解放軍の拠点にて
「トゥナム様、ご無事で何よりです!」
「おぉ、奇跡だ!」
「わぁ、トゥナム様だ、トゥナム様だ!」
洞窟へとやってきたトゥナムを取り囲み歓喜する人々。フォラス領主として島民からいかに愛されていたかがうかがえる。
「わたしも皆が無事であったこと心から嬉しく思う」
トゥナムは手を差し出してくる人と握手を交わしていく。あんなにも握手を求められると対応するのも一苦労だな。
「さぁ、気持ちはわかるがこれよりトゥナム様とは今後について話し合わねばならん。積もる話は後にしてくれ」
トゥナムは、ラルバンが取り巻く人々を諭したことでようやく自由の身となった。
「すまない。後ほどゆっくりと語り合おう」
「約束ですぜ。あぁ、こんな嬉しい日は酒でも飲みてぇな。酒はねぇのかよ!?」
「バカだねぇ。そんなもん、あるわけないだろ。それにあんたはラルバンさんを手伝って戦わなきゃならないだろう! そのばかでかい体はなんのためにあるんだい!?」
「うへぇ、うちのかみさんがいちばん怖ぇや」
酒を探そうとする大男を中年の小太りした女性がたしなめる。その会話に周りの連中がドッと笑う。薄暗く湿った空気が満ちる洞窟の中が和やかな雰囲気になった。さっきまでは陰鬱な気持ちでいたに違いない人たちの表情をこれほど明るくするなんて……。
『カリスマ性というやつだな』
リバス様もボクと同じことを感じているようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「まず聞いておきたいのだけど、現在のフォラスはどのような状況にある?」
かつてホブゴブリンが占拠していたフロアの端に設けられた簡素なテーブルを囲むように椅子が並べられていた。その一つに腰を掛けながらトゥナムが切り出す。
「俺はつい一月ほど前まではスヴェインの下でおりました。それというのも、スヴェインは魔王ルベタがガボやアークデーモンを使ってフォラスを支配しようと企てていると吹聴しており、それを真に受けてしまったのです」
「事実無根だ」
すかさず反論する。
「当時の俺たちはそれを信じていた。その理由としては、まず、ガボがレウオやメルーを殺したという事実があった」
「それはスヴェインがそういう風に仕向けた結果さ。あいつは魔族を凶暴化させることができるんだ」
「次に、ルベタがリゲックやコルオーン、ルザ、ベレグを呼び出して襲ったあとに姿を消したこともスヴェインの話に信憑性を持たせる要因の一つだった」
「彼らを殺したのはボクじゃない。アークデーモンだ。そもそも彼らが僕を呼び出したんだ。もちろんボクとアークデーモンが仲間だということはない」
「さらには領主の屋敷を襲撃し、ランツァ村長をさらって逃走。挙げ句に殺害した村長の遺体を海に投げ捨て、駆けつけたチセーヌの村人に襲いかかった」
「ボクが村長を殺したというのは嘘だ。村長を殺したのはスヴェインだ。それどころか、ボクを凶暴化させてチセーヌの人たちを襲わせたのもあいつだ。それにチセーヌの人たちを傷つけたりはしていない。武器は破壊したけどね」
「そして、ガボによる屋敷の襲撃事件……」
「あれはボクを助けだそうとしていただけだ。いわれのない罪で監禁されて処刑間近のボクをね……」
「ああ……。その時、俺はガボと直接話した。あいつが口からの出任せを言ってるようにはどうしても思えなかった。だからこそ、ガボに蹴散らされた警備隊の連中の介抱を終えたあと、スヴェインを問い詰めたのさ。そこで、今、ルベタが言ったことが全て真実だと、俺たちは騙されていたと知ったんだ……」
ボクとラルバンの会話を黙って聞いていたトゥナムが口を開く。
「それでスヴェインと決別したんだな」
「無論、スヴェインは全てを知った俺を殺そうとしました。どうにか屋敷から逃げ出すことに成功した俺はチセーヌやピラックで住民たちにスヴェインの本性を訴えたのです。しかし、多くの者は俺の言うことを信じてくれなかった」
「そうして、ラルバンの言葉を信じた少数の者たちを味方として解放軍を結成した、と。今でもスヴェインの言ったことを信じる者が多いのだな?」
「ええ。なにせやつは長い年月をかけて我々の信頼を得ておりますので……。それに魔族に対する偏見も根強くあるというのも大きな要因ではありますな」
『人間とはかくも愚かなものだ。はたして、このような種族と共存できるであろうか? 理想を求めるのもいいが少しは現実に目を向けるべきであろう』
リバス様の言い分も一理ある。一時はボクも人間との共存を諦めかけていた。人間と魔族との間にあるものは一朝一夕でなくなるものではないのだ。だけど、いつの日か……。
『それでも貴様は人間を信じるなどとぬかすのであろうがな。ならば我は何も言うまい。好きにするがよいわ』
「では、解放軍の現状を聞かせてもらおうか」
当然、聞こえていたわけではないだろうが、リバス様の理解が得られたところでトゥナムが発言する。
「備蓄していた食糧はもうほとんどありません。さらに武具の消耗も激しくそちらも在庫はなく、さらに傷薬なども底をついております」
「後がないということか」
「残念ながら……。故に我々は総力を挙げて領主邸に乗り込むつもりたったのです」
ラルバンの説明にトゥナムがため息をつく。
「持久戦になれば不利であるなら、そうするしかあるまい。しかし、それでも勝率は極めて低いな」
「おっしゃる通りです。こちらは怪我人ばかりで無傷の者はおりません。対して敵方の戦力ですが、リゲックが雇った連中に加え、どこから集めたのか定かではない手練れが数名おります」
「そう、か。となれば、こちらにルベタがいてくれることが救いだな」
「まったくです。ルベタは我々にとって希望そのものですからな」
面と向かって言われると照れてしまう。
「ルベタ、改めて謝らせてくれ。本当に申し訳なかった! だからといって許されることではないのは承知の上だ。俺がもっと状況を把握していればガボは死なずにすんだはず。スヴェインに騙され、奴に加担したのは不覚だった。その罪は俺の一生をかけて償っていきたいと願っている」
「その件についてはもういいよ。それに、ガボはボクたちが互いに協力してスヴェインを倒すことを望んでいるはずさ」
「ルベタ……。恩に着る!」
ラルバンは涙ぐんだ両目を隠すかのように瞼を閉じた。
その後、ボクとラルバン、トゥナムが中心となって軍議が始まった。
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