普遍世界1
「ようこそ、世界の管理場へ」
その言葉が聞こえたと同時に目が覚める。
「な…なんだ…」
周囲を見渡すと白い空間の中心に人のようなもの(?)がおり、その周囲には沢山の画面があり、その画面には数字やグラフであふれていた。
「いきなりのことで戸惑うのはわかるけど、私の話を聞いてもらっても良いかな?」
その何かは自分に語りかけているようだが、いまいち頭に入ってこない…が、話をしてみなければなにも始まらないと思い、頷く。
「そうか、まず君は世界を作り、管理するという仕事を強制されることになる。」
その理不尽な言葉に戸惑いと怒りが湧いてくる。なんの権利があって勝手に自分の生き方を決められているのだと
自分のその考えを表情から読み取ったのかその存在は申し訳なさそうに縮こまりながらも画面を操作しながら話を続ける。
「あぁ、君の考えもわかるが…私も上の意向を聞いて君への説明と世界の作り方を教える役目を請け負っているだけで君がどういう経緯で選ばれたのかは…わからないんだ…」
その存在は画面を動かす動作をやめ、答えになっていない言葉を紡ぎながらこちらに振り返った。
見た目は人に見えるが、どうにも何かがおかしいと感じる。
「あぁ、自己紹介がまだだったね。君のいた世界を管理している存在だよ。そうだね、名前って物はないから世界の管理者どうしの通称になるけど試行回数論者と呼ばれているよ。それで…暫定的に君をどう呼んだらいいかな?君の元の名前でいいかい?」
試行回数論者はこちらに顔を近づけながら問いかける
「…それで構いません。こちらから質問しても?」
怒りが収まらず、少し強い口調で返す
「もちろん構いません、タカヒロさん、なにが聞きたいのですか?」
「まず、ここはどこなのか。それとなぜ自分なのかです」
「そうですね、ここは数多の世界が管理されている場所です。それと、なぜタカヒロさんなのかについては…すみませんが、それに関しては我々管理者はあなたの世界の中間管理職みたいな物でして…上の方にお伺いは立てておきますので、ひとまずそれでご容赦願いたいなと…」
試行回数論者は頭を下げると、アラームが鳴る。
「すみません、少々お待ちください」
そう言って試行回数論者は画面を操作し、頭を掻くとこちらに向き直り
「世界の一つが滅んだので消去してきます。すぐに終わりますのでこちらで少々お待ちください。」
そう言って画面を操作しながらブツブツと何かを呟く。
「やはり…いや、原因はこっち…それとも…」
しばらくして試行回数論者はタカヒロに向き直る
「すみません、お待たせ致しました。問題が解決しましたので、他に質問が有ればどうぞ」
「…さっきは何を…していたのですか?」
試行回数論者は不思議そうな顔をしてタカヒロを見る
「何って世界の消去ですよ?世界No.32568は先のない世界になってしまいましたので、その世界に生きる存在がそれ以上苦しまないように世界ごと削除したのです」
タカヒロは呆気に取られた。
「いや、あんた…管理者なんだろ?先がないからって…あんたならその世界を救えるんじゃないのか?」
試行回数論者はハッとした顔をして頷く
「なるほど、あなたは私がどういう理念で世界を管理しているのか知りませんからね…そういう考えをするのも仕方のないことですよね。」
試行回数論者は画面を操作しながら語り続ける
「では、私の理念は放置です。私の管理する世界は理性ある存在が我々の手を借りず如何にして我々と同じ高みに至れるかというコンセプトの元に世界を管理しています」
そう言いながら多数の画面を見せてくる。そこには多くの人が写り、幸せそうな者や、苦しんでいる者、祈りを捧げる者、世界汚染度といったグラフなどの様々なものが画面に写っている
「なのであなたが言うように世界No.32568を救うことはできますが…それをすれば他の私が管理している世界に対して不平等ですからね…だからやらないのです」
タカヒロは顔を真っ赤にし、唇を震わせる
「誰かを救うことに平等も不平等もないだろ。ましてや多くの人の命がかかっているんだぞ」
怒りに震えながら試行回数論者に殴りかかるが、軽く避けられ組み伏せられる
「一つ忠告です、世界の管理者は独自の理念を持つ方が多数を占めています。なので、その理念に口出しはしないほうが良いでしょう。喧嘩の元ですし、最悪世界どうしの戦争になりかねません。大事な自分の管理する世界ですし、敵を作らないようにしましょう」
タカヒロを組み伏せながら平然と何事も無かったかのように試行回数論者は語る
「それに、その世界だけでその問題が済まなくなる可能性も考慮しなくてはなりません。なんらかのバグで世界どうしが繋がる可能性もありますからね。そうなると二つの世界が消えることになる。世界を一つしか管理していないならまだしも、そうでないなら損益が多すぎることになりかねませんからね」
タカヒロはそれでも文句を言う
「管理って…そんな命を数字でみやがって」
そんなタカヒロに呆れた様子でため息を吐きながら
「世界管理とはそう言う仕事なのですよ。どうしても管理という物は数字を見なくてはならない…私だって世界の消去なんて本当はやりたくはないのですよ。ですが、人は愚かですからね…自分から破滅の道を行ったにも関わらず救えだの言われましても…でも、あなたは納得できないのでしょうね」
その時、ピロンという音がなる。
「おや、メールのようですね。確認しますね」
試行回数論者は画面を手繰り寄せると画面を操作する
「タカヒロさん、貴方がした2番目の質問ですが貴方のその我々にはない感性を期待してとのことです。それと、様々な管理者との対談を行うようにとのことです。あと、多数の管理者の対談が終わった後に上の者が貴方に会うとのことです。その時に世界を作るか、作らないかなどを選べるとのことです」
画面から目を離さず、試行回数論者は事務的にそう告げながらタカヒロの組み伏せをとく。タカヒロはゆっくりと立ち上がる。
「あんたがやっている管理の方法に納得はいかないが、少なくとも自発的に世界を消すなんてことは今の話を聞いた限りしてないんだよな…」
「そうですね、そのようなことはしませんよ」
「お前との話も世界を自分で管理するかしないかを決める判断材料にしても良いんだな?」
試行回数論者はにっこりと笑みを浮かべる
「ええ、勿論です。私を反面教師みたいにしてもらっても構いません。あなたがどんな世界を作るのか私にはわかりませんが、貴方はきっと世界を創り、自分の手で管理することでしょう。それでは私からは以上です。」
「そうかよ…俺はこれからどうすれば…」
「他の管理者の所にも貴方が訪問するという話は回っているようですので、ご自由にこの空間を歩いてみてください。受け入れが整った方から貴方を招待してくださりますから」
試行回数論者はタカヒロへ関心を失ったのか、自身の管理する世界の情報をずっと見ているようだった
「一つ質問してもいいか?」
「ええ、どうぞ」
試行回数論者は振り返らずにそう返す
「お前らの上の者の目的ってなんだ?」
その質問に対して試行回数論者は狂ったように笑う
「簡単ですよ。より完璧な世界を創ることです。まぁ完璧な世界なんて存在によって変わってきますから笑えますが」
「まだまだ聞きたいことがあるんだが…」
タカヒロは質問を続けようとする
「あぁ、他の管理者の受け入れ体制が整ったようですので、その方に聞いてみてください。私の方は少し忙しいので…それでは」
そう言い終わると同時にタカヒロの目の前から全てが消え、何もない空間へと放り出された