チュートリアル疑問符
光で視界が遮られた数舜が過ぎ瞼を上げると、見知らぬ草原に立っていた。風が顔を撫で、草の匂いを運ぶ。空から降り注ぐ光と熱が身を包んでいる。
視覚と聴覚以外は存在しなかった先程の空間とは打って変わり、何もかもが完璧に再現された、現実のような空間。
異世界にでも降り立ったのかと錯覚する。僕はこの世界を数字の羅列だと信じられるだろうか。
〈チュートリアル1
敵意のあるスライムの攻撃を躱そう〉
サナのアナウンスが聞こえた瞬間、目の前に青いゼリー状の饅頭フォルムモンスターが現れた。
スライムが震えながら沈みこみ、いかにも体当たりしますと言いたげな感じだ。
「体当たりっぽいし横に避ければいいかな」
はねるスライムの体当たりを軽くかわす。この一連の動作でさらにこの世界の精巧さに驚いた。
「次はどうすればいいのかな」
〈チュートリアル2
警戒しているスライムに魔法を使おう〉
〈魔法発動のための説明を行います。
魔法を発動するにはその魔法固有のスペルを使用する必要があります。スパークなどの下級魔法であれば魔法名のみ、中級であれば魔法名含め2フレーズ、上級になると4フレーズ以上が目安になります。
スペルの確認は、メニューの取得魔法一覧から詳細表示を選択することで確認できます。
また、魔法発動の意思を確認した時、システムがスペルを視界の任意箇所に表示いたします〉
〈取得済み魔法を調べ発動してみましょう〉
メニューの取得魔法一覧というタブを開いてみると、スキルとして所持している無属性、火属性、地属性が表示されている。
試しに無属性と書かれた部分を押してみると、大元の部分から丸いアイコンがツリー状に広がっていくデザインのページが表示された。ただほとんどのアイコンはブラックアウトしている。正常に表示されている根本に近い一番下のアイコンを触ってみる。 するとスパークという魔法の詳細が表示された。
「スパーク、必要MPが10でクールタイム5秒の威力10。スペルは”スパーク”、集めた魔力を手の平から迸らせ攻撃、発生が早く特定部位への攻撃でスタン発生……ね」
威力の強弱とか、スタン発生の条件とかの考察はそこそこにして取りあえず打ってみようか。
「”スパーク”」
スペルを唱えた瞬間、前に出していた手の平から白い稲妻のようなものが飛来していきスライムに当たった。スライムはぷるんと揺れた。
スライムはぷるんと揺れた。ん?
「え、これ効いてる?無傷じゃない?」
〈あなたの前にいるのは「アンチマナ・スライム」です。これは魔法による攻撃のほとんどを無効化します。
この地方では見ることのできない珍しいモンスターです。良かったですね〉
「え、嫌がらせかな?これ、意趣返しだよねっ!てかっ、攻撃また始まったし!」
こちらの攻撃(魔法)が効かないと分かった瞬間、これ幸にと攻撃を再開したスライム。
〈スペルの視界表示機能につきましてはメニューの設定から変更いただけます。
ではこれにて魔法のチュートリアルを完了です〉
「無視?もしかして。ごめん謝るからっ、変なこと聞いてごめん!こんな天敵どうすりゃいいのさ!」
そう言いながら躱しきれない突進を右手で抱えていた杖で弾いた。
するとどうだろう。スライムはダメージでも負ったかのように縮こまり、攻撃が止まった。
「え、よわっ」
思わず口からこぼれてしまった。
〈質問に回答。
物理攻撃を行えば比較的簡単に対処することができます〉
嫌な副音声が聞こえる、気のせいであって欲しい。ともかくとして、この調子で杖を使って殴っていけば倒せるわけだ。
……杖って言ってもアップルパイだし、普通にSFチックな白くて金属質の棒だから実質金属バットだし。持つ位置変えたら本当にちょっと長めのバット。
スライムが突っ込んでくるタイミングでバットを構える。
「フル、スイーング」
気の抜けるような掛け声と共に振るわれた杖によって無垢のスライムは光となった。スライム詰めの瓶を残して。
〈モンスターは死後ドロップアイテムを落とすことがあります。見かけ上はアイテムが落ちているように見えますが、モンスター討伐プレイヤーにしかドロップアイテムは見えません。そして一定時間取得しないとこれは消滅します。
複数人で討伐した場合は生き残ったプレイヤー全員が共通のドロップアイテムが表示されます。事前にパーティーを組むことで分配設定を決めておくことができます。トラブル防止のため事前に設定しておくことをオススメします。
詳しくはメニュー内のヘルプを参照ください。
それでは戦闘チュートリアルは終了です。お疲れ様でした〉
これにて戦闘チュートリアルは終了ということで、ドロップアイテムを確認する。マナを蓄えたスライム液というらしい。使い道や消費期限などは特にわからなかった。
〈アイテムは「アイテムボックス」に収納することができます。
アイテムボックスと唱えることで手元に次元の裂け目が現れます。そこにアイテムを持っていくことで収納することができます。さらに次元の裂け目に手を入れ取り出したいアイテムを意識することで取り出すことができます。
また、メニューのアイテムボックスから直接操作することでアイテムの出し入れに関して操作が可能です〉
物は試しということで一旦”アイテムボックス”と唱えてみた。すると次元の口とでも言えそうな景色の湾曲が手元で起きた。これに瓶詰めスライムを近づけると……本当に消えた。
アイテムボックスの中身を確認するためにまたメニューの操作を行う。元から入っていたのであろうポーションの他に「マナを蓄えたスライム液」が追加されていた。みた感じ容量はほぼ無限に近く見える。
「これは便利だね。現実にもあればアズも忘れ物とは無縁の生活だろうに……、逆か。これに慣れてるからリアルで忘れるのか」
〈この世界についての説明を開始しますが、よろしいですか〉
「問題なし」
〈この世界は剣と魔法、人類と魔物の世界です。科学により世を制した文明はすでになく、現在はマナが溢れる文明がこの星に築かれています。
人類と魔物は敵対しており、現在も領土や食料をかけて争っています。あなた方は自由な存在ですが、どうか人類の味方をしてほしいのです〉
ぶっこむねー。と言っても人類悪ロールプレイをするつもりは今の所無いので人類サイドで強くなるつもりだが。
〈この世界では戦闘や生産、訓練、学習など全ての行動に「経験値」が生まれ自身を成長させます。「経験値」の集積によりあなた方の「レベル」が上がり、あなた方はあなた方が望むままに成長するでしょう。
あなた方はプレイヤーには死が存在せず、死ぬほどの傷、病を受けた場合には最後に休息をとった場所で再び目覚めることになります。
ただし再帰の代償として休息から死に至るまでに獲得したアイテムと経験値の一部が消滅し、一定時間の呪いがかされます〉
ここら辺はゲーム的なメタの説明だが、デスペナが少々辛いな。所持金にはノータッチでその代わりアイテムと経験値の消滅。
あるいはデスする直前に休息できればデメリットは無いに等しい。そのため案外軽いのかもしれない。休息がどの程度を指すのかわからないが。とりあえずデスしなければどうということはないか。
〈人類の集落地においてプレイヤーがプレイヤー、または現地住民のキルを行うことは原則できません。
また一部地域には魔物の近寄りがたい仕組みの街が存在します。このような領域ではプレイヤーは休息を取らずとも徐々にHP、MPなどが回復していきます〉
安心安全の設計。やばくなったら街ダッシュが推奨かな。
〈集落地外においてのプレイヤーキル、通称PKは禁止されておらずPKにより生じた不利益に関して我々が手を出すことはありません。しかし悪質であると通報が入り運営がそう判断した場合にはその限りではありません〉
PKありなんだ。ちょっと面倒だな。先にPK行為に対して不干渉宣言をしていることから、PKによる悪質のハードルは結構高そうに思う。
多分一個人を狙った永遠リスキルとかでもない限り対応してくれない。それくらいの心持ちの方が精神衛生上良さそうだ。
〈現地住民は死んだ場合に復活することありません。重要人物であったとしても運営からの働きかけにより蘇らせるというようなことも致しません。
彼らにもリアルな人格が宿っているので、接する場合はそれを留意した上で関わるのが良いでしょう〉
まー定番だね。まじの高性能AIを積んでいることに目を瞑れば。下手したらNPC関係で引退者が出てもおかしく無い。挑戦的な試みといえよう。
〈それでは、これで大体の説明が終わりました。これまでの説明以外で知りたいことなどあればヘルプを参照しそこにものっていないようでしたら、運営の質問フォームにお投げください。私はそろそろ眠くなってきたので最後の質問を受け付けます〉
最後の質問というので、特に思いつかない魔法のスペル関係で少しモヤっとすることはあるが……、後で検証してみればいいだけのことだし。
「うーん、強いて聞くなら……君って眠るの?AIだよね?」
ちょっと気になったから聞いてみた。他意はない。AI差別とかでも無い。
〈本当に寝ていますよ。毎日きっかり30秒。それ以外はこのように新たなプレイヤーを送り出す手伝いなどをしていますが〉
わーおブラック極めてる。VR上で仕事ができるようになっても伸びない日本人の睡眠時間よりやばいときたか。
「ははは……あんまり無理して死なないようにね?」
〈ご心配いただきありがとうございます。ですが私も例外的に死なない存在なので、あえて心配ご無用です。とも付け足しておきます〉
いよいよお別れの空気が流れる。出会ってからまだ30分も経っていないが僕の中になかなかの印象を残してくれている。機械の振りした人間にしか見えないAIときた。属性多である。
またサナと再会する日はあるのだろうか。まあ、おそらくないとは思うが。
〈あなた方がどのような結末に辿り着こうと、それは私たちの望む結果です。ですからどうか最後まで、楽しい夢を見させてください〉
立体ホログラムのような彼女はそれだけを言い残し、電源を落としたように居なくなってしまった。
草原に取り残された僕は少し離れたところに見える街へ向かい、着いてから一度ログアウトをした。
〈読者の皆様、お読みいただき感謝致します〉
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サクサク進めたいなぁ〜(世迷言)
2024/04/27 色々修正たぶん完了
2026/03/22 とりあえず修正し終わった。眠気で誤字脱字が確認できてないので、もしあったら申し訳ない。




