1ヶ月後……
ランツァ村長の死から1ヶ月が過ぎた。
ボクとトゥナムは来るべき決戦に向けて出来うる限りの準備をしてきた。
ガボはやはり帰ってこなかった……。覚悟はしていても容易には受け入れ難い。しかし、ボクたちには哀しみに沈む暇さえない。立ち止まってしまうわけにはいかない。泣くのはいつだってできる。それよりも今は前に進むことを考えなきゃ。
「いよいよだな。ここでできることはもう何もない」
拠点として使っていた洞窟の海側の出入口。隣に立つトゥナムが話しかけてくる。ボクは無言で頷く。
「わかっていると思うが、外の状況がどうなっているのか一切不明だ。最悪の場合、わたしとルベタだけでスヴェインたちを討たねばならない」
「今さらだな。ボクは最初からそのつもりだ。そのために1ヶ月も時間を費やしたんだ」
備え付けの時計で潜伏していた期間は把握できた。が、ガボという貴重な戦力を失ったことで外からの情報は途絶えてしまった。現在のフォラスに味方はいないと考えておいたほうがいいだろう。
「それを聞いて安心した。それじゃ、よろしく頼む」
「うん」
意識を集中して新たに覚えたスキル《水中呼吸》を使用する。これはボク自身とボクが触れている者を対象に水中での呼吸を可能にするスキルだ。
トゥナムに視線を送る。彼が頷くのを確認して、その手を取って海中へと身を躍らせた。そのまま潜っていくと壁に空いたトンネルが出現する。ここを通り抜ければ海に出ることができる。ボクは《水中呼吸》と《水中移動》を併用してトンネルを通過する。
この二つのスキルを習得するのも命懸けだった。いや、大袈裟ではなく本当に死にかけた。窒息寸前まで海水の中にい続けた。何度か失神しかけたりもしたよ。リバス様による地獄のような特訓は思い出しても生きているのが不思議なほどだ。おかげで《水中呼吸》と《水中移動》を新たに習得しただけではなく、二つのスキルを同時に扱うこともできるようになったのだから今では感謝すらしている。
トンネルを抜けて頭上を見上げる。太陽の光を浴びてキラキラと輝く海面が見える。すぐに浮上して海面から顔だけを出して索敵魔術する。周辺には怪しい気配はないようだ。《水中呼吸》と《水中移動》を解除して、代わりに《飛行》を使って島に上陸する。
「ここまでは順調だね」
「ああ。まずはチセーヌにある村長の家へ向かおう。村長がルベタに託した物を回収しなければね」
そう。ボクたちの最初の目的地はチセーヌだ。しかし、実際に行くのはボク一人の手筈になっている。その間、トゥナムは近くで待機して必要に応じて動けるようにしておく。チセーヌがボクたちに敵対していると仮定した場合、二人で村に入ると罠に陥って全滅させられる可能性があるためだ。それに、ボク一人なら《不可視》で姿を消せるため発見されるリスクが少ないという利点もある。
ボクたちはお互いに顔を見合わせると並んで歩きだした。
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