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踊るダンジョン左遷  作者: 辺理可付加
二階本領発揮! 元捜査一課の意地
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情報がなさすぎる! こともないけども

角谷(かどたに)浩司(こうじ)28歳。A型、5月11日生まれ。ラーメンチェーン『天下第一』のスタンプカードがほぼ埋まる常連……」

「必要な情報に絞れ。名刺とかは入ってないか? 連絡先とか勤務先とか分かるような」

「ないっぽいですね。探索者で食べれてる人は、持ってないこと多いですし」


 ダンジョンCランク層の草原エリア。

 その外れで倒れていたのが今回の仏さんである。

 今は所持品から身元を割り出しているところ。


 粟根は相変わらず真面目にやっているのか怪しいラインだ。

 小田嶋に代わってほしいが彼女は周囲を警戒中。


「二階さんは何か分かりましたか?」

「自然死や急な病気じゃないってことはな」

「そんなの私でも分かりますよ」


 うつ伏せで倒れている角谷の背中。


 そこには3筋並行に並んだ、デカくて深い裂傷がある。


「クマに襲われたってこうはならんぞ。いや、クマに襲われた遺体を見たことはないが」

「でもダンジョンなら3倍クマとかいると思いますよ? マンネリ回避か知りませんけど、急に新種とか湧きますし」

「なんだその向上心。最高だなこのダンジョン。誰がコンサルしてんだよ」

「Cランク層ならクマよりドラゴンかなー」


 ある程度安全を確保できたのか、小田嶋が会話に混ざってくる。


「ドラゴンか」

「あのデザイン最初に考えた人、相当ストレス溜まってますよね」

「別に人間ぶち殺したい欲で作ったモンスターじゃないと思うな」

「夏菜奈さんはドラゴンが実在したとおっしゃる?」

「ちょっと黙ろっか」


 あの粟根が黙るなんて、またとないチャンスだ。

 素早く仕事の話を展開する。


「小田嶋、この傷はやはりドラゴンか」

「うーん、そうねぇ」


 彼女はあごに手を添える。武器が危ない。


「ブルードラゴンとかこんな感じですけど」

「そうか。じゃあドラゴンに襲われた事故だな」

「それはどうでしょ」

「なに?」


 小田嶋は傷口に顔を近付ける。

 そういう職業とはいえ、若い娘がよく物()じしない……

 いや、粟根を見ていると自信がなくなってくる。


「技術とパワーがある探索者なら。もっというとブルードラゴン素材の鉤爪とかなら、似たような傷が残せます」

「なんとまぁ」


 ドラゴンとかいう明らかに別次元の傷跡なのに、人による犯行の線が消えないとは。

 ダンジョン恐るべし、奥深し。

 明らかな自然死なのに、毒物による他殺の線を探らされる気分だ。


 そうなると、他もいろいろ疑って掛からないといけない。


「じゃあ小田嶋、ここはどうだ」


 直接触れないようペンで指すのは、角谷の左脇腹。

 正直オレでも見たくないほど、がっつり抉られている。


「なんらかの原生生物に食いちぎられたのか。もしくは犯人がなんらかの証拠隠滅を図って豪快に消し去ったのか」

「少なくとも、ブルードラゴンに噛まれたらこの程度じゃすみません。まず真っ二つがスタートラインです」

「おう……」

「でも、死肉も貪る肉食小型生物もいるにはいます。このエリアではあまり見掛けないけど」

「そうか」


 なんとも判断しきる材料が乏しいなかで、ついに粟根が沈黙を破る。


「ライセンスはCランク。装備はダガーナイフと鎖帷子(かたびら)。携帯がポケットに入っていたので、配信してた形跡はないですね。瞬間を捉えた映像は残ってなさそう」

「なんだ、真面目な報告もできるんじゃないか」

「なんですと!?」


 彼女の成長を喜びたいところだが、情報としては進展なし。

 むしろ一つ捜査の手がかりが潰れたかたちなる。


「どう思います? 二階さん」

「うーむ、なんとも言えんな。ま、どうせ判断は本店の捜査一課がやるんだ。オレたちがするのは、分かったことを連中へスムーズに説明するだけだよ」

「支店なんてそんなもんですよね」


 やはり熱心なタイプではないのだろう。

 粟根は仕事が大きくないことに、どこかうれしそうに頷くし、


「ま、それで事件と判断されたら馬車馬のように働かされるのも所轄だがな」

「げえぇ。事故っぽく伝えましょう」


 職業倫理皆無なことをのたまう。


「それより、報告し終わったらお昼ですよね! せっかく外だし、どっかで食べましょうよ!」

「ちょっと早いんじゃなぁい?」

「そうだぞ。そんなに報告できることは多くないぞ」

「大丈夫。二階さんの奢りならエニタイム食べれます」

「じゃあ仕方ない。スーパーの惣菜パン2つまで選んでいいぞ」

「ノー!! オシャレなランチ!!」


 だがまぁ実際、肩肘張ろうにも張れない状況だってある。



 その後はやってきた捜査員に乏しい情報を説明したり、

「二階、本当にダンジョン課に流されてたんだな」と元同僚に哀れまれたり、

「ま、ドラゴンに襲われた事故っぽいよね」と、めずらしく本庁所轄で反目せず意見が一致したり、

 オシャレなサイ◯リヤでオシャレなランチと洒落込んだりで、


 なんとも気の抜けた感じで今回の件は終わっていった、

 かに見えたのだが。






「お疲れさまー」

「お疲れース」

「おう、おかえり」


 定時まえ。

 一日別件で外を回っていた上総なんかも署に戻ってくるころ。


 刑事なんてのは基本残業祭り、帰れるときに帰るものである。

 そんなわけで、手が空いている同僚たちが粛々と帰宅の準備を整えるなか、


 逆にオレはというと、今朝の事件の報告書作成に引っ張られていた。

 午後でささっと終わらせられればよかったのだが、


・小田嶋に『助けたんだから』と押し付けられた、前回の逃走犯の分

・前々回のケンカ仲裁で殴られたときの労災申請


 と書類が立て込んでおり、なかなか取り掛れなかった。


「まったく、労災くらいサッと出せよな。診断書も提出しただろうが。何回書類出させる気だ。紙の無駄だろ」

「経費も市民の税金だからな」

「ホイホイ出してたらまたネットで叩かれるわ」

「そうそう外に漏れんでしょ」


 やはり中間管理職は帰れないもの。

 帰る気配のない敷島課長と日置係長に愚痴を拾われつつ、


「ま、嘆いても書類は減らん。口より手を動かすんだな」

「はい」


 報告をまとめるべく、改めて現場の資料に目を通していると。



「ん? これは……」



「どうした二階」

「写真にオバケでも映ってた?」

「いえ、そういうわけでは……」

お読みくださり、誠にありがとうございます。

少しでも続きが気になったりクスッとでもしていただけたら、

☆評価、ブックマーク、『いいね』などを

よろしくお願いいたします。

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