ランツァ死す
トゥナムに続いて屋敷の物置部屋から続く抜け穴を進む。トゥナムが施してくれた回復系下位魔術のおかげで少しは楽になった。
「村長はどうなったんだ!?」
ボクは最も気がかりな事を前を行くトゥナムに質問する。もちろん足を止めずにだ。
「正直に話そう。村長はそう長くはもたないだろう。解毒魔術を使って治療を試みたが効果が不十分で延命しかできない。それももう限界が近い……。それで、自らの死期を悟ったランツァ村長が君に伝えたいことがあるそうなんだ」
「それでガボはあんな無茶をしたのか……」
重苦しくなる空気を感じながらも歩調は速くなる。
「ところで、さっきの抜け穴はどこに通じてるんだ?」
「外だ。ああしておけば君があそこを通って外に脱出したと思わせることができるだろう? ダミーってわけさ。で、こっちの通路が本当の抜け道だ。長期間の潜伏を想定して造られたのだろうね。最初から釣具や調理器具、寝床、照明器具も揃っていた」
「トゥナムはあの隠し通路があることをよく知ってたね」
「わたしは幼い頃からよく屋敷の書斎で書物を読み漁っていたからな。その中に我が一族の古い文献があって、そこに記されていたのだ。もっとも、わたしは剣術・槍術・体術・魔術すべてが凡人止まり。本を読んで知識を蓄えるくらいしか取り柄がないのだが……」
トゥナムは自身に失笑する。
「それはそれで凄いことだと思うけどな。そうやって得た知識を使ってフォラスを治めていたんだろ? それだって立派なことだよ!」
「ありがとう。そう言ってもらえるとすごく嬉しいよ」
ボクのほうに視線を送って笑顔を見せる。が、決して歩みを止めない。
「なぁ、どうしてボクが物置部屋へ行くことがわかったんだ?」
「ガボがどうしても君を助けに行くと言い出したから、物置部屋の鍵を渡したんだ。君が捕らえられているとすれば地下の最も奥にある監禁部屋だと思ったからね。それで、その途中にある物置部屋の扉を解錠しておくように言っておいたのさ」
「なるほど。そうだったのか」
改めてガボに心から感謝する。
「しかし、不用意に開けるわけにはいかなかったからね。壁の向こうにいるのが君だと確信が持てるまで声をかけるわけにはいかなかったんだよ」
その後、ボクたちは村長のいる居住スペースへとさらに歩調を速めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「村長!!」
隠し通路を抜けて洞窟の居住スペースへとやって来たボクの目にベッドに横たわる村長の姿が映る。駆け寄ってその手をとる。
「ルベタ……殿か……。よ……かっ……た……。無事……だったん……じゃ……な」
「うん!……ボクは大丈夫だ……」
「そう……か……。ルベ……タ……殿に……渡……したい……物が……ある……」
「ボクに?」
村長は僅かに頷く。
「わ……しの……家の……押し……入れに……箱が……ある……。その……中身……を……受け取って……く……れ……。この……鍵……を……」
「わかった! わかったからもう何も喋らなくていい!!」
とめどなくこぼれ落ちる涙が村長とボクの手を濡らす。懐から取り出した鍵をボクに渡すと力なく儚げに微笑を浮かべる村長。
「魔……王……が……こんな……ジジイ……一人が……死ぬ……程……度で……泣いて……どうする……。それ……に……タダ……ではな……い……。島……の……連……中が……ひどい……こと……を……した……じゃろう……が……許……して……やって……ほし……い……。人の……心は……時に弱く……脆い……もんじゃ。……そし……て……、願わ……くば……フォラ……スを……救って……お……く……れ……」
そこまで言うと村長の全身から力がなくなる。
「村長!? 村長ーーーー!!」
ボクは痩せ細った、遺体となった村長に抱きついて号泣した。村長とは短い付き合いだった。それでも、常にボクの味方であり続けてくれた、かけがえのない恩人だ。その大切な人を守りきれなかった悔しさ、そしてとてつもない喪失感がボクの胸を苦しいほどに締め付ける。魔族……しかも魔王であるボクが人間の死を悲しむのはおかしいのかもしれない。だけど!!
『今は存分に泣くがよい。だが、その後にやるべきことがあるのを忘れるでないぞ……』
リバス様の言葉を胸にボクは哭き続けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どれくらい経ったのだろう。時間の感覚が全くない。ボクはゆっくりと立ち上がる。
「もう、落ち着いたか?」
傍らの椅子に腰掛けていたトゥナムが静かに語りかけてきた。
「もう、行くよ」
「行く、か。どこへ?」
「決まってるじゃないか」
「そうか。だが、今は行かせられない」
「どうして!?」
「冷静に現状を考えてほしい。君は丸腰のうえに満身創痍だろ。そんな状態でどうやって奴らと戦うつもりだ?」
トゥナムの指摘に言い返すことができない。丸腰で倒せるような甘い相手ではないのは事実だ。
「今やるべきは自分の傷を癒すことだ。それから奴らと戦うための力を身につけることだろ?」
『ふん。人間風情に諭されおって』
リバス様もトゥナムと同じ考えのようだ。ボク自身もそれが正しいのだろうと思う。村長の仇をとるには今のボクでは不可能だ。込み上げてくる悔しさを堪える。きっとトゥナムだってすぐにでも行動を起こしたいに違いない。それなのに、ボクが勝手に動くわけにはいかない。そんな事をすればガボが命懸けで助けてくれた事さえ無駄になってしまう。
「わかった……」
拳を固く握りしめてベッドに腰をおろす。
「ありがとう。次にここから出る時はわたしも同行しよう。共に逆賊を討ち取ろうではないか!」
「ああ、必ず!」
ボクとトゥナムは握手を交わし、互いの強い意志を確認するのだった。
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