暴走
「うおぉぉぉぉ!!!」
高台に降り立ったボクは力任せに鉄棒で何度も地面を叩く。こうしていないと狂気にかられてとんでもないことをしてしまいそうだった。
「うっ…ぐぅ!!……」
破壊衝動はますます強くボクを支配していく。
『よく聞け。まずは深呼吸でもして精神を落ち着かせろ』
リバス様の助言に従うが効果が全くない。
『ふむ。これは相当に強力なものだな。あの男、何者か……』
相変わらず冷静な分析をするリバス様。そんなことより早くなんとかしてほしいんだ!
『さて、どうしたものか。我ほどの精神力があれば問題ないのだが、貴様にそれを求めるだけ無駄であろうな。……そういえば、出発前にトゥナムから幾つかの道具を渡されていたな。役に立つ物があるかもしれん。出してみろ』
薄れていく自我を必死で保ちつつ懐にしまっていた道具を全て取り出す。
『薬草に毒消しに包帯、それから聖水か。ククク……、魔王に聖水を持たせるとはなかなかシャレが利いておるではないか』
今はシャレがどうとか関係ない! なんとかならないのか!? 焦燥感ばかりが募っていく。ボクは自らの衝動を少しでも抑制すべく転落防止のために設けられていた柵を破壊している。
『そうだな。まず薬草と毒消しを包帯で包んで叩いてみよ。あとはそれに聖水をかける。最後に包帯を咥えて薬草・毒消し・聖水を吸い出せばよかろう。即効性はないが精神を安定させる効果は期待できようぞ』
助かる! すぐに効果が出ないのは残念だけど贅沢を言ってる余裕などない。理性が残っている間にそれらを実行しなければならないんだ! でなきゃ、取り返しのつかない事態を引き起こしてしまいそうだ……。
「ぬがぁぁ!!」
とりあえずリバス様の指示通りにした。あとは効果があらわれるのを待つだけだ。
「魔王ルベタだ! 本当にいたぞ!!」
突如聞こえてきた人の声に振り向く。そこにいたのはチセーヌの村人たちだ。皆、それぞれに武器を手にしている。くそっ、なんだってこんな時に!?
「おい、なんか様子が変じゃねぇか?」
「ああ、そうだな。今なら俺たちにも殺れるかもしれねぇ!」
各々の武器を構えてジリジリと接近してくる村人たち。やめろ! ボクを刺激するな!!
「死ね、魔王!」
村人が放った矢が次々に飛来する。防御していてもダメージは避けられない。よろめくボクを見て勝機を見出だしたのか、斧や鎌などを手に襲いかかってくる。
こいつらぁ!! ボクの中でどす黒い殺意が渦巻くのを感じる。そんなに死にたいのなら望み通りにしてやるさ!
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
咆哮をあげて向かってくる村人たちを葬り去るべく体勢をとる。
少女の姿が脳裏をよぎった。レミィだ。ここでこいつらを殺してしまっては彼女が悲しむ。そんなことはできない……
ボクは鉄棒を振るって村人たちの持つ武器を破壊していく。これならば戦意を喪失して逃走するだろう。
『なんとも甘い考えだな。このような下賎な者どもなど皆殺しにすればよいものを……』
リバス様に言われるまでもない。だけど、レミィを悲しませるのは嫌なんだ。
「なっ!?」
予想外の事態になった。村人たちはその場で腰を抜かしてしまったのだ。そして、その目には明らかな恐怖が宿っている。彼らにはボクが凶悪な魔王としか認識できないのだろう。
「くそっ!」
ボクはその場から離れることにした。そうしなければ全員を殺害してしまいそうだったからだ。少しでも遠くへ行こうと無我夢中で駆け出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ルベタ!」
高台をあとにしてすぐだった。ボクの名を呼ぶ声に動きが止めて振り向く。そこにはレミィの姿があった。
「無事だったのね。こっちに来て!」
よかった。レミィはボクを信じてくれたんだ。自分の味方をしてくれる人がいてくれたことが嬉しかった。
ボクはレミィの後を追って森の中へと入っていく。
たどり着いた先は小さな洞穴だった。
「ここなら他の人に見つかる可能性は低いわ」
「助かったよ。悪いけど……暫く一人にしてくれないかい?」
レミィに感謝しているが一緒にいては何をしてしまうかわからない。彼女の安全を確保しなければ。
「うん。これでも飲んで落ち着いてね」
そう言って水の入った瓶を手渡してくれる。
「ああ、ありがとう」
レミィは無言で頷くと足早に立ち去った。一人残ったボクは壁に体をあずけて水を飲み干した。
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