説得
「いつになったらやってくれるのさ!」
そう言って詰め寄ってくる同年代では背の高めな女子。
「アズ、またその話?」
「もう夏休みだよ、一緒に遊びたいじゃん!」
アズの言った通り、僕達は高校一年の一学期末テストが終わり、夏休みを目前としている。部活に所属していない僕達は夏季課題を差し引いても暇だ。
「う〜ん」
僕はなんとなく返答に困っているふりをしてみた。
「良いじゃんやってみようよ。えむえむおー」
ここでごねる意味もないけど、手をパタパタと必死に動かして説得しているアズを見ているのが楽しくなってきてつい抵抗してしまう。
「だってそういうのってレベリングとか面倒くさいんでしょ?知ってるよ(知らない)」
「い、ぃやぁ?そんなことないよ?」
キョロキョロと忙しなく動く目のせいで嘘だとバレバレだ。
「ほんとかな〜」
「もーからかってるでしょ!確かに一人だとたまに変な気持ちになるけど……二人でやれば面白いから!」
そう捲し立てながら僕の手を握って涙目で見つめてくる。それはズルいだろ。
「はぁ〜。でも一緒にやるとしてさ、その手のゲームは早く始めた方が基本有利だし途中参加ってハードル高くない?」
ほんとにやったことないのだろうか?なんて秋静梓紗は考えたが、一緒にゲームがしたいがために最終手段に出る。魔法カード、増殖するmmoを発動!
「それなら新しく出てくるゲームをやるっていうのはどお」
元々断る気もなかったのにここまで譲られると簡単には辞めれそうにないな。
「いいよ。一緒にゲームしよ」
「ほ、本当!今まで誘い続けてものらりくらり躱してたゲーム嫌いのリオが!?」
「僕はゲーム嫌いじゃないし、本当は断る気もなかったよ」
「ほんと?じゃあどのタイトルにする?私が誘おうと思ってたのは『EWOⅡ』ってゲームで、ストーリーと戦闘がメインコンテンツかな。出たのも一ヶ月前くらいでまだ全然追い付けるよ。
それか、あー『スプラッターONLINE』ってもの出たばっかだね、一応。ニッチなシステムと民度だったから私はあまりオススメしないけど……もしリオがやりたいって言うならやるよ!(小声)いやでも、さすがの私でもゴニョゴニョ……」
「アズの説明からして明らかに地雷の匂いがする2個目のやつは辞めとこうかな。そしたら一個目の……」
一個目のゲームにしよう、と言おうとするけどスマホで別のゲームを探していたらしいアズの言葉に遮られる。
「ん?なんか新しいの増えてる気がする」
「へーなんて名前のゲーム?」
「『新神創世』って名前なんだけど、昨日見たときはなかったはず……。しかも配信開始まで1週間もないし」
殆ど独り言の様に説明するアズ。その見ていたスマホの画面を横から覗き込んだ。
そこにはファンタジー全開の画像とその下に添えられていたこのゲームの謳い文句のような一文に目を奪われた。
「り、リオ?そろそろ離れてくれると…うれしいかも……」
アズの一言で我に返り咄嗟に離れる。
「あ、ごめん」
「いいよ。それより!そんな魅入っちゃうくらい気に入ったならこれにする?」