実力の不足を嘆け
・・・VRゲーム攻略サイト「うぃ。き」より抜粋
「新神創世」、通称「新創」の世界に入ったすべてのプレイヤーが最初に訪れる街、「始まりの街アンドレイア」はリシア王国に所属し大陸の中央に位置する。リシア王国の建国に深く関わりのある街らしいが、それ以上の情報は現在見つかっていない。(情報を見つけた人は随時編集を行ってください)
街の外周は殆ど正方形で、馬に跨る騎士の銅像と大きな噴水のある円形の広場から東西南北それぞれにある門に向かう四つの大通りがある。そして四つの大通りそれぞれが持つ特徴から、北の通りは金持ちの道、西の通りは職人の道、南の通りは修行人の道、東の通りは商人の道と揶揄されている。
・・・
なぜ私がいきなり「うぃ。き」を回想しているのかといえば、デートに向いた場所を事前に調べていたからなのだが、つまり何が言いたいかというと。今、東の通りを散策中です。
「この大通りは商人の道って言われるくらいいろんなお店が集まってるんだって。装備を整えるのはゲーマーの嗜みだからね。まだ始めたばっかりだから軍資金はないけど、でも見ておくだけでも損はないから。あと個人的に欲しいものもあって……」
「欲しいものって?」
そう、私には欲しいものがいくつかある。まずドールメイクとかいう謎スキルに使うであろう素材もその欲しいものリストには入ってくるのだが、それを用意するのは次回以降で問題ない。ならば他に何があるのかといえば……盾が欲しいのだ。
なぜかイカれたAIのせいで筋力値がゼロだからなのだ。私が前衛的な行動しようと思ったら剣を握るよりは、無駄に高い防御力にものをいわせて盾を持ちタンク的なロールをするほうが戦闘における貢献度が高くなるという算段なのだが……、リオには正直に言えない。
「筋力値0とかアズって計画性皆無人間なんだね」とか言われたくない!……いや、リオはそんなこと言わないってわかってるけどね?そんなイメージすら持たせたくない、これは乙女心だから、異論は認めない。
実際は縛りプレイとか燃える人間なので、そこに関しての悲観はないのだが。
「あー私さ、前衛をやるときは盾を持っていたい派の人間なんだよね。だからさ、できればさ、武器屋にはいきたいんだー」
と一旦誤魔化しからまた歩き出した。
そうして賑やかな商店通りを歩いていると、「武器屋ホルン」と彫ほられた木の看板を飾っているお店を見つけた。私の要望もあったので入ることとなった。
「おっまた初めてのお客さんだ、いらっしゃい!」
店内に入ってすぐにカウンターの中から出迎えてくれたのは、小麦色に焼けた肌と明るい表情、そして黒色のタンクトップが印象的なNPCの女性だった。
「あたしはこの武器屋の店主でテナツって名前だ。うちは武器の売買と修繕、オーダーメイドができるけどお客さん方は何用できたんだ?」
「片手で構えられる盾はありますか?あれば一番安いものがほしいです……」
ちょっと待っててな、と言ってカウンターの後ろの部屋に入っていった。数秒経つと彼女は木でできた円盤状のものを持って出てきた。
「お待たせ!これは今うちで出せる一番安いレッサートレントで作った盾だ。そうだな……色々サービスして、1100Gでどうだ?」
プレイヤーの初期所持金が1000Gなので、まだゴールドを稼いでいない私にはあと少し手の届かない商品だった。しょうがない盾は後回しにするしかないか。
「分かりました、少し足りないので……」
と、断りの文句を今まさに言おうとしたところで―――
「ちょっと待って」
―――なぜかリオが待ったをかけた。どうしたのだろうかと隣にいるを見上げる。
「僕がお金を出します」
と言いながら物質化させたゴールドをカウンターにのせた。それを聞いたテナツさんは何かを察したのか意味ありげな表情をしてこういった。
「ふーん、男前な兄ちゃんだね、あたしもそういう人間は嫌いじゃないよ!うん、それじゃあお代は受け取った。……これはあんたが直接渡すかい?」
「ありがとうございます。盾はアズに直接渡してください」
「え、いいの?」
「しゃーないねーはいよ、嬢ちゃん。大切に使ってやってくれ」
私の脳では情報を処理しきれずにいても二人の間では完結したようで、私は盾はテナツさんから手渡されていた。そして気づけば武器屋ホルンの外に出ていた。
「次は……あそこの屋台の串焼きなんておいしそうじゃない?食べに行こう」
このデートの始まりとは逆転し、私は手を引かれていた。人をかき分け、串焼きを買い、静かなベンチに座っていた。
リオが串焼きをおいしそうに食べているのを見て、私は自分の手が握る串焼きに視線を戻した。
私の今までの経験上、味覚の再現に成功したゲームは無かった。正確にはゲーム要素を排除し食にリソースのすべてを注げば現実の味覚に近づけるらしかったが、わざわざそのソフトを触ろうと思ったことはなかった。だからこそ、食欲をそそる見た目のこの串焼きにも私は期待が出来ない。
握り続けるわけにもいかないので食べるために串焼きを口に近づけると、スパイスの香ばしい香りが鼻孔を刺激し思わず唾を飲んでしまった。意を決して串焼きを口に入れると、口内全体でお肉の熱気を感じ、噛むと程よい弾力が心地よく、舌に乗せればスパイスの効いたお肉の豪快な味わいを感じる。満足感がありつつも次々と口に運びたくなってしまう、そんな一品だった。
「あれおいしい、味がある」
そんなことを呟いた頃には手に持っていた串焼きは串だけになっており、残念に思う反面安心感すらあった。
思い出したように横を向けば、リオが私のことを見つめていた。
「えっ、dどうしたの、そんな……」
「なんでもないよ、ただ楽しいなって思っただけだから」
「そう?それは誘った身としては嬉しいお言葉ですけど、これで満足してもらっちゃ困ります。だってまだMMORPGの半分も教えられていないからね」
そうだ、私は教えるだけなのだ。デバフでステータスが下がってるからなんだと言うのだ、そんなものは今までの経験で補ってしまえば問題ない。最初の草原でアクシデントが起きるわけないしね。
私は心地の良かったベンチを飛び降り、リオに向き直る。
「街の観光はこれくらいにして……一狩り行こうか」
◇◇◇
私たちが訪れたのは、東の通りをまっすぐ進むとたどり着く東門の外、スライムが多く出現する東アンドレイア草原。一番優しいフィールドだからあんまり長居することはないけど誰もがお世話になる初心者御用達の草原だ。
私たちは街中で出していなかった武器を装備した……のだが、リオが出した杖?がどこかおかしい。あまりに近未来的な見た目でファンタジーな世界観と合っていない。
「リオ、その……杖ってどうしたの?それ明らかに最初の武器じゃないんだけど……」
「これはアップルパイって名前の杖で」
「アップルパイ?」
「大杖に分類されてて、魔力ステータス+300、MPの肩代わり、あと固有魔法が使えるようになる、って書かれてたよ」
あっれれーぶっ壊れかな?魔力さんびゃくってなに?初期武器として破格どころの話じゃないよ、多分だけど当分は武器でステータス追加が二桁いけば優秀だねくらいのテンションだと思ってたんだけどな?
あと性能見た目共にアップルパイ要素欠片もないんだけど。私は命名者の意図が知りたいです。
「リオ……(武器の性能が)おかしいよ」
「えっ?」
「え?」
「いやいや何でもないよ。うん、どんどんスライム倒そう!がんばろ」
とおかしなテンションで会話を切り替え、レベル上げを開始した。
・・・うぃ。き
プレイヤーがAIに投げ出されるのは西アンドレイア草原であり、日中はモンスターの発生が少ないが、日が沈むと日中とは打って変わり大量のモンスターが跋扈する危険な草原となる。
主な出現モンスターはブルースライム、スモールホーンラビット、ウィクウィッド(弱い植物型モンスター)であり、実情は最弱モンスターのパレードである。(稀にビッグマウスウルフという中級モンスターが紛れることがある)
・・・
G:ゴールドと呼ばれる大陸共通通貨。基本的にこの通貨でものの売買をすることができる。プレイヤーとNPCはストレージに入った状態で取引をすることができる。
原材料不明、製作者不明、歴史を遡ればどこにでも出てくるいわく付きの平らな円形物体。金属のような特徴が多くみられるが、定かではない。なぜか偽造することができない。




