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魔王様の大冒険  作者: 美山 鳥
第2章 フォラスの独裁者
9/306

ピラックの港③

改稿済みです。

 「なぁ、リゲックって誰なんだ?」


 ピラックの港をあとにして、もと来た道を引き返していたボクは荷台のポポルに質問をぶつけてみる。だけど、なかなか返事がない。


 「リゲックはあの丘の上に建ってる屋敷に住んでる嫌なやつさ。一応はこの島の領主ってことになってるけど、だれも認めちゃいないんだ」


 答えてくれないと諦めかけた時、ポポルが不意に呟いた。それから港を一望できる小高い丘を指差す。そこには立派な屋敷が建っていた。


 「リゲックのやつ、領主だからって威張ってさ。やりたい放題なんだぜ!」


 なるほどね。そんな奴が妙な連中と付き合ってれば、ろくなことにはならないよね。不安に思うのも無理はない。


 「まっ、余所者よそものには関係ない話だろうけどさ」


 ほんとにかわいくないよな、ポポルって。ボクだって一応はこの島の生まれなのに。


 反論してやろうとした時、ならず者風の男3人が街道を塞いでいるのに気がついて立ち止まる。それぞれ手には手斧を握っている。


 「ちょいと面を貸してもらおうか」


 中央に陣取っていた男が声を掛けてくる。ボクだけ逃げるわけにもいかない。


 「申し訳ないけど先を急ぐんだ」


 きっぱりと断る。


 「こっちもてめぇなんぞに用はねぇよ。さっさと退きやがれ!」


 それで引き下がってくれるはずもなく、右側の男がボクを威圧するように怒鳴る。もちろん素直に従うつもりはない。


 「あいつ、魔族だぞ」


 今度は左側の男がボクの正体に気づく。連中に動揺がはしる。一概に言えないが、一般的に魔族は人間よりも遥かに高い魔力と戦闘力を備えているのものだ。


 「そ、それがどうしたってんだ! 魔族がいくら強いといってもこっちは3人だ。敗けるはずはねぇだろうが!」


 中央の男が強がって見せるがその表情は引きつっている。


 『笑止。とんだ身の程知らずどもだな。中身がいかに脆弱ぜいじゃくであろうと魔王の肉体をもってすれば、こんな小物など敵ではない』


 リバス様から頼もしくもトゲのある御言葉を飛び出す。その言葉を信じてみよう。


 3人の男たちは、ボクを正面と左右から囲むようにしてジリジリと距離を詰めてくる。


 先手必勝! 連中よりも先に動く。まずは正面の敵をターゲットに定める。いきなり詰め寄られて慌てる男にボディーブローを叩き込む。


 「ぐぉっ…」


 おおっ、予想以上に効いている。さすがは魔王様の肉体♪


 男は持っていた手斧を落として両手で腹を押さえる。その場にうずくまってうめき声を漏らす。


 「ち……ちっきしょう!」


 左側から襲いかかってきた男が掲げた手斧をやけくそ気味に振り下ろす。それを腕ごと受け止めて手前に引っ張る。体勢を崩した男の横顔に拳をめり込ませた。吹っ飛ばされた敵はそのまま気絶する。


 「ひぃぃ!」


 最後に残った一人は戦意を失くしたようだ。顔を強張らせて後退りしている。


 「まだやるかい?」


 弱いものいじめをする趣味はない。返答に困って戸惑う男に歩み寄る。


 「わわわ……わかった! 降参だ!!」


 ゆっくりと近づいてくるボクへの恐怖心に堪えきれず敗北を認める。


 『貴様がここまで戦えるとは意外であった』


 ボクの戦いぶりが予想外だったのだろう。リバス様が声をかけてきた。逃げ出すとでも思っていたのかな? なんて失礼な話だろうか。


 「ボクだって生き抜くために対峙した相手の動きをよく見るようにしてきましたからね」


 『ほぉ、ガムイラスとて相手を倒すすべを身につけておるということか』


 「いえ、倒すためじゃなく逃げるためです。相手の隙をついて逃げるには動きをよく見ないと」


 『……一瞬とはいえ感心した我が愚かであったか』


 勝手に感心された挙げ句に落胆されても困ってしまう。なにしろガムイラスの体で持てる武器といえば、せいぜい小枝くらいだ。そのうえフェアリーのように魔力があるわけでもない。なるべく危険を回避して立ち回ることが生存術だ。


 今回は逃げるわけにはいかない状況で、敵と戦う力を持っていたということだ。


 視線に気づいて振り向くと降参した男がこちらを見ていた。そうか。リバス様の声はボクにしか聞こえない。周りからは独り言を言ってるようにしか見えないわけだ。


 「なんのつもりでポポルを連れていこうとしたんだ?」


 「知らねぇよ。……そのガキを連れてくるように命令されただけだ」


 「命令したのは?」 


 「リゲックの旦那さ」


 観念した男は素直に喋ってくれる。


 『ふむ、嘘をついている様子はないようだな。こやつからはこれ以上の情報は望めんだろう。消すか』


 おいおい、どうしてそんな結論にいきつくんだろうか。とはいえ、この男からは何も聞き出せないというのには同感だ。


 「こいつは逃がしてやろうかと思うんだけど、いいよね?」


 ポポルは荷台の上でポカンと呆けていた。声をかけられて、ようやく我に返ったように瞬きをする。


 「あ、あぁ。オイラはかまわないぜ」


 「だってさ。今回だけは見逃してやるよ。けど、次はどうなるかわかってるよね?」


 「ありがてぇ! もう、あんたらにゃ手をださねぇよ」


 男は言い終えると仲間を連れて一目散に逃げ出した。


 やっぱり魔王様の身体は凄い。実際に戦ってみて実感できた。魔物ガムイラスのボクだったらあっさりと殺されていたに違いない。


 「さぁ、遅くならないうちに帰ろうか」


 予定外の足止めをくってしまった。レミィさんが心配しているかもしれないし、早く帰ろう。

読んで下さってありがとうございました。

次話より毎日0:00更新を目指します。

引き続き、ご愛読をお願いいたします。

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