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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
目的不明理解不能!? SNSチェスト速報アカウント
23/57

使命とは

 粟根が口元を抑える。


「だから『何人集まるか』を観察していたわけだ」

「注目度上がるよう中身を釣り上げていたのも、ですね」

「でっ、でもっ!」


 かと思えば、今度はオレのコートを引っ張った。


「そんなことして何になるんですか!? モンスターの生贄なんか用意して、別に人間が得しませんよ!?」

「そうだな。だが人類の歴史上、即物的な利益だけが犯罪の動機と限らないない。殺すのが目的のヤツとかな」

「ひっ!」

「なんにせよ、非常に計画的で、強い意思があることは確かね」


 小田嶋が低い声で唸る。


「SNSでの投稿もそうだけど。アレはあくまで『ドラセナ』だから」

「オレは観葉植物に明るくない。詳しく頼む」

「ドラセナはアフリカ原産の亜熱帯植物です。そもそもこのBランク層、ましてや日の当たらない洞窟なんかにいるわけがない」

「百戦錬磨の探索者が来ようと、いや。詳しいヤツにこそ警戒されない、ということか」


 ヤツ自身Bランクに出入りする実力者ながら、知能犯でもあるらしい。

 これはなかなか困ったことになったかもしれない。

 こちらには小田嶋がいるとはいえ、油断はできない。


「でも現状はまだ、罪になることは何もしてませんよ? 任意同行で引っ張りますか?」


 粟根は恐れているからこそ、解決を急いでいるようだ。

 しかし、


「そうするにしても、ここでは無理だ。アイツはエナジーだかを吸い取るんだろう? 今は近寄れん」

「洞窟を出てからにしましょう。向こうが抵抗してきたら、状況が悪すぎる。洞窟での戦闘は常に崩落との()()()()()だから」


 小田嶋の賛同も得られた。

 差し当たっての方針が決まった、


 というタイミングで、



 つーっ、と天井からクモが糸でバンジー。



 粟根の鼻先に触れた。



「あぎゃああああ!!??」



「バっ、バカっ!」


 だがこれは正直仕方ない。

 何より、



「誰だっ!!」



『ミミッくん』がこちらを振り返る。

 今さら(たしな)めてももう遅い。


「伏せて!」


 小田嶋が叫ぶと同時、


 甲高い音が響き渡る。

 おそらく伏せるのは間に合っていない。

 目の前にいくつかパチンコ玉が転がっているのを見て、これが飛んできたのだと察する。


 向こうはスリングショットを持っていない。

 おそらく指で弾いたのだ。

 それで拳銃みたいなスピードを出したというのか。


 かつ、小田嶋はそれをメイスで叩き落としたらしい。

 超人的な世界だ。


「どうする」

「むしろ都合がいいでしょう」


 小田嶋は一旦角に身を隠しつつ、大声で吠え掛ける。


「こちらは警視庁ダンジョン前署の刑事です! 投降しなさい!」


「くそっ、警察か!」


「危険なダンジョン内ですから、反射的に攻撃したことについては不問とします! しかしこれ以上抵抗する場合は、公務執行妨害の現行犯となります!」


 小田嶋はまだ『何罪がある』『逮捕する』とは言っていない。

 しかし向こうは、


「こんなところで捕まるわけにはいかないんだ!」


 こちらへ出てくる様子はない。

 どころか、『捕まるような覚えがある』と白状している。


「クロだな!」

「確保しましょう」


 少しおとり捜査っぽくなってしまったが仕方ない。


「行けるか」

「そうですねぇ」


 小田嶋はコンパクトを取り出し、フロアの様子を窺う。


「彼、『ドレイン・ドラセナ』の近くに陣取ってます。相手が最低Bランク、より高ランクの探索者である可能性も考えると……」

「ドレインされるまえに制圧、という確証は持てないか」

「えぇ。なので少しのあいだ、ドラセナを黙らせてくれると助かります」

「拳銃でいけるか」

「じゅうぶん」

「よし」


 粟根も拳銃を取り出すが、危ないので退がらせる。

 顔を出した瞬間にこちらが撃たれる可能性もあるのだ。


「3、2、1、行くぞ!」

「はい!」


 勇気を振り絞り、角から身を出し一気に3発。

 小田嶋の安全が掛かっている。ちゃっちゃと済ませて引っ込むより、狙いを定める方に集中したのだが、


「ちぃっ!」


 相手の左手からもパチンコ玉3発。

 ものの見事に弾き飛ばされる。

『ドレイン・ドラセナ』の防御を優先したようだ。


 小田嶋はその隙に踏み込もうかと思ったようだが、

 向こうの右手は自身に向いている。

 牽制で一塁に戻る野球選手のような動きで、角の向こうへ退避した。


「くっ! 探索者ってのは厄介なヤツしかいないな!」

「どうしましょうね」

「そもそもアイツはどうしてドラセナの近くにいて平気なんだ。そういうシャツでもあるのか」

「ありますよ」

「小田嶋も持ってるのか」

「持ってるので、官舎から取ってくるまで持ち堪えてもらえます?」

「冗談!」


 ()()()()()()()()いかない会話に、退がらせていた粟根が首を伸ばしてくる。


「じゃ、じゃあ私も参加します! 3人で行けば、相手も腕は2本だからさすがに!」

「却下だ。危険すぎる。殉職されては困る」

「それは二階さんだってそうなんだから、私だって!」


 ムキになる粟根。


 三十路のおっさんが、若い娘にこんなことしていいか迷ったが、


「今のおまえじゃ、同じ条件では語れないぞ」


 ピストルを握る手を、そっとオレの手で包んだ。


 明らかに震えている。

 小刻みに、しかし強くて、ギュッと握るとようやく止まるほどだ。

 おそらく震えは手だけではないだろう。


「その足で機敏に動けるか? あまり心配をさせるな」

「でもっ! 私も警察官です! 警察官の使命が!」


 だが彼女は食い下がる。

 体と頭はこれだけ恐怖しているのに、心だけはガッツを忘れない。

 真に強い人間なのだろう。

 だからダンジョン課にいて、必要とされている。


 だが、


「いいか粟根。使命という字は『命を使う』と書くがな。これは『命を使っても果たさなければならない』じゃない」

「え」

「『命はなければ使えない』から『使命』なんだ。市民のために命を投げ出すのが警察官だとしても、生きていなければそればできない」


 粟根の澄んだ目がオレを見ている。

 自分をおっさんおっさんというのなら。


 オレは年上として、先輩として。

 澄んだ目へ映るに、ふさわしい人間であらねばならない。


「だからな。やたらに命を張るというのも、使命を蔑ろにしているんだ。できることをしろ。できないことで犠牲になるな。無理なときは無理せず、ここは堪えろ」


 彼女の震えが治まるのを手のひらで感じていると、


「『無理』せず『堪えろ』って」


 小田嶋が空気を読まずに軽く吹き出す。

 あるいは、空気を読んで湿っぽいのを吹き飛ばしたのかもしれない。


「熱血刑事(デカ)語録カレンダー、来月分は決まったとして。さて、どうしましょうかね? あのコンビ」


 そう。

 カッコつけたことを言っても事件は解決しないし、

 立派な先輩を目指すなら、ここを乗り越えなければならない。


「そうだな、そのカレンダーのことは知らんが」


 粟根だけではない。

 小田嶋にとっても、頼れる年上、同僚でなければならない。



「オレに少し考えがある」



「ほう」

「元最強探索者のおまえを見込んでな。おまえならできる」

「いいでしょう」



 そのためには、頼れる同僚に頼る姿を見せるのも大事だろう。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりドキドキしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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