裏切り
「う……ん?……」
眠っていたのか。ボクはどうしたんだ? たしかレミィに案内されて洞窟へ行って休んだんだよね。それから水を飲んで……。
「ここ、どこだ!?」
ゆっくりと周りを見回して驚愕する。そこは洞窟ではない。見覚えのある地下室だ。そう、ここは村長が捕らえられていた部屋じゃないか。どうしてこんな所にいるんだ!? 困惑していると鉄扉が開き、スヴェインが入ってくる。
「クックックッ……。どうやら状況を理解されていないようですねぇ」
微笑を浮かべているが、その双眸には冷酷な光が宿っている。
「なんだと!?」
スヴェインに飛びかかろうとして、自分の四肢が壁からのびた鎖で繋がれていることに気づく。それに背中のヴィデルガラムもなくなっている。
「なぜだ!? なぜボクの居場所がわかったんだ?」
ボクは森の洞窟に隠れていたはずだ。それなのにどうして?
「フハハハハ……。わかりませんか? あなたがあの洞窟にいることを知る人物は一人だと思うのですがねぇ?」
どういう意味だ? ボクが隠れていた場所を知る唯一の人物だって? ……そんな、まさか!?……そんなことあり得ない!!
ボクが思い至った答えを見透かして愉快そうに嗤うスヴェイン。
「お気づきになられたようですね。その通りですよ。あなたの居場所の情報をわたくしどもに提供して下さったのはレミィさんです!」
『あの小娘がぁ! 下賎な人間風情が魔族を謀るとどうなるか、たっぷりと思い知らせてくれるわ!!』
これまでに感じたことがないほどの激しい怒りの感情が伝わってくる。いや、憎悪といったほうがいいのかもしれない。だけど、この激情はリバス様だけのものなのだろうか。違う。きっとボク自身の感情でもある。信じたくないという思いと絶望、そして憤怒……。そういったものを抱いてるのは間違いない。
「信じられませんか? まぁ、それも無理はありません。彼女のことを心底から信じておられましたからねぇ。ですが、真実とは時に残酷なものです」
薄ら笑いを浮かべている。絶望にうちひしがれているボクを見つめるスヴェインの眼は愉しげだ。
「いやはや、ルベタ様には驚かされてしまいますよ。わたくしの毒針を受けて理性を保ち続けるとは……。ガボがレウオさんとメルーさんを殺してくれた時のように、ルベタ様がランツァ殿を始末してくれれると思ったのですが、とんだ期待外れでした。そうしてくれればあなたが冷酷非情な魔王だと決定付けるのも簡単だったのですがねぇ」
やっぱり、ガボの時もこいつが小細工していたのか! 許さない、この男だけは絶対に許すわけにはいかない!
「あぁ、ついでにもうひとつネタばらしをして差し上げましょう。レミィさんがあなたに渡した水ですがね、あれはわたくしがレミィさんに渡した物です。飲んだらすぐに眠たくなったでしょう? あれには強力な睡眠作用があるんですよ」
まさか……本当にレミィがボクを裏切っていたというのか!?
「まぁ、あなたの手でランツァ殿を殺していただけなかったのは非常に残念ではありますが、どちらにしても村長の運命は変わりません。今ごろはあの目障りな村長も亡くなられていることでございましょう」
「どういう意味だ?」
「いいでしょう。教えて差し上げますよ。わたくしが扱う毒針は魔族には破壊衝動を呼び起こす作用があるのですが、人間にとっては猛毒なのでございます」
『それが事実だとすると、あのジジイも相当危険な状態になっておるな。そこは我にとってはどうでもよいがな』
どうでもよくない! 村長はこの島で数少ない味方なんだ。なんとかして助け出したいけど身動きが取れない。どうすればいい? ボクは冷静にあろうと努める。だが、思考がまとまらない。
「さぁて、そろそろ始めるといたしましょうか」
「始めるだって?」
「ええ。冷酷非情なる魔王の処刑を執行する時間でございます。すぐに殺して差し上げてもよかったのですが、それではあなたに罪を悔いていただく間すらありませんからねぇ。楽には死なせませんのでお覚悟を……」
スヴェインは冷たい笑みを見せながらショートソードを鞘から抜く。
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