表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
ダンジョン前署へようこそ
2/57

This is 飲茶目線

 館内放送が響き渡る。

 この瞬間ばかりは、軽口も澱んだ空気も緊張感に支配される。


『探索者同士がケンカを始め危険な状態であると、配信の視聴者から通報がありました。ダンジョン課の捜査員は、ただちに現場へ急行してください』


「来て早々事件か」

「それもなかなかヘビーなヤツです」

「ヘビー」


 ケンカの仲裁が、か。

 そりゃ刑事課が出ることもあるが、基本的には地域課で片付いてしまう()()だ。

 事件と言うほどでもない。


 それを、刑事課と同じことをするというダンジョン課が?

 強行犯係などは、殺人犯も相手にするのだ。

 なんぞケンカごとき


『なお、うち1名は全長2メール前後の大剣と思われる凶器で武装しており……』


「……」

「……」

「これが」

「『規模がダンジョン』」

「防刃チョッキで防げるんだろうな?」

「刺されてみないことにはなんとも」

「……」

「……」






「別に付いてくることはなかったんだぞ」

「でも二階さん来たばっかりじゃないですか。ダンジョンの場所知らないでしょ?」

「だからって君は内勤だろう。バケモノみたいな武器持ったバケモノがいる現場にまで。しかも」

「しかも?」


 あれからオレは粟根巡査の案内|(運転は自分)で、パトカーで飛ばして5分。


 人生初ダンジョンを訪れていた。


 どうせなら仕事以外で来たかったところだが、



「……やっぱり防刃チョッキは着てくるべきだった。生きて帰れるのか?」



 特撮映画でしか見たことがないような怪鳥が空を飛ぶ(まずもってなぜ層状の地下構造物で青空が見える)、


 極彩色のジャングル。


 プライベートで来ることはなかったろう。なんか変なヘビとかサソリもいるし。

『どうせジャケットなど無意味』と拳銃だけ持ってきたが。

 明らかに判断ミス。

 そもそも新入りと内勤が来る場所じゃない。最低でも藤岡弘、からだ。


「気を付けてください。そのタンポポ、汁が掛かると3日は寝れなくなります」

「タンポポコーヒー、なんてのはあるそうだが……」


 他にも触って平気かも分からない背の高い草が道を阻む。

 マチェーテなんかも欲しい。


「うおっ!? なんだ、カエルか。脅かしやがって」

「そのカエル、さっきのヘビより毒性強いんで。皮膚が水疱まみれになって剥がれるよ」

「……簡単に驚きを更新しないでもらえるか?」


 一周回って緊張感があるのかないのか分からない話をしていると、


「お」


 獣道の先に、岩陰でしゃがむスーツの男が。

 あらかじめ警察手帳を掲げてから、そっと声を掛ける。


「君もダンジョン課か?」

「あ、はい。上総(かずさ)遼太郎(りょうたろう)巡査長っス」


 振り返った彼は、力強い目元だが青年の顔立ち。

 なるほど、人が定着しないのは本当らしい。


「二階宗徹、階級は警部補だ」

「はぁ。それより『君()』って、知らねぇ顔っすけど」

「本日付でダンジョン課強行犯係に配属となった。よろしく」

「あっ、うっス」

「それで、状況はどうなんだ?」


 上総巡査長にならって岩陰にしゃがみ込むと、


「いやぁ、オレらじゃどうしようもねえっス」

「ちょっと、私見えない」

「危ないから見なくてよろしい」


 ちょっと開けた場所、

 あるいはケンカで更地になった場所にて睨み合う2名の男。

 片方は一見未成年で、もう片方は推定アラフォーか。


 何より、


「いやしかし」

「オレも初めてダンジョン課来たときゃ、『弟とやり込んだゲームにこんなヤツいたぞ!』ってなりましたけどね。すぐに慣れますよ」



 昔見た舞台劇のロビン・フッドみたいな緑マントが投げる短剣を、

 学校帰りみたいなブレザーとスラックスが、大剣で薙ぎ払う。



「そして、慣れるまえに大半がいなくなるのもよく分かる」


 一応これでも警察官、剣道の段持ちだが。

 それでもまったく動きが追えない。

 あれを手錠や拳銃でどう解決しろというのか。


「どうしたもんスかねぇ、警部補ドノ」

「新人には皆目見当も付かん。しかしここで縮こまっているわけにもいかんだろう」


 言っても相手とて人間なのだ。

 案外話せば分かるかもしれない。

 刺激しないよう()()()()ゆっくり顔を出すと、後ろから


「気ぃ付けてくださいよマジで!」


 声が掛けられる。

 ということは、付いてこないらしい。まぁ気持ちは分かる。


「なぁに、危なかったらすぐ逃げる」

「違いますよぉ! 向こうは配信中だから、変なことしたらSNSで『警察はクソ』とか書かれちゃう! ダンジョン配信者は信者多いし!」

「オレ『今回の新入り、一週間は()つ』に賭けたんスから! 初日で死なれちゃ、みんなにメシ奢らねぇと!」

「おまえら……」


 なんという『あっ軽い人々(ザ・ライトスタッフ)』。

 真面目にやる気が失せる光景なのは分かるが。


 しかし、こういうときに背中で示すからこその年上である。

 同僚の信頼を勝ち取るためにも、ここは一つ、











「ぬわあああああ!!」



「「二階さーん!!」」



「ななな、なんだ今のは!?」

「大丈夫っスか二階さん!?」

「西部劇で転がってるアレみたいになってましたよ!?」


 自覚はある。頭は打っていないようだが妙な気持ち悪さがあるし。

 何より、初日ということでせっかくクリーニングに出したスーツがこのザマよ。

 確かに防刃チョッキとかは欲しいが、今さら泥で迷彩柄にしろとは言っていない。


「それより、何が起きたんだ。連中がゲーム世界の住人なのは分かったが、何がオレまでバグ挙動させた」

「たぶん大剣振った風圧で飛ばされたんじゃ?」

「えぇ……」


 いや、自分でゲーム世界とか評したが。


 改めて聞くとメチャクチャだ。

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ