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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
バズりの功罪!? 二階宗徹密着取材
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踊れない大包囲線

 些細な写真を撮られたことなど忘れた数日後。

 まだ冷え込む気配のない朝の街を、勝どき駅から署へ向かっていると、


「ん? な……、



 なんだあれは!?」



 玄関前から大通りの歩道まではみ出す人だかり。

 まるで開園直前のテーマパークである。


 これではパトカーも出れないし、何よりオレが出勤できない。


「すいません、ちょっとどいてください。ちょっとどいて」


 意を決し、ラガーマンもびっくりの壁の中へ切り込んだそのとき、



「二階さん!? 二階宗徹警部補ですか!?」


 誰か叫んだ。

 その瞬間、



「おわーっ!?」



 辺りを埋め尽くす人、人、人が、オレに向かって凝縮し始める。


「なんだなんだなんだ!」

「二階さん! 『サマベジ』小田嶋巡査部長との関係は、週刊誌に載っていたとおりなんですか!?」

「関係って、そりゃ同僚……」



「お二人はいつから交際を!?」



「はぁ!?」


 言われてる意味がさっぱり分からない。

 一つだけ分かるのは、


「おまえら全員マスコミか!」


 向けられる録音機とカメラのフラッシュ。何台か中継用のゴツいのも見える。

 いつかのデジャブが、異様にパワーアップしている。


「やっぱりこちらに来られてからですか!?」

「それとも、小田嶋巡査部長が配信者として活動なさっていたころから!?」

「そもそも『サマベジ』はいつから警察に!? 突如配信活動を終了した直後からでしょうか!」

「二階さんはいつごろダンジョン課に!?」


「オレは聖徳太子じゃないぞ!」


 どうせ答えたって聞いてないだろ、な圧力と物量の質問に襲われていると、



「二階さーん!」



 ヘルメット、防弾チョッキ、ライオットシールド、警棒

 機動隊じみた装備の粟根と上総、その他ダンジョン課のみんなが突撃してくる。


 あまりの勢いに、さすがのマスコミも少しビビったらしい。

 ざわついて壁にわずかな隙間が空く。

 そこに警棒とシールドで割り込み、上総が電撃戦でオレまでたどり着く。


「大丈夫っスか二階さん!」

「あぁ、なんとか。おまえら暴徒鎮圧って感じだな」

「感じじゃなくて暴徒ですよ!」


 マスコミへ盾を向け、その後ろで縮こまる粟根。

 透明なポリカーボネートをベシベシ叩く連中の手はゾンビ映画にも見える。


「さ、二階さん、こっちです」


 オレの手を引いてくれたのは、よく見ると盗犯係の水崎さんだった。

 ヘルメットで気付かなかった。

 どうやら強行犯係だけでなく、課員総出で救出に来てくれたらしい。


 もはや総力戦じゃないか。






「みんな、助かったよ」


 なんとか地獄を抜け、ダンジョン課へ逃げ込むと、


「よく来れたな、二階」

「大変なことになったわね」


 敷島課長と日置係長と、



「おはよう二階さん」

「おはようございます……」



「お、おう」


 見るからに不機嫌な小田嶋が椅子に。

 畠山は床に直で正座をしている。


「お、おまえ、小田嶋を怒らせたのか!」

「二階さんが『祠壊したんかおじさん』になってる」


 粟根が軽口を挟むと水崎さんがエルボーで黙らせるほどの空気感。

 だって小田嶋の目が開いてるもん。バッキバキだもん。

 しかもノーネクタイのシャツの首元は、第2ボタンまで吹っ飛んでいる。


「おまえも、エラい目に遭ったのか?」

「記者に引っ張られてブチッ」

「おぉ、もう」


 それも大変な話ではある。

 が、


「畠山」

「はい……」


「正座させられてるってことは、おまえに何か原因があると見ていいな?」


「はい」


 すると小田嶋がオレのデスクへ冊子を投げる。


「なんだこれ」

「昨日発売の『週刊ニュータイム』」

「ほーう」


 パラパラ捲ると、折り目を付けられたページがあるようだ。

 そこにはあの日小田嶋にタバコの火をもらったときの写真と、



“話題の熱血デカ、元人気ダンジョン配信者『サマベジ』と熱愛シガレットキス!!”



 の見出し。


「どうなってるんだ」

「すいません! つい盛ってしまって!」

「ついじゃないだろう!」

「すいません!!」


 が、起きてしまったことは仕方ない。

 散々小田嶋からも詰められたことだろう。

 オレからはよしておくとして。


「にしたって異常だろう。まだタレントにもなっていない、せいぜい話題の一般人だぞ? 冴えないおっさんだぞ? そんなヤツの恋愛事情、誰が気になるもんなんだ」


 すると粟根が首を斜めにする。


「まぁ世の中にどれだけ二階さんガチ恋勢がいるかは知りませんけどね? あのマスコミ、全部が全部二階さんに群がってるわけでもないです」

「お、そうなの?」


 一瞬喜びが口から漏れそうになったが。

 なんか周囲の視線が濁っているので飲み込んでおく。


「夏菜奈さん、配信者やめたあとSNSとかも更新してなくてですね。多くのファンからしたら、突如消えた有名人なんです」

「ほうほう」

「それがこのたび、こんなところで見つかった。しかも『前職のスキルを活かして特殊な組織で働く』なんてかたちで」


 たしかに字面を聞く分には、テレビバラエティのタネにはなるか。


「それでマスコミは思ったみたいで。『他の課員も、探ればおもしろい来歴持ってるんじゃないか』って」

「あー」

「なのでお二人だけじゃなくて、大体みんなマスコミに囲まれましたよ」

「それは、なんというか、申し訳ない」

「本当に申し訳ありません……こんなことになるとは……」


 畠山はとても小さくなっている。

 彼とて悪気はなかったのだろう。同情はしないが、かわいそうではある。


「まさか事件事件言ってたおまえが、プチ事件起こすとはな」

「課長、その辺にしておきましょう」


 何より彼はまだ若いのだ。失敗もするだろう。

 それを引き受けてやるのが、おっさんたる自分の役目だと思う。

 世間で聞くマスコミの暴挙に比べたら、反省しているだけコイツはマシだし。


 まぁその理論を他の若い課員にも強いるのは酷な話だが。


「いいか畠山くん。おまえが取材許可を得ているのは、あくまでオレだ」

「はい」

「迷惑掛けちゃいかんのは前提として。それでも何か起こしてしまうにしても、オレまでだ」

「はい」

「軽い気持ちの記事が、思った以上に大きくなると勉強になったろう。これからの記者人生、心に刻むんだぞ」

「承知しました」


 これが演技でなけりゃ素直な子だ。

 詰めすぎて反感を買うよりは、優しく牽制する方が気を付けるだろう。


 周囲を見て『これでいいか?』と反応を伺うと、

 みんな『やれやれ』と腕組み八の字眉で頷いてくれた。


 畠山の落ちた肩をポンポン叩いてやるのだが、



 まさかこれ以上大きくなるとはオレ自身思っていなかった。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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