決戦前夜
「おお、無事だったか!」
洞窟の入り口に戻ったボクにラルバンが声を掛けてきた。どうやらボクを心配してここまで様子を見に来たらしい。あいつの最後の火炎系下位魔術を避けなくてよかった。ラルバンが黒こげになってたかも……。
「なんとかね。全身が黒ずくめの連中が夜襲を仕掛けてきたんだ。一人は逃がしちゃったけど、残りはその辺で死んでるはずだよ。せっかくだから装備品はありがたく貰っておこう」
提案するボクにラルバンは少し引き気味になっていた。
「どうかしたのか?」
不思議に思って訊ねる。
「なんていうか、いろんな逞しくなったと思ってよ…」
「どういう意味さ?」
「ちょっと前のおまえさんなら死体から装備品を剥ぎ取るなんて考えられなかっただろ?」
なるほど。そう言われればそんな気もする。
「解放軍の現状を考えればしかたないだろ?」
言いつつ、持っていた鎌をラルバンに手渡す。
「これは?」
「鎖鎌の鎌のほうさ。鎖はそこに落ちてるのがそうだよ。命乞いをしてきたから引き換えに貰ったんだ」
「そ、そうか……。けど、逃がしちまって大丈夫なのか?」
「心配いらない。左腕は切断しておいたし、全身が傷だらけで暫くはまともに動けないはずさ」
「……おまえさんが味方で本当によかった。心から思うよ」
ラルバンは表情を強張らせている。
その後、ボクたちは周囲に倒れている死体から装備品を外し、最後に鎖を回収して鎌に取り付け元の鎖鎌に戻した。
「これでよし。ひとまずトゥナムに報告だな」
「おぅ。代わりの見張りを手配しよう」
ラルバンは回収した装備品を持って一足先に洞窟内へと戻っていく。回収品のほとんどをラルバンが持ってくれたから楽チンだ。ボクはゆっくりとラルバンの後を追うのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ご苦労様だったね、ルベタ。怪我はないか?」
洞窟最奥のフロアへとやってきたボクにトゥナムが労をねぎらってくれる。
「大した傷は負っていないよ」
答えるとトゥナムが安堵の表情を見せる。
「それは何よりだ。明日の決戦は君にかかってると言っても過言じゃないからね」
「ひどいです、トゥナム様! 私はたとえ明日の戦いにルベタが参加しなくても心配です! トゥナム様はルベタを戦力としてしか見てらっしゃらないんですか!?」
何気なく言ったのだろうが、レミィには聞き捨てならなかったようだ。トゥナムに詰め寄るレミィの迫力に周りいた誰もが何も言えなくなった。
「す、すまない。そういうつもりで言ったのではないのだが……」
さすがのトゥナムも気圧されている。
「トゥナム様にそのつもりがなくてもそう受け取れるじゃないですか!」
「あ、ああ。たしかにレミィの言う通りだ。わたしの失言だった」
「あ、あのさ、ボクは気にしてないよ?」
恐る恐るレミィに話しかける。振り返ったレミィはボクを見つめる。巻き添えで怒られるかもしれないと覚悟していたのだが、その必要はなかった。
「ルベタがいいって言うならこれ以上は言いません。でも、次からは気をつけて下さいね!」
「ああ、もちろんだ。反省してる」
「わかってもらえて良かったです」
ニコリと微笑むレミィ。怒らせるといちばん怖いのはレミィだとこの場にいるだれもが確信したことだろう。
「ところでよぉ、明日、ルベタは遊撃手として単独行動するんだよな? できれば詳しく教えてくれねぇか?」
ラルバンがちょうどいい機会だとばかりに質問してきた。先刻の作戦会議ではボクは単独行動をとるとしか言っておらず、詳細は伏せてあったからだ。
「トゥナムが隠れていた洞窟から屋敷に潜入しようと思う」
ボクは小声でトゥナム、レミィ、ラルバンの三人だけに聞こえるように話す。
「あそこなら奇襲をかけることができるだろう。しかし、もしも敵方にあの洞窟が発見されていた場合、逆に待ち伏せされてしまう可能性もある」
そう、そこが問題点だ。
「だから、このことは三人だけにしか話さない。あまり疑いたくはないけど解放軍の中にスパイがいることだって考えとかなきゃだしね」
「でも、ルベタがいくら強くたって一人じゃ危険すぎるよ」
レミィが心配そうに見つめる。
「心配ないさ。一人のほうがおもいきり戦えるくらいだ。その代わりいろいろ破壊しちゃうかもしれないけど」
「できれば、お手柔らかに頼む……」
トゥナムがポツリと呟く。が、それは保証できない。スヴェインとアークデーモンを同時に相手する可能性は高いのだから。
「我々としても何か手助けできるといいのだが……」
トゥナムは顎に手をあて思考を巡らせる。
「ボクなら本当に大丈夫だから、トゥナムやラルバンには、屋敷を制圧して戻ってくるまで戦えない人たちのことを守ってもらいたいんだ。ボクがこの洞窟にいないとわかれば一気に攻め落としにくるだろうし、そうなれば島の人たちを人質にとられかねない」
「おぅ! そんならこっちは任せてくれ。おまえさんが帰ってくるまではなにがなんでも守りきってみせるぜ」
「そうだな。こちらは気にせず遠慮なく暴れてくれ!」
ボクたちは互いに顔を見合わせて力強く頷いた。
いつも読んでくださってありがとうございます。




