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No.38 夏至祭。四




「…… バレてないだろうな」

「当然だろ?ちゃんと魔法で気配消してるんだから!それに見てくれ、この如何にも従者らしい服装を…… 決まってるだろっ?」


 揺れた影は元に戻り、こいつは何事も無かったかのようにして腰に手を当てている。何処となく、ニコライン殿下みたいなテンションに溜息が出る。


「あっ…… やっぱり、来たんだ…… 」


 ヴィクトールは未だロウトに対して苦手意識があるらしく、少し落ち込んだような表情をしている。その悲しげな声にニコライン殿下が気が付いてこちらへと振り返ってきた。まずい、殿下は光属性だ。この気味の悪い気配に何かを察してしまうかもしれない。


「!貴殿は……?」


 胸に手を当てて、まるであの執事のようなお辞儀をするロウトに寒気がする。見様見真似で覚えたであろう姿に俺の顔は引き攣った。


 喋るなよ、お前は敬語が使えないだけでなく目下の者だ。いくら王子たちが変装しているとはいえ、馴れ馴れしく話し掛けられたら身内である俺が困る。


 しかも魔族、ここ重要。だから黙ってろ、そう思い口を開きそうだったロウトを差し置いて俺はすかさず紹介した。


「あぁ、失礼いたしました。この者は私の従者ロウトです。たった今、合流しました」

「そうかそうかっ!宜しくなっ!」


 ニコライン殿下は突然背後に現れたロウトに対して特に気にしていなさそうだった。花火は上がり続けているしこの人混みだ、気が付かなくてもおかしくはない。さらに殿下の警戒心の無さを都合良く利用させてもらうことにした。皆んなは俺たちの会話よりも打ち上がる花火の素晴らしい光景に釘付けになっている。


「ルディノア、あの弟の夢の件について分かったことがあるんだけど」


 紹介も終え、一つ息を吐き安心しているとロウトはこそっと俺に耳打ちをしてくる。


「馬鹿、聞こえるだろ。後にしろ」

「ん?じゃあ消音すれば良いか?」


 そう言うと、ロウトは俺たち二人の声を周囲に聞こえないようにする何かしらの魔法を使った。


 俺は試しに殿下へ声を掛けるも、こちらへ振り向くことは無かった。半信半疑だったけれど、本当に聞こえていないみたいだった。


「これで聞こえないな?よし、改めて言うぞ!まず、あの弟はやはり魔法を使っていた。それも無意識のうちにな。やっぱりそれは合ってたらしい」


 ヴィクトールのことで分かっていることといえば、無意識のうちに魔法を使っていたこと。そして本人は何の魔法を使ったのかも覚えていない。


 ただ、どんな夢を見たのかは覚えていた。その夢の内容があの小説の物語そのものだったけれど。


「どうやら、自分自身に魔法を掛けていたっぽいぞ。幻影魔法を眠っている間に発動させて見たもの、即ち悪夢に抗う為にまた魔法を使う…… 」


 幻影魔法?闇属性特有の魔法、それを自分に?


「これをずっと続けていると、どうなるか…… 」


 つまり、悪夢は幻影魔法でヴィクトール自身が生み出したもの。あの小説の内容は、ヴィクトールの悪夢の話?いや、え?小説は小説だろ?


「とにかく…… それで魔力が尽きたということか?」


 頭の整理が付かない。小説と現実、夢と魔法の関係に、俺はぐるぐると目が回りそうだった。


「いやいやあの弟だぞ?それだけで魔力が尽きるとは思えない。だから調べてみたら決定的になった原因が分かったんだ!それを早く言いたかっ」

「何だ?言え」


 ロウトの言葉を遮り、答えを急かす。魔力が尽きた決定的な原因、もしそれが物語に沿うものだったとしたら今すぐにでも対処する必要がある。


 俺は、ずいっと顔を近付けて強く圧を掛けるように鋭く睨んだ。


「っ!よ、要は、屋敷から墓まで移動した方法だ」

「あぁ、気になっていたんだ。テレポート並みの魔法だと言っていたよな?」


 テレポートは風属性の高難易度魔法の一つだ。風属性かつ魔力が多い人間にしか出来ない、つまり使える人間が限られている風魔法。それと同等の魔法を教えてすらいないヴィクトールが何故使えるというのか、俺には一切分からなかった。


「そう!今、見ただろ?俺が使った魔法っ!影の中を移動する…… お前がよく使うテレポートみたいな、高難易度魔法?だっけ?それを無意識に発動させていたらしい」


 は?影の中を移動することが出来る、それが闇属性の高難易度魔法の一つにあるだと?


 今こいつの言ったことが事実なら、風属性の得意な移動魔法やテレポートみたいなことが闇魔法でも可能だということか?とんでもないな。


「はぁ、マジか…… 」


 どんだけチートなんだよ闇属性。あまりにも出来ることが多い。闇魔法、強過ぎだろ。流石は光属性の次に珍しい属性なだけはある。


「マジ!それが、魔力欠乏症を引き起こした原因だ!ただ、あの弟は魔力が多いせいで…… ぶっ放し癖もありそうだな!あの闇魔法すら、無意識なんだから」


 ぶっ放し癖、小説のヴィクトールを思い出すと背筋どころか全身が凍るような気分になった。


「お前…… どうして分かった?」

「それは、俺が魔族だから」

「は?一体何の関係があるっていうんだ」


 魔族は闇属性について何故か詳しい、それは流石に俺も知っている。こいつが色々と言っていたからな。


「闇属性の匂い、闇魔法は魅力的なんだよ。はっきり言うと最高で…… その存在がいる場所も何もかも、魔族にとって居心地が良いんだ」

「…… なるほど?」


 確かに。以前、屋敷は居心地が良いと言っていた。ん?待て。さっきの占い師もヴィクトールを見てオルフェウスと言っていた。それに、俺にも。同じように、前に言われた通りなら移り香なんだろうけれど、それに気が付いたということは。


「部屋にある魔法の痕跡を辿ったら墓へ着いたんだ。あの弟の魔力は量も質も、凄まじく良い。間違いなく魔族に好かれる」


 限りなくそうに違いない。つまり、小説に出てくる厄介なモブだと思っていた、あの占い師は。


「だから気を付けたほうがいい…… 強い闇魔法の痕跡は、暫く消えないからな」


 もしかしなくても魔族。しかしあの店は小説に出てきた店のはず、ん?でも魔族は小説に出てきていないし、は?何だ?


「つまり…… 闇魔法の痕跡からヴィクトールが狙われるということか?」


 そうなると俺が物語を狂わせたことで深掘りされていない部分の、要はこの領地にあの店自体も占い師がやってきたのは、再び何かしらの辻褄合わせ起こった証ということか?


 強制力じゃなかったと安心していたのにああもう、ややこしすぎるだろ。


「見つかればな、多分。でも大丈夫だ!一先ず魔法で誤魔化してきてやったぞ!その内、痕跡自体も消えるし、そもそも俺より弱い魔族には絶対に気付かれない」


 あの店の占い師が魔族ならまずいんじゃ?と考えたけれど、こいつ曰く、弱い魔族であれば闇魔法の痕跡に気付くことは無いらしい。


 とりあえず、今はその言葉を信じるしかない。それに俺も、ヴィクトールの側を離れなければ良いんだ。元より離れるなと本人にも伝えてあるし、きっと大丈夫だ。


「兄上、あっち行こう……?皆んなも行ってるよ」


 闇魔法の痕跡だけでなく他の魔法の痕跡は分かるのだろうか。様々な疑問が頭に浮かび上がっていると、ヴィクトールに手を引かれる。


「あ、あぁ…… 行こうか」


 引っ張られた方を見ると、執事とイースレイ、王子たちは屋台の方へと歩き出している。俺たちも追いかける形で人混みを掻い潜り、背後から着いて行った。


「…… 永遠に消えない痕跡もあるぞ、ルディノア」


 大輪を咲かせていた夜空は、最後に一番大きく燦然と輝く花を開かせた。その開花一つで、他の音を全て飲み込んでしまうかの如く、街中に轟き渡っていた。


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