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魔王様の大冒険  作者: 美山 鳥
第7章 決戦に向けて
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VS名乗らぬ敵②

 《俊足》を使用して接近するボクに対して小男は後方へと後退りする。が、それもほんの僅かな時間稼ぎにしかならなかった。敵が攻撃範囲内に入った瞬間、ボクは氷槍を一閃した。


 「ぎゃあああ!!」


 左腕を斬り飛ばされた小男の絶叫が鼓膜を振動させる。


 「くそ! くそ! くそぉ!!!」


 恐怖にかられた小男が右手に持った鎌を何度もがむしゃらに振りかざす。が、ボクはそのすべてを回避する。


 「化け物がぁ!!」


 恐怖と憎悪を混在した表情でボクを睨めつけていた敵は跳躍し、鎌を頭上に掲げる。


 「死んじまえよぉぉ!」


 勢いよくふりおろされた鎌は氷槍によって弾き飛ばされ、小男の右手から放れてしまう。さらに空中で無防備となった敵の右頬にボクの左拳がめり込む。


 「ぶへぇ!」


 殴り付けられて地面に落下し、それでも勢い余って激しく転がる小男。


 ヨロヨロと起き上がるも息が上がっている。残された右手に集めて練り上げた魔力を燃え盛る炎に変える。


 『火炎系下位魔術フレアボールか。それなりに威力もあるようだな。だが、貴様ならば容易に回避できよう』


 たしかに避けるのは難しくないけど……。後方を確認する。背後には解放軍が拠点に使っている洞窟がある。もしも誰かが洞窟の手前まで様子見に来ていたとすれば危険だ。


 『回避はしない、か。ならば受けるか消滅させるか、あるいは撃たれる前に術者を倒すしかあるまい』


 リバス様に言われるまでもなくそのつもりだ。火炎系下位魔術フレアボールに対抗するために氷槍を解除した直後に火炎の球が放たれた。ボクは防御魔術ガードして耐える。


 「ヒヒヒヒ!!」


 あの笑い声が聞こえた。未だに燃える炎の向こうから勝機を見出だした小男が現れた。拾った鎌を手に半ば狂ったような笑みを浮かべている。自らもダメージを負う覚悟での捨て身の一撃だ。


 「くっ」


 ボクは後退するも鎌の刃先が喉元を掠めていく。ほんの一瞬でも反応が遅ければ首を刈り取られていただろう。


 小男はボクを仕留め損ねたことで焦り、苛立ったように舌打ちする。だが、ここを好機とみて鎌を使った攻撃を執拗に繰り出してくる。杖で受け止めたり避けたりと対応する。しかし、火炎系下位魔術フレアボールによってダメージを受けた直後ということもあり、度重なる攻撃のいくつかはボクの身体を傷つける。


 「きぃえぇぇい!」


 小男が奇声をあげながら鎌を高々と掲げた。その一瞬の隙に再び氷槍を作り出したボクは傍らをすり抜ける。すぐに身体を半回転させて敵の背中に斬りつけた。


 「ぐぁぁ!」


 小男は叫ぶと掲げていた鎌を落とし、地面に両膝をつく。その首筋に氷槍をピッタリとくっつける。相手の動きが停止する。


 「わかった! 俺っちの負けだ。頼む、命だけは見逃してくれ!!」


 敗北を認めて観念した小男は両膝をついたままゆっくりと振り向いて土下座して命乞いを始めた。


 どうしたものかと暫く考えた末、氷槍を首筋から離してやる。


 「いいだろう。ただし、武器は置いていってもらう」


 「ああ、いいとも! 命が助かるなら安いもんだ」


 嬉々として顔あげた小男は鎌を足元に置くとフラフラした足取りで帰っていく。


 「なぁ、スヴェインはどこからあんな腕利きを集めたんだ?」


 離れていく後ろ姿に声をかける。それに対して小男は振り返る。


 「すまねぇな。そいつは俺っちの口からは言えねぇよ。言えば消されちまう……」


 恐怖に染まった顔を俯かせて答える。その体は小刻みに震えていた。


 「わかった。最後にもう一つだけ教えてほしい。ボクがいつも背負っていた大剣をスヴェインに没収されたんだけど、どこにあるのか知らないか?」


 小男は暫く考えていたが、やがて首を横に振った。


 「知らねぇな。ただ、あんたの大剣が名品なら屋敷の宝物室にある可能性が高いんじゃねぇか。スヴェインの旦那は名品のコレクターでもあるからな。宝物室のお宝を私物として眺めてるくらいだ」


 「そうか。もう行っていいよ」


 「そんじゃ、失礼させてもらうぜ」


 徐々に遠ざかっていく小男の背中を見送る。


 『まったく、貴様の甘さには呆れるばかりだな』


 そう言われても、ボクには戦意を喪失して命乞いする敵にとどめを刺すことはできなかった。


 「あっ、そういえば!」


 ボクは思い出して声をあげた。


 『何事だ?』


 「あいつの名前、訊くのを忘れてた」


 『そんな事か。べつによいではないか』


 「そうなんですけど、勝ったら名前を教えるみたいなことを言ってたから……」


 『くだらん……』


 リバス様は最後に一言だけ洩らしただけだった。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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