近況
「チセーヌは随分と荒らされてるみたいだけど何があったんだい?」
レミィとポポルの家へとやって来た。ここもドアや壁が破壊され、内部も踏み荒らされている。
「1ヶ月くらい前に警備隊の人たちがやって来て、ルベタを匿ってるなら差し出せって……」
1ヶ月前というとボクが屋敷から逃走してすぐだな。レミィはその当時のことを思い出してるのか。身体を小刻みに震わせ、目は涙ぐんでいる。よほどの恐怖だったんだろう。
「そうだったのか。だけど、ボクはチセーヌにはいなかった……」
小さく頷くレミィ。
「私たちはそう言ったんだけど信じてもらえなかった。それから警備隊の人たちは村中を荒らし回って捜索し始めたの。彼らが立ち去った後は……」
それでこんなに荒れ果ててるわけか。しかし、スヴェインもいよいよ本性を現してきたみたいだな。以前のやつならこんな行動はとらなかっただろう。ボクを殺し損なったことで焦燥感がでてきているのかもしれない。
「最初、村の皆はあなたのことを恨んでた。疫病神だって……」
「疫病神だなんて、ひどいなぁ」
「当時はみんなスヴェインに騙されていたの。あなたがこの島を自分の物にしようとしてるって言われてたから……」
それでチセーヌの人たちはボクを襲ってきたのか。
「ごめんなさい!」
レミィは深く頭を下げて謝ってきた。ボクはポカンとしてしまう。
「今はあなたは何も悪くなかったってわかってる。ルベタは悪い人じゃないってわかってたのに、私……信じてあげられなかった! ……きっとルベタが魔王だってことに対しての偏見があったんだと思う。魔族と人間は分かり合えないんだって決めつけていたのかもしれない。だから……私……あなたを裏切るようなことを……」
その場に泣き崩れるレミィ。強い悔恨の思いが苦しいほどに伝わってくる。
「どんなに謝ってもゆるしてもらえることじゃないのはわかってる。本当に、ごめんなさい……」
涙ながらに謝罪し続けるレミィの肩に手を乗せる。
「いいさ。人間と魔族との溝はそんなに簡単に埋められるものじゃない。だけど、少しずつでもお互いを理解していけばいいじゃないか」
微笑むボクの胸にレミィが飛び込んでくる。その華奢な身体をそっと抱いた。以前よりもレミィをさらに身近に感じる。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「みんなは今どこに?」
落ち着きを取り戻したレミィに訊ねる。
「フォラスをスヴェインの手から解放するために戦ってるわ。私も参加してる」
「レミィも戦ってるのか!?」
返ってきた答えに驚かされた。しかし、レミィは首を横に振る。
「ううん、違うわ。私が戦闘に加わっても足手まといにしかならないもの……。だからね、戦ってる人たちの身の回りのお世話をすることにしたの。私にできることなんてそれくらいだから……」
レミィは悔しさをにじませている。
「だけど、ほとんどの人は実戦経験がないだろう?」
「うん。でも、ラルバンさんが味方をしてくれてるから今のところはなんとか……」
「そうか。ラルバンはたしか警備隊の隊長をしてたんだよね?」
「ええ。……でも、あいつらとまともに戦えるのはラルバンさんだけなの……。相当無理させちゃってるわ」
「ピラックはどうなってる?」
レミィは話題がピラックのことに変わると表情を曇らせた。
「ピラックの人たちはスヴェイン側の仲間に引き入れられたみたい。それを拒んだ人は殺されたって聞いたわ……」
『あの男、相当強引になってきておるようだな。それだけ貴様の存在が奴にとっては無視できぬものになったということか』
「だけどね、今、フォラスの領主はスヴェインじゃないの」
「それじゃ、いったい誰が?」
「ベレグよ」
なんだって? あのベレグがフォラスの領主に?
『あの愚かな勇者もスヴェインに利用されておるようだな。もっとも、利用価値がなくなれば速やかに消されるのだろうが』
ボクもリバス様と同じ意見だ。ベレグのことはあまりよく知らないけど、これだけの大それた行動を起こせるような人物には思えない。となれば、裏で糸を引いている黒幕はスヴェインとみて間違いないだろう。
「たぶん、ベレグはお飾りとして領主にされているだけなんじゃないか?」
「うん。そうだと思う。そもそもここまでの騒動を引き起こす度胸なんてないはずだもの。利用されてるとしか考えられない。もしかすると本人はこれだけ大変な事態になってることすら知らないのかも」
相変わらずベレグの評価の低さときたら……。
「でも……スヴェインが言ってたの。勇者ベレグは魔王ルベタを撃退した英雄だって。それを真に受けてる人もいるわ。あと、チセーヌやピラックでの警備隊の行動は全てベレグが指示してることになってるの」
なに!? ボクがいつベレグに敗北したというんだ! まったくいい加減な噂は流さないでほしいもんだよ。
『なるほどな。悪事は全て愚か者のせいにしておけば、用済みとなった時に始末するための大義名分も作りやすいわけか』
スヴェイン、なんて恐ろしい奴なんだ。
「ねぇ……その……こんなことをお願いできる立場じゃないのはわかってるんだけど……」
「スヴェインはボクにとっても倒さなければならない敵だ。だけど、レミィたちと協力するかどうかは少し考えさせてほしい。明日の昼にここで待ち合わせることはできるかい?」
ボクに協力を求めることに躊躇いを見せるレミィに対してこちらから提案を持ちかける。
「うん、わかった!」
「よし。今はこれで解散しよう。スヴェイン側の連中に見つかると面倒だ」
「ルベタ、気をつけてね!」
レミィはボクの頬に軽く唇を当てると足早に立ち去っていった。突然の出来事に呆然と立ち尽くしてしまう。
『あの小娘たちに協力してもいいと思ったな?』
リバス様に図星を突かれる。
『まったく……。紛いなりにも魔王を名乗っておる者が人間の小娘ごときにうつつを抜かすとは情けない』
うぅ……。それはそうかもしれないけど、あんなの反則じゃないか。ボクは火照る頬を風にさらしながらトゥナムが待つ洞穴へと向かった。
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