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魔王様の大冒険  作者: 美山 鳥
第7章 決戦に向けて
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VS名乗らぬ敵①

 「ヒヒヒヒ……」


 耳障りな笑い声をあげながら小柄な男が現れた。手には鎖鎌を持っていて、鎌の刃先からは血が滴り落ちている。他の男たちと同じく全身が真っ黒だ。


 「さすがは魔王だな。実に強い! いやぁ、お見事お見事!」


 「それで、君は何者だ?」


 小バカにしたように拍手までする小男に冷めた口調で問う。


 「いやいや、名乗るほどの者じゃねぇよ。仲良くしようぜぇ……」


 「スヴェインの仲間なんだろう? だとすればボクたちは敵同士だ」


 小男はつまらなそうにフンと鼻を鳴らす。


 「ノリの悪い魔王さんだぜ」


 「君の茶番劇に付き合うつもりはない。戦うというなら相手になるし、逃げ帰るというなら今は追わない」


 「へぇ、随分と寛大じゃねぇか」


 『我に言わせれば単に甘いだけなのだがな』


 「それで、君はどうする?」


 小男は顎に手を当てて考える素振りを見せているが、どこか演技じみている。


 「そうだなぁ。本心は今すぐ帰りたいところなんだけどよ、手ぶらで帰るとスヴェインの旦那に叱られそうだ。つうわけだから死ね!」


 いきなり鎖鎌の分銅を投げつけてくる。不意打ちのつもりなのだろうが予測していたため容易に回避できた。鎖が付いた分銅がボクの横を通過していく。


 「あまいぜ!」


 小男がニヤリと笑った瞬間、通り過ぎた分銅が弧を描くように舞い戻ってきてボクの周囲を回るように動き、ボクに鎖を巻き付けてしまった。


 『分銅に自らの魔力を込めておるようだな』


 だから、こんな動き方をするのか。よく考えたものだ。


 「ヒヒヒヒ……。どうだ? 俺っちの鎖鎌は分銅・鎖・鎌すべてが特殊な鋼鉄でできてんだ。これであんたは身動きできないまま殺されるのを待つしかねぇのさ」


 小男は勝ち誇ったように話す。《剛力》を使って鎖を引き千切ろうと試みたが不可能だと諦めざるを得なかった。


 「ヒヒヒヒ……。無駄無駄! 俺っちが親切に教えてやったことをもう忘れちまったのか? それとも、魔力はあるのに脳ミソはねぇのかよ?」


 『こやつ、我を愚弄するとはいい度胸だ。今すぐに目にものを見せてやるがよい』


 べつにリバス様をバカにしたわけではないだろうけど、倒さなきゃならないのは変わりない。対処法はだいたいわかる。杖が帯びている魔力を雷に変換し、鎖を伝わらせて相手のほうへと流す。


 「ぎゃっ!」


 小男は悲鳴をあげて鎖鎌から手を放す。魔力の源を失ったことでボクに巻き付いていた鎖がジャラリと音を立てて地面に落下する。


 「てっめぇ!」


 ついさっきまで余裕綽々としていた小男は一変して、怒りを顕にしてボクを睨め付けている。


 「俺っちがこんな程度でやられると思うなよ!」


 小男は足元の鎖鎌から鎌だけを取り外し、地面すれすれの低い姿勢で急接近してくる。その動きは速い。瞬く間にボクの目の前までやって来た小男はボクの喉を狙って鎌を振りかざす。金属同士が激しくぶつかり合う音が洞窟内に響く。


 大賢王の杖で鎌を受け止めて弾き返す。小男は軽やかに後方宙返りを披露して体勢を立て直し、反撃のタイミングを見計らう。


 とりあえず洞窟から出ていってもらおう。ボクは自ら練り上げた魔力と杖から放出されていら魔力を合わせて神風系下位魔術ガストを発動させる。巻き起こった突風が小男を軽々と宙に浮かせて洞窟の外へと追放してしまう。


 チャンスだ。空中に投げ出された小男に追撃の火炎系下位魔術フレアボールを撃つ。小男はすぐに防御魔術ガードを展開してダメージを最小限に抑え、火炎系下位魔術フレアボールで反撃してきた。ボクは防御魔術ガードを施した状態で火炎の球を受け止める。この程度なら、まるでダメージを受けることはなかった。


 《俊足》で一気に間合いをつめて接近戦にもちこむ。ボクの杖と小男の鎌が幾度となく激しくぶつかり火花を散らし、ほとんど同じタイミングで相手と距離をとる。


 「これでもくらいやがれ!」


 小男がかざした左手から魔力によって作られた無数の氷塊が飛び出す。氷塊系下位魔術アイスボールだ。


 『ふむ。氷塊系下位魔術アイスボールを複数同時に撃ち込んできおったか。ザコとはいえ思ったよりは楽しませるではないか』


 リバス様は言っているが、かわしきれなかった氷塊の直撃を受けた身としてはけっこう痛い。


 「ヒヒヒヒ!」


 勝利の好機とみて耳障りな笑い声をあげながら鎌を振りかざす小男。


 素早く後退して間合いを確保しようとするが、小男は追撃の手を緩めてはくれない。鎌が縦横無尽に閃く。紙一重でかわし続けるにも限界がある。それに再び洞窟内へ侵入させるわけにもいかない。


 ボクは大賢王の杖の石突を小男に向けて構える。小男はその動きに警戒してボクとの距離を若干広げる。


 『なかなかよい勘をしておるではないか』


 リバス様が感心する。たしかに感づかれなかければ一撃で勝負は決していたかもしれない。


 「君、強いね。名前くらいは聞いておこうか?」


 「けっ、てめぇごときに俺っちの名前を教えてやる必要なんてねぇよ。知りたきゃ俺っちを倒してみるんだな!」


 いや、べつに知りたいというほどのことはないんだけどなぁ。


 「そっか。興味があったわけじゃないからいいや。どちらにしても君は倒さなきゃならないんだ。覚悟してもらうよ」


 「興味ねぇのかよ!」


 小男が不満そうにツッコミをいれてくる。名乗りたいのか名乗りたくないのか、よくわからないやつではある。


 ともあれ、ボクは杖の魔力を氷へと変換する。大賢王の杖の石突から氷の穂先が形成され、やがて美しい氷の槍が完成した。氷槍という技らしい。


 大賢王の杖を見たトゥナムが教えてくれて魔術の応用技だ。杖の魔力を利用して氷の刃を作り出す。その時、槍の形を強くイメージする。そして杖自体を柄として使うことで氷槍は完成するのだ。戦いで氷が損傷してもすぐに修復できる優れた技だ。トゥナムが言うには、ボクには水・氷系の魔術の才能があるらしい。


 「なん……だと!?……さすがは魔王ってことかよ!」


 小男は驚愕と恐怖が入り交じったような表情を浮かべている。そんなに凄い技なのか?


 『あの程度の実力者からすれば神業にも等しいかもしれんな。そもそも魔力の武器化および形状維持はかなりの高等魔術だからな』


 グッドタイミングでリバス様の解説が入る。そうだったのか。だったら、それをできちゃったボクって天才ってことなのかも!?


 『だからといって自惚れるなよ、愚か者。貴様風情がこれだけの芸当が可能なのは武器の性能によるものであって、貴様自身の才ではないと知るがよい』


 これまた絶妙なタイミングで釘を刺されてしまう。はいはい、ボクは愚か者ですよ。


 そんなことよりも今は目の前の敵を倒さなければ。ボクは氷槍を構えて敵を見据える。この技はスヴェインやアークデーモンに対抗するためのものだったのだんけど、まさかそれまでに使うことになるなんて。奥の手を見せてしまった以上はこいつを逃がしてしまったらスヴェインたちに知られてしまう。それは阻止したい。


 「君を見逃すわけにはいかなくなった。覚悟してもらおうか!」


 ボクは言い放ち、眼前の敵に氷槍の穂先を向けた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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