決戦(ルベタ編⑤)
ベーガラを倒したことで1対2の戦いになり、少しは楽になるはずだけど油断禁物だ。まずは相手の出方を窺う。
「くそが!」
行動を起こしたのはケパーダだ。火炎系下位魔術を連発してくる。ボクの氷槍を溶かしてしまうつもりか。だけど、大賢王の杖が常に帯びている魔力を利用しているため、そう簡単には溶かすことなどできない。矢継ぎ早に射ちだされる火の玉を氷剣で切り裂いていく。火炎系下位魔術程度の火力では氷槍を溶かすことは不可能だと悟ったケパーダは攻撃を中断して魔力を温存する。
「死ね!」
火炎系下位魔術に対処しているボクの背後へと回り込んだタハマは、両手に持ったナイフをXの字を描くように振り下ろす。しかし、ボクの銀の鎧はそのナイフの刃を通さない。おかげでダメージはない。
振り返ると同時に振りかざした氷槍は空を裂いただけで手応えがない。タハマは、ボクの反撃を跳躍してかわし、飛び蹴りを繰り出してきた。
両手を交差させてガードする。そこへまたしても背後からケパーダが槍で突き刺してきた。出血はしないまでも痛みがはしる。
「くぅ…」
痛みに耐えつつ、タハマとケパーダから距離をとる。二人になってもやはり手強い相手だ。
『やれやれ、氷槍が使えたところで肝心の技術が追いついていなければこれほどまでに無様なものか』
リバス様の嫌味にムッときたが、今はそれどころではない。たしかに剣術も魔術も未熟で経験も浅い。だけど、それでもできることをしなければならないんだ。
左手で雷撃系下位魔術を放ちながら前進する。ケパーダは防御魔術でダメージを軽減し、タハマはナイフを構えて迎撃に備える。
「はぁ!」
ボクは気合いとともに氷槍を一閃する。タハマはそれをナイフで受け流すと、ボクの腹部に膝蹴りを入れる。体勢を崩して片膝をついてしまったボクの頭部をケパーダの槍が狙う。
「ぬっ!?」
槍が動きを止めた。ケパーダは押したり引いたりするが微動だにしない。ボクが《剛力》を使ったうえで槍の柄を握っているためだ。
「くそっ、報告にあったスキルか!」
ケパーダは忌々しそうにボクに睨め付けると槍から手を放し、両手を魔力を集め始める。何らかの強力な魔術を仕掛けてくるかもしれない。ボクは立ち上がり、それを阻止すべく氷槍を握る右手に力を込める。が、いち早くタハマの蹴り技が連続的に炸裂した。最初に回し蹴りをくらい、ふらついたボクの顎を蹴りあげ、浮き上がった体に踵落としを受けて背中を床に激しく叩き付けられてしまう。
「いてて……」
薄く目を開いた視界に2本のナイフの刃先をボクに向けて突き立てようとしているタハマの姿が飛び込んでくる。しかも、逃がさないように馬乗りになっているじゃないか!
まずい! すぐさま紋章の力を一瞬だけ解放する。そうして溢れだした魔力で乱気流を巻き起こす。もちろん力はセーブしている。
発生した乱気流はタハマを浮かせた。その隙間から素早く脱け出して氷槍を構える。今ならば確実に仕留めることができるはずだ。ところが、そううまく事は運ばない。爆音が起こる。何があったのか理解できないままに吹き飛ばされて壁に激突する。
『爆発系下位魔術を直撃で受けるとはな。せめて防御魔術するくらいのことはしてほしいものだ』
リバス様のいつもの嫌味だ。爆発系下位魔術? そうか。爆発系魔術をくらってしまったのか。さすがに至近距離からの爆発は効いた。壁にぶつけた後頭部と背中がすごく痛い。一方、相手は爆発の直前に防御魔術していたらしくほぼ無傷だ。
「兄者の仇、とらせてもらうぞ!!」
タハマは戦闘に決着をつけるべく床を蹴って突進してくる。左右のナイフが泳ぐように空を裂く。
姿勢を低くして脇をすり抜ける。攻撃をかわされて隙ができたタハマの背中を氷槍が貫く。一瞬の出来事にタハマ本人はもちろん、ケパーダも動けないでいた。
氷槍を引き抜くと鮮血が噴き出す。返り血を浴びてしまわないように避けて氷槍を一振りすると付着していた血が飛散する。
「さて、あとは君だけだ」
ボクの言葉にケパーダは我に返ったように身構える。といっても、槍を手放したままなのだけど。
「なめるな!」
ケパーダは短く叫ぶやいなや魔力で無数の雷の針を作り出して一斉に放つ。雷撃系中位魔術だ。火炎系下位魔術や雷撃系下位魔術なんかのボール系とは違い、ニードル系は早く、威力も高い。ちなみに今のボクはまだ修得していない。
右へ左へと身を翻しては雷の針をかわすが数が多い。そこで防御魔術しつつ反撃の隙を見極める。
今だ! 攻撃が途切れる僅かなタイミングを逃さずに飛び掛かった。ケパーダはボクが振りかざした氷槍をかわし、同時に間合いをとろうとする。
これは予測済みだ。ボクは《俊足》を発動させて間合いを詰める。続いて、《剛力》に切り替えて氷槍の穂先をケパーダの腹へと突き立てた。手応えはあるが、防御魔術し、さらに後方へ飛び退くことでダメージを抑え込んだようだ。それほどの深手を負わせることはできなかった。
だったら、こちらも追撃するまでだ。氷槍を大上段に構えて一気に振り下ろす。
ケパーダは側に落ちていた愛用の槍を拾い上げると柄で氷槍を受け止めた。最初から槍を拾うことが目的だったのか。ボクは一度仕切り直すためにも後方へとさがることにした。
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