青年の眉が、少し動いただろうか。


「いつも上から目線なのに、結局は口だけ。だから『エラ()()』なんだ」

「なるほ、ど?」

「逆に警察は、いざというときに市民を守るから。税金が使われるのも少し強権的なのも、『いざというとき必要だから』と負担してくれるんだ」

「それは、そっスね」

「だが現実はどうだ」

「はい?」


「おまえたちが言ったようなことをしておきながら。


『ストーカーがいても対処してくれない』

『性犯罪に遭っても「君も悪かったんじゃないのか」と言われる』

『痴漢冤罪から救うどころか助長する』。


 そんな話ばかりだ。『いざというとき』に何もしちゃくれない」


「たしかに……」

「そう、かもしれませんね」

「目の前の彼だってそうだ」


 話題を向けると、ブレザーに包まれた肩が分かりやすく跳ねる。


「な、なんだよ!」

「この格好の青年、いや、少年と言ってもいい。それがこんな朝っぱらからダンジョン配信だ。学校も行かずに」

「悪いかよ!」

「『悪い』として嫌な態度の警官に補導されたこともあるだろう」

「っ」

「なんならイジメや家庭環境。こうなる原因があったのに、そのとき警察が助けてくれなかったのかもしれない」


 彼は露骨に目を逸らした。

 オレだって交番勤務時代、家が貧乏で援交する女子高生に関わったことがある。


 ロビンフッドのアラフォーも渋い顔をしている。

 似たような経験があるのかもしれない。平日の昼間に中年男性が出歩くと職質される、なんてこともあるし。


「そういうオレたち組織が(つちか)ってきた不信感、ツケが。彼の態度であり、コメント欄の市民の声なんだ」

「二階さん……」

「若い君たちの責任ではないが、警察官なら背負わなければならない事実なんだ」


 講釈垂れているうちに、大剣だったら届く間合いに入る。

 もし振られたら()()()()()()アウトだ。

 言うだけ言って手も足もでない、まさに『エラそう』なのはオレか。

 だが、


「だからな」


 さらに一歩踏み入ると、ケンカしていた両者は完全に、オレに対して身構える。



「ここで『危険だから』と逃げたらな! また警察は『何もしてくれないエラそうなヤツ』になる!」



 仕方がない。

 オレも右の拳を握る。

 空手もボクシングもやったことはないし、機動隊にいたこともないが、


 やるしかない。


 なぜなら、




「そうならないためにも! 市民の通報があったからには、オレたちは立ち向かわなければならないんだーっ!!」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

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よろしくお願いいたします。

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