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いらっしゃいませ、ようこそ銀枝亭へ

「いらっしゃいませ。ようこそ銀枝亭へ」


「こちらへどうぞ。ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」


 フィンの低いテノールと、カイのちょっと早口な案内が銀枝亭のホールに響いている。私はそれを厨房で聞きながら、そわそわとスープを混ぜ、サラダを盛り付けている。

 すぐにフィンが厨房とホールの仕切り窓から顔を出した。


「サンドイッチのセットを一つと、ジンジャーソテーのセットを一つ」


「姐さん、ジンジャーソテーのセットをもう二つおにゃが、お、おねが」


「カイ、落ち着いて。サンドイッチ一つ、ジンジャーソテー三つ」


「ひゃい!」


「きみも落ち着いてね」


 苦笑してフィンは水を配りに行ってしまった。

 カイは顔を赤くしてしょんぼりしている。


「カイ、そこのサラダ三つにドレッシングをつけてお出しして。大丈夫。まだ始まったばかりだから」


「はい!」


 できるだけ落ち着いたフリをしてサラダを三つ、カイへ差し出す。見送ってから私は私の仕事へと戻る。

 ショウガと塩で漬けた肉をフライパンに放り込み、スープを四つカップへ注いで仕切り窓へ。カイが戻ってきていたのでスープを託して肉をひっくり返す。サンドイッチを冷蔵庫から出してホールへ送り、焼けた肉を皿に盛る。付け合わせのポテトをオーブンから出して盛り合わせて、ホールへ。


「いらっしゃいませ」


「こちらへどうぞ」


「サンドイッチ二つ、ジンジャーソテー三つ」


「お待たせいたしました」


 そんなフィンとカイの声を聞きながら、私はただただ厨房をコマのように回っている。


「たのしいねえ」


「ぼんぼんもやすよお」


「カリッカリやくよお」


 精霊たちも忙しく、でも楽しそうに飛び回っている。




 とにもかくにも、


「ありがとうございました!」


「またお越しください」


 そう二人が頭をさげる。最後のお客さんが出て行く前に私も厨房を飛び出して頭を下げた。


「ごちそうさま。おいしかったわ」


 最後のお客さんが笑顔で手を振って出て行った。


「よし、これで今日はおしまい。って、だ大丈夫?」


 やれやれと顔を上げて振り返ったフィンが、目を丸くした。


「だ、だいじょぶ。――じゃ、ないかも」


 目からボロボロと涙が出た。


「姐さん?」


 慌てたようにカイがタオルを渡してくれた。


「あり、がと。ごめん。ちょっと嬉しくて」


「そう」


 フィンはさっさとお金を数え始めつつ相槌を打つ。カイもすぐに掃除を始めた。


「おいしかったって、言ってくれたから。ここの人たちは、私の作ったもの、おいしいって言ってくれる」


「そりゃ、おいしければおいしいって言うさ」


「うん、うん。そうだね。それが私には嬉しい」


 それ以上の言葉は出てこない。しばらく泣いて、涙が収まったら私も厨房の片付けに向かう。




「――姐さんは、ここに来るまでどうしてたんでしょう」


「さあねえ。料理自体はしてたみたいだけど」


「でも、ここの人たちはおいしいって言ってくれるって。そんなの、当たり前のことなのに。そうじゃなかったってことですよね」


「そだね。そのうち聞いてみたらいいさ」


「聞いて良いんでしょうか」


「いいんじゃない。ダメって言われてないし」


 そんな二人の会話は、厨房にいた私の耳には入っていなかった。





「あー、疲れた」


「はい、お疲れさまです。今日はもう休みますか」


「そうしよう」


 片付けを終えて三人で祝杯を挙げてから店の前に出る。フィンに手を振って見送り、私とカイは二階に上がった。

 カイにシャワーを譲って私は一人でダイニングでお茶を飲む。

 ここに来て、およそ二ヶ月。ジェシカに頼まれた店の再開は果たしたけど、まだ開けただけだ。完全に復興したわけではない。きっと本番はこれからで。

 シャワーを終えたカイにおやすみを言って、私もシャワーを浴びに向かう。アダムスさんに頼んだ浴槽はもう少しかかりそうだ。それまでにしっかり店を盛り立てて、浴槽代を稼がなくては。


「また明日も頑張ろう」


 シャワーを終えて自室へ向かう。ジェシカの部屋はいつの間にかすっかり私の部屋になってしまった。ジェシカは、今どうしているのだろうか。

 ベッドに転がって目を閉じる。まぶたの裏に星が光った。


「だいじょうぶ。だいじょうぶ。うまくいくよ」


 きらきら光るその姿は光の精霊に似ているけど、ひかりかたが少し違う。誰だろう。でもきっと悪い精霊ではなさそう。

 光が遠のき、すとんと眠りに落ちた。

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