風が吹けばオケヤが儲かる
私は鴨桶弥潤(30)。
あだ名はずっとオケヤ。名前の弥潤で呼ばれたかったけどいつの間にか両親も友人も学校の先生でさえオケヤと呼ぶようになり、長年ずっとダサくて嫌だなと感じていた。
ところで、私には物心ついた頃からずっと不思議に思っている事がある。朝起きると部屋のドアと窓がいつも開いているのだ。風がヒューッと頬を撫でる感触で目が覚める。寝る前に窓の施錠まで確認しているというのにただただ不思議。カメラを設置して確認してみても、、、う~ん。誰かが侵入している訳でもなく、人影すら無い。明け方に窓が、そしてドアがすーっと開く様子が映っているだけ。何故、どうやって・・・の部分は分からなかった。
大学で独り暮らしをしている時にも、結婚して新居に移っても、朝はドアと窓が開いており風が通り抜け目が覚める。
毎朝そんな状態なのだが体調を崩すでもなくずっと健康そのもの。さらにこれまでの人生において経済的に困ることは無かった。宝くじが当たったり、投資が成功したり、遠縁の会った事の無い人物から遺産を相続したり、お金は溜まっていく。私の周りにはお金で苦労している人が多いので金銭面では際限なく援助する。金は天下の回り物って言うしね。すると何故かまた新たな縁で出ていく額をゆうに上回るお金が溜まる。貸したお金は全くと言って良い程返ってきてないんだけど…
ある大企業の株主総会の後のパーティーで、とある人物の噂を聞いた。霊感だか超能力だかでの占いを生業にしている40歳ぐらいの女性がいるらしい。1日に1組だけ、1回1000万円からで視てもらえるというVIP御用達。早速紹介してもらい会えるように取り決める。毎晩何が起こっていて、そして何故ドアと窓が開いているのかその原因を占って欲しかった。その占いの結果が真実であっても空言であっても何かしらの決着をつけたかったのだ。
とある高層ビルの一室。厳重な警備をいくつも抜けてから入ったその部屋で笑顔で迎えてくれた女性。能力者その人だ。勧められたソファに腰掛けると彼女も対面に座り、そして話し出す。
「はじめまして。私の能力に関して超能力だとか霊能力だとか色々と言う人がいますけど、私ができることはただ知る事だけよ。未来は閲覧することができないけど現在進行形の現象と過去の歴史に関しては全てが全天史書に記録されていて私はそこにアクセスできるだけ。世の動きが現在進行形で史書に記録されるのか、史書の通りに世の動きがなぞられているのかは私には分からないわ。
高額の料金設定に関しては…ごめんなさいね。これでも私はこの15年の間は1日も欠かさずに働いている程のブラックな環境よ。依頼を減らすために高額にしてるのに何十回も依頼してくる人もいたりするのよ。まったくもう…。困っちゃうわよね?
…では鴨桶弥潤さん。あなたが知りたいと思う事は何でしょうか?当てても良いんだけど、細かい要望は本人の口から聞きたいってポリシーがあるのよ。」
物腰や口調は柔らかく頼れる女性といった雰囲気。占い師といえばヴェールを付け、イスラム圏のような全身黒服を羽織り、水晶玉に手をかざしているイメージであったが、そのような事は全くない。身に着けているものは上質なものであると分かるが、街ですれ違っていても気付かない程に自然な佇まいをしている。
私は物心がついた頃からずっと疑問に思っている事。夜寝る前に窓とドアは閉め切っているのに朝起きると何故か開いている事象の原因を尋ねてみた。
「………」
返事は無い。彼女は目を閉じているが、眼球は何かを読んでいるのか瞼の裏で右へ左へと動いているように見えた。
「…ごめんなさいね。ちょっと待ってね。」
「………」
「………」
「…はい、分かりました。お待たせしちゃったわね。ちょっと…凄いわね。これ…。ふーっ…。」
待たせたと言われたがわずか3分弱だろうか。いつもはどれくらいの時間がかかるのかは知らない。
「では順を追って説明しますね。ごほん。
①まずあなたには悪霊が憑いているの。江戸時代中期の1708年にあなたの先祖に殺された悪党なんだけど、そいつがね、、『お前の子孫が最も幸せな代で祟り殺して根絶やしにしてやる!』って言って死んでるの。そんな訳であなたが眠りにつくとその悪霊があなたの体に侵入して呪い殺そうとしてきてるのよ。
②でもね。あなたには同時に強力な守護霊が2人ついているのよ。毎晩のように悪霊があなたの体に侵入を試みようとすると、あなたが生まれる7年前に亡くなった父方の高祖父と140年前の明治に亡くなった母方の先祖の2人ね。協力して悪霊を引っぺがして何だかんだ乱闘の末に悪霊の頭をカチ割ってるようね。想像の斜め上を行く大乱闘よ。そこで力を使い果たして2人の守護霊も一時の眠りについているみたいよ。
③その守護霊が消えたのを狙って性質の悪い、今度は精霊があなたを取り込もうとやってくるわ。1550年頃の戦国時代に戦場のヘドロの中で生まれた日本国内で最もやっかいな精霊の一つ。消滅させることは不可能なレベルまで闇のエネルギーを凝縮させた存在になってるわ。あなたには生来の光のオーラが備わっていて、さも磁石のNとSのようにその闇のオーラを引きよせてしまう体質のようなの。
④でもね。そのあなたの持つ光のオーラに魅かれて沢山の妖精のピクシーもあなたの周りに集まっているの。深夜に力が増す悪い精霊とは言っても、近くに光のオーラを出し続ける弥潤さんというエネルギータンクがいるからね。妖精達は悪い精霊を倒す事はできないんだけど、全員で悪い精霊を抱えて別次元に転移して遠ざけてくれているみたいね。
⑤その後に宇宙人が来るの。妖精と精霊のやり取りが終わったのを確認してから、あなたの産まれながら持っている光のオーラを狙ってアブダクトっていうの?まぁ簡潔に言っちゃうと誘拐ね。それを狙って窓を内側から重力場を使ってね。先ほどの悪い精霊の出した瘴気っていうのかな。それを固めて、自由に操れる固体を生み出す技術みたい。それで窓の鍵を開けて家の中に侵入して来るのね。
⑥でもね。あなたを守っている勢力(?)って言うのかな。もう一つあってね。未来から光学迷彩を纏った未来人が部屋の中にワームホールを作って出てきてね。その宇宙人があなたを攫うのを食い止めてるのよ。宇宙人の方には認識阻害の技術で人が見ても認識できないし、未来人は透明で、出した音も全部吸収する技術があるから、もし昼間に目の前でやり取りがあったとしてもこの時代の人間には気付くことができないんでしょうね。
宇宙人は地球に居られるのはどうも1時間ぐらいのようで、未来人に邪魔されてしぶしぶ帰艦してるみたいね。未来人はそれを見届けてからワームホールで未来に帰っているわ。未来の事に関しては分からないけど、現代に来ている未来人に関しての情報は分かるわ。2507年に産まれたあなたの子孫のようよ。
⑦でね、窓が開いたのを良い事に今度は河童が部屋に入ってくるわ。妖怪の河童達よ。あなたの生き肝を食べると800年も更に長生きできるみたいでいつも同じ3匹があなたを巣に持ち帰ろうと虎視眈眈と狙っているようね。
⑧でもあなたは持ってるオーラとは別にとても珍しい付喪髪持ちなの。物に宿る妖怪なんだけど、あなたの場合は髪に宿った特殊な例よ。河童があなたの傍まで来ると髪の毛が伸びて河童を拘束してくれるみたい。毎晩毎晩、河童達もよくもまぁ懲りないわよね…。
⑨しばらくして明け方が近づくと風の神シナツヒコがあなたに力を貸してくれるわ。あなたは思い出せないでしょうけど、あなたには死産してしまった3歳上の兄がいてね。その兄が冥府で風の神シナツヒコと仲良くなったようなの。その縁であなたを守ってくれているようなのね。でも居住しているエリアには入れないようで玄関の隙間から風を送って、風を操って、あなたの部屋のドアを開けて、河童を窓から吹き飛ばしてくれるようね。河童は無傷なんだけど、長時間髪に拘束された上に風の神まで来てはとそこで諦めて撤退していくようなの。あなたの家族が、、、更に言うとあなたもこの①~⑨のいずれかを見たことが何度もあったのだけど、風の神シナツヒコの神風は不都合な記憶も消してしまうようなのよ。
これらがほぼ毎晩あなたの身に起きている事。窓は悪い精霊と宇宙人。ドアは風の神シナツヒコと河童が原因だったみたいね。
ただね。風の神シナツヒコが吹き飛ばしてくれてるから影響は少ないんだけど、悪い精霊のヘドロのような瘴気をあなたは毎晩受けている事から、あなたは周囲の人間に不幸を振りまいてしまう性質が備わっているようね。あなた自身は光のオーラと妖精のおかげで幸運は常にマックスの状態のようだけど、これら二つは+-0にはならなくて、+も-もどちらも強力に作用している状態のようよ。
ふーっ。テーマパークのアトラクションのように次々と不可解な現象が襲ってくる割には結果はドアと窓が開いてるだけってね。こんなお客さんは初めてよ。
でもね。
私はただそれらを知れるだけ。
解決法や対処法は私にはどうにもならないだろうから、その。ごめんなさいね。」
私は事実を知った。周りの人間を不幸にし続けていくことが分かった。心配事は占いにより増えてしまった。
「ねぇ。オケヤ。聞いてよ。最近何だか××××……。」
今でも私は周りから好きではないあだ名で呼ばれている。しかしやはり気にしないというスルースキルを持つことが何より大切なんだと気づけた一件でもあった。