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お仕事の考え方

 かくして、十一月の半ばからボクスティは星の日限定メニューとして出し始めた。

 フィンがめちゃくちゃ悩んだ末に小さめのボクスティとサラダのセットに、好きなシチューを選べるようにした。シチューがいらない人にはボクスティを一枚追加することもできる。

 星の日の昼はそれなりに混む。午前をゆっくり過ごした人たちが買い物ついでに寄ってくれたり、わずかだけど教会で午前の礼拝を終えた人たちが食べに来たりしてくれるのだ。

 そんな中で、ボリュームがあって、それでも手軽に食べられるボクスティとシチューのセットはなかなかに好評だった。家族連れだとセットでテイクアウトしていく人も多い。


「ゆっくり起きた星の日に面倒な料理なんて作っていられないからね。買って済ませられるのは助かるわ」


 そう言ってテイクアウトをしていく母親達がけっこういた。


 わかるよ。めっちゃわかる。休みの日に寝坊して起きて、それから食事の用意なんて面倒で仕方ない。しかし私は私で厨房で忙しいし、なにより見た目がジェシカなので「わかる、わかる」と頷くわけにも行かず。心の中で首がもげそうなほど頷くにとどめた。




「ごちそうさまでした」


「ありがとう、おいしかったわ」


 そう言って、昼の最後のお客さんたちが帰って行った。

 そうか。おいしかったのか。下げた頭を上げられない。上げたら、目にたまっているものがこぼれ落ちていってしまう。


「姐さん、どうぞ」


「ありがと」


 カイにもらったタオルで目を押さえて顔を上げた。タオルを避ける頃にはカイは厨房に消えていて、フィンはカウンターでお金を数えている。

 感謝されるのが嬉しくて、それで泣いてばかりいるから、フィンはもはや気にもしない。


「君も昼を食べておいで」


「うん、ありがと」


「しかし、そろそろ忙しいし人手が厳しい」


「求人する?」


「そうだねえ」


 眉間にしわを寄せたフィンが顔を上げた。


「難しいなあ。手伝ってもらうと言っても店を継がせるわけでもなし、手に職をつけてあげられるわけでもないし」


「どういうこと?」


 私の元いた場所とは仕事に対する考え方が違う?

 フィンは困ったような顔で唸った。


「元々僕がこの店を手伝うことになってたのは言ったよね? それはジェシカの両親から跡取りとしてどうかって話だったんだよ」


 つまりジェシカの家、ケリーさんのお家に婿入りする? みたいな?

 ――ってことは、フィンとジェシカは婚約状態だったのかしら。


「僕の実家は兄貴とその嫁さんが継ぐ。農場や木材加工所もそうだ。それぞれの長男長女が家業を継ぐ。次男以降はその手伝い、本業っていうより営業的なところとか、経理部分とかを分担して継いだり、僕みたいに他所の家の跡継ぎに迎えられたりね。でも銀枝亭で人を雇うってそうじゃないだろう?」


「そうね。一時的なアルバイトというか」


「アルバイトがなんだかはわからないけど、きっと一時的な雇用のことなんだろう? そういう働き方が、もしかしたら君がいたところでは一般的だったのかもしれないけど、少なくともケニールの街ではそうじゃない」


「あー、そういうこと」


 ここだと一生食える正社員以外の働き方がメジャーではない、ってことね。職人って言ってもいいのかもしれない。


「だから募集をかけるとしたら、例えば二号店を出店するための料理人や経営をしてくれる人を募集するって形になる」


「なるほど」


 同じ業種でできるように、来てくれた人に手に職をつけてもらうってことか。


「でも、今の君や僕たちにそんな余裕あるかい?」


「ないわ。余裕がないから人手を求めているのに、跡継ぎ、もしくは新規出店予定とかじゃないと人が来てくれないのでしょう? それ一通り覚えたらいなくなっちゃうじゃない。跡継ぎも今すぐ考えられることではないし」


「そういうことだよ」


「だから、俺みたいな宿無し親なしの子供が仕事にありつけるんです」


 昼を終えたカイがホールに出てきた。


「跡継ぎにしなくてもいい、手に職をつけてやらなくてもいい、そういう都合のいい人手として俺は食いつないできたんですよ」


「いろいろあるのねえ」


 ちょっとした人手はそうやって確保していたのか。それも、今のうちの店だと取りづらい手段だ。なにしろ飲食店なので衛生面には気を使う。日雇いで、とはできない。


「そうだなあ」


 フィンがやっぱり困ったように笑った。


「他所の村からケニールに出稼ぎに来てる人とかがちょっと手を貸してくれたらいいんだけど――そう、都合良くはいかないよね」


「そりゃそうよね」


 私も笑った。

 どうするかは追々考えよう。とりあえず今はやるべき事がある。


「お昼ごはん、私たちも食べよっか」


 カイにホールを任せて厨房に向かう。

 カランとドアに取り付けたベルが鳴ったのはそのときだった。

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