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No.40 舞台裏




 死にたくない。あんな目に遭ったのが最期の思い出として刻まれるくらいなら、俺は何でも殺して、死体の血を吸って、全てを糧にして生きてやる。そう決めたのに、俺は出会ってしまった。まさか後に「ああ、こいつと出会わなければ良かった」と後悔することになるとは思わなかったけれど、それでもこの時の俺は絶対に生きてやるという決意しかなかった。


「俺と契約しろ。それが、血をあげる条件だ」


 変な奴だと思った。それに、お人好し。この言葉が一番ぴったりだと感じた。俺を魔族だと知った上で血を与える人間が存在するなんて、それが何を意味するのかも知らないくせに。あっさりと、血に塗れた腕を差し出した馬鹿な人間。その血にはどれだけの価値があることか、こいつには分からないんだろうな。


 俺は人間としても魔族としても、どちらでも生きていけない半端者。そんな俺みたいな奴からすれば、たかが人間を守るだけで生き血を貰えるなんて破格も破格の条件だった。


「お前は魔族でもあるが、人間でもあるだろ?」

「だから?」


 それどころかこいつは血を与えるだけじゃなく従属まで結んだ。メリットなんて何処にもないのに、実は俺が半分人間ということを見抜いていたとか?だとしたら今すぐ手のひら返して天才と呼んでやる。すっとぼけたフリはやめろ。


 こいつは貴族、どうせ腹ん中は真っ黒だ。


「それだけ、で……?」

「それだけ……?それが、どのくらいおかしなことかお前は……!本ッ当に!!何も分かってないらしいな!!ここまで来たらただの馬鹿だ!!いつか本当に殺されるぞ!!このお、お人好しめ!!」


 俺はついカッとなって声を荒げてしまった。しかも貴族に、死にかけの魔族が。魔族は人間の敵だぞ?分かってるのか?この状況で俺を殺さないのも、何もかも、とにかく全部がおかしい。


 おかしくて、気が抜けた。


 従属の契約を交わしたけれど、俺は何一つ後悔していない。半分人間の俺が魔族として一人間の下に付くことが屈辱的なことであったとしても、別に構わない。


 こいつのことは何故か嫌いじゃないし、拉致られた先の屋敷も居心地が良い。このまま、ここで過ごせるなら最高だとすら思った。


 そして、いつか必ず。


 あのクソ共に思い知らせる。俺が生きていたことを知り絶望した姿をこの目で見る。その日までは必ず、ただ生きてやる。俺は、生きるんだ。


「まさかオルフェウスが二人もいるなんてな」


 あの弟の闇属性発現パーティーの日に見た幻影魔法のお陰で思い出した。魔族も人間も嫌いなはずなのにも関わらず、初めて出会った日にルディノアから嫌な感じがしなかったあの感覚。やっぱり、ただの勘違いでは終わらなかった。


 ルディノアから漂う、オルフェウスの香り。まるで花束を抱えて歩いているような、いや、身体そのものが花のような匂いを纏っている。


 これが移り香だって?そんなはずない。そう思っていたけれど、ルディノアの使う魔法は明らかに風属性のものだった。


「でもあの男を吹っ飛ばしたお前の風魔法を見た後だしな…… うーん…… ただあの弟の匂いが移っただけかもしれないし…… 俺の勘違い?かも」


 それでも俺は腑に落ちず、どうしても気になった。そして今日、夏至祭という目出度いらしい日に俺は一つ仕掛けることにした。夜は従者として同行することになっているけれど、それまでは特に何も指示されていない。つまり、こっそりと祭りに参加出来る。


 あの子どもたちが興味を示しそうなものは何だ?と考えた結果、適当に占いでも開くことにした。占い師なら誰にも怪しまれず、変装もし易い。人間如きに俺の変装がバレることはない。さらに店の中は暗闇を作り出せるし都合が良い。


 もしルディノアが闇属性であれば、暗闇に反応して力の源を感じられるはずだ。あの屋敷はオルフェウスの匂いが充満していて、居心地は最高だけど誰の匂いか分からない。


 だからこそ、これはチャンスだった。俺の勘違いであれば検証はここで終わらせる、そのつもりだ。


「っふ、ははっ、気付かないとか…… そりゃそうか、魔法使ってたしな!あーあ、やっぱりお前は…… 」


 間違いない。


 ルディノアは紛れもなくオルフェウスだ。


「だけど何で……?いや、えっ?っ、は……?」


 確信を得た。しかし、それとは別に俺はあることに気が付き、急いで占い師を廃業し店を畳んだ。


 あの弟が無意識で発動させた闇魔法を辿って、影の中へ潜る。すいすい、と泳ぐ感覚が楽しい。半分人間とはいえ半分魔族であるが故に暗いところが落ち着くな。ああ、心地良い。この闇属性特有の花みたいな匂い、でも何か、ん?ルディノアの匂いと少し、いや全然、何かが違う気がする。


 あいつのはもっとこう、まるで花の匂いで酔いそうになるような、たっぷり酒を飲んだ時のような、とにかく最高の気分にさせてくれるような感覚。何か最強っていうか、無敵感というか、あれ、無敵感?


「…… オルフェウスの幼き子」


 間違いない。


 ルディノアは紛れもなくオルフェウスだ。


 だけど、もし。万が一、俺の勘違いがさらに勘違いでは終わらなかったとしたら、それは勘が当たるということで、つまり、そうだとしたら、ルディノア。


 お前は、何で。


「…… 消さないと」


 あの弟が掘り返した墓は、丁寧に掃除された形跡があり見るからに綺麗になっている。どうやら獣人執事が片付けたらしい、ルディノアに頼まれでもしたか。いや、あいつは頼まれていなくても進んで仕事をするタイプだな。それが分かるのが、何か、負けたみたいでムカついてきた。


「…… 言われなくても俺だって、自分の仕事くらい、やる」


 闇魔法の痕跡を消していく。見つからないように。


「…… 俺はお前に逆らえない、し」


 一体、誰に見つかったらいけないんだろうな。


「…… 永遠に消えない痕跡もあるぞ、ルディノア」


 魔族?それとも、人間?


「…… 居る。気配がする」


 いつか本当に殺されるぞ。この、お人好しめ。


〜No.40まで読んでくださった読者の皆様方へ

ブックマーク、感想、評価をありがとうございます。

現在、第三章を書き溜めております。

時間は未定ですが投稿頻度は戻りつつありますので、

引き続き、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

読者の皆様に愛と、心からの感謝を。 氷翠いろ

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