大賢王の杖
「隠れ場所としては悪くない」
チセーヌに程近い森の中、ひっそりと存在する小さな洞穴を一通り調べ終えたトゥナムが言う。
「でも、本当に大丈夫なのかな? この場所をボクに教えたのはレミィなんだ。ここで彼女に渡された水を飲んで眠らされて屋敷に監禁された。つまり、ここはスヴェインたちに知られてるはずだ」
トゥナムは不安を言葉にするボクの肩に手を置く。
「心配いらないさ。ここならチセーヌに近いから何かあればすぐに合流しやすい。また、反対にルベタに何かあったとしても素早く行動に移れるじゃないか」
「それはそうだけど……」
「わたしよりもルベタのほうが危険だ。今のチセーヌがどんな状況にあるのかわからないまま潜入するわけだからね。当然、大勢の敵が待ち構えている可能性も大いに考えられる」
「だとしても、村長がボクに何を託したのか確かめたいんだ。それにボクには魔王の紋章があるからね」
「そうか。ならば、わたしは君を信じてここで待つとしよう」
「了解! すぐに戻ってくる」
ボクとトゥナムは握手を交わして別れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『静かだな』
チセーヌにやってきた。既に日は昇っているというのに村人の姿はない。いや、それどころか家々からも人の気配を感じられず、全壊もしくは半壊している建物も見受けられた。それに田畑も荒らされている。不気味なほどに静まり返っていて廃村といった雰囲気がある。
「そうですね。村の人たちはどこへ行ったんですかね?」
『さぁな。我らには関係なかろう。そんなことよりもさっさと目的を果たすべきではないか?』
たしかにリバス様の言う通りだ。チセーヌの人たちがどこにいても今のボクたちに関係はない。もっと言えば、敵である可能性すらある連中なんだ。ひとまずチセーヌの村人のことは気にせず村長の家に向かうことにした。
「うわぁ、これはまた……」
村長の家は壁が破壊されており、内部もかなり荒らされていた。家具が散乱した室内を進み、押し入れの中を確認する。
「これか」
そこには鍵穴のついた箱が床にしっかりと固定されていた。ボクは懐から村長に渡された鍵を取り出して鍵穴に差し込む。少し緊張しながらゆっくりと鍵を回す。カチャリと音がした。
「おぉ、開いた!」
『それはそうであろう。開かなければあのジジイが貴様に鍵を渡す意味がなかろうが』
リバス様の冷静なツッコミがはいる。そりゃそうだね。当たり前のことを言ってしまったことをちょっぴり後悔しつつ蓋を開ける。
「これは……」
中には先端部に蒼い宝玉が取り付けられた杖が入っていた。そして、一通の手紙が添えられていた。
ボクは手紙に手を伸ばす。それは村長がボクに宛てて書いたものだった。
ルベタ殿がこの手紙を読んでおるということは、わしは既にこの世にはおらんのじゃろうな。この手紙はおまえさんがポポルと共に初めて訪ねてきてくれた日に書いておる。
ルベタ殿から魔王リバスと身体を共有してると聞かされた時は信じ難い気持ちじゃった。しかし、嘘をついてごまかしている様子もなく、またルベタ殿は信じるに値すると感じたんじゃ。不思議なもんじゃが、出会って間もないルベタ殿のことをわしは非常に気に入った。
近頃はこのフォラスにも不穏な動きがある。何か恐ろしい事が起きそうな予感がしてならん。そんな時、ルベタ殿が現れた。正直に言おう。わしはおまえさんならばこの島を救うことができるのではないかと考えておる。あるいはその為に神が遣わせてくれたのかとさえ思えるんじゃ。
もしもルベタ殿がこの島を救ってくれたなら、その時にこの箱の中身を進呈しようと思っておったんじゃが、手渡しすることはかなわんかったようじゃな……。しかし、この箱を開いておるということは鍵は無事に渡すことができたということじゃろうから一安心かの。
若い頃、とある勇者殿に付いて世界中を旅しておった時に愛用していたのが、この大賢王の杖じゃ。
大賢王の杖はオリハルコンと賢者の石を素材として作られた物で、杖そのものにも魔力が宿っておる。魔術の才を持つルベタ殿ならば必ずや使いこなせるはず。
最後になるがこれだけは伝えたい。ルベタ殿、おまえさんはガムイラスという最弱モンスターの過去を持った唯一無二の魔王。それゆえに弱者の気持ちも理解できるのじゃろう。いつの日か名実ともに真の魔王となる時がくるじゃろう。しかし、その優しき心を忘れないでいてほしい。
では、さらばじゃ。優しき魔王よ……。
『ジジイめ。まさかこれほどの武器を隠しておろうとはな。はっきり言って、今の貴様にはもったいないほどの代物だな』
リバス様、相変わらずズバリ言ってくるよね。でも、その指摘は間違っていない。
「そうですね。だけど、いつかはこの杖を扱うに相応しくなってみせますよ」
『ふっ。せいぜい精進するのだな。手始めにスヴェインを倒してみせよ。それくらいはできねば話にならんからな』
「任せてください。村長に大切な杖を託された以上は負けるわけにはいきませんから絶対に勝ちます!」
ボクは村長とリバス様に勝利を誓った。
大賢王の杖を手に入れ、村長の家を後にしようと外に出た。そこで複数の男たちに追われて駆けてくる少女を見つけた。
「レミィ……」
ボクはその少女の名を呟いた。
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