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魔王様の大冒険  作者: 美山 鳥
第6章 裏切りと捕らわれた魔王
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スヴェイン戦①

 「よし、到着だ!」


 海辺の高台までようやくたどり着いた。あとはガボを呼ぶだけだ。


 『待て』


 「ん? どうしたんですか?」


 ガボを呼ぶことを止められてしまった。少しでも早く姿を隠さなければならないのにどうしたというのだろうか。


 『つけられたようだな。肉体の内部に引っ込められてあらゆる感覚が鈍っておるとはいえ、我でも気づかぬように尾行するとは驚きではある』


 そんなばかな!? 《俊足》を併用していたから感度は著しく低下しているとはいえ、索敵魔術エネミーサーチではおかしな気配はなかったはずだ! ボクは信じ難い思いで背後を振り返る。誰もいない。リバス様の気のせいか? だいたい魔王にも気づかれずに尾行するなんて誰にでもできることじゃない。いや、そのリバス様がつけられたと言っているんだぞ。だとすれば、それが可能な人物は……。


 「くっ!」


 相手も尾行に気づかれたことを悟ったのだろう。強烈な殺気を隠すことなく向けてくる。


 「やっぱりそうか。あんただったんだね、スヴェイン!」


 「ホッホッホッ。気づかれてしまいましたか。さすがでございますな、ルベタ様……いや、失礼しました。魔王ルベタ様とお呼びすべきでしたかな」


 姿を現したスヴェインには以前までの温厚さなど微塵も感じられなかった。こっちが本来の彼なのだろう。いつもの執事服を着てはいるが腰にはショートソードを提げている。


 「そんなのどうだっていい。いろいろと裏で手をまわしてるみたいだね。そうまでしてフォラスを武力強化するのはなぜなんだ?」


 スヴェインは鼻で笑う。


 「そのようなことはどうだってかまわないでしょう。ルベタ様がわたくしを止めるというのならば力ずくで実行することです。しかし、わたくしとて負けるつもりはございませんがね」


 鞘からスラリと抜かれたショートソードの刀身が陽光を反射する。戦闘を避けることは不可能だというのなら戦うしかない。ボクは鉄の棒を構える。


 潮風が頬を撫でる静かな昼下がり。本来ならのんびりと過ごしたいところだけど、目の前に敵がいるのであればそういうわけにもいかない。しかも相手は強敵だ。


 「参ります!」


 スヴェインが先に動く。無駄のない動きで水平に閃くショートソードを鉄の棒で受け止めて弾き返す。ボクからの反撃を警戒して距離をとるスヴェイン。一瞬の判断力に長けている。これまで相当な場数を踏んできたんだろう。これはまずい。経験値の差は大きいぞ。


 「うわっ……くっ……おぉっと」


 再び接近戦を挑んできたスヴェインは様々な角度から次々と斬撃を繰り出してくる。これでは防ぐだけで精一杯だ。とてもじゃないが反撃にでる余裕がない。はっきり言って、コルオーンたち5人を相手にしていた時よりはるかに強敵だ。


 「なかなか粘りますね。さすがでございます。しかし、防戦一方ではわたくしを倒すことはできませんよ?」


 くっそぉ。そんなことは言われるまでもない。だけど、攻撃の手数が多いうえに動きも早いから間合いをとることも困難だ。


 『ほほぉ。こやつ、我の予想よりもやるではないか。なかなか面白そうだ』


 こっちは鬼のような連撃への対処で大変だというのにリバス様は他人事のように話してる。一応、この身体はあなたの物でもあるんですけど!? ん? 今、なんて言った? 予想よりもはるかにって言ったよね?


 「リバス様? もしかしてスヴェインが強いのをご存知だった、なんてことは?」


 『ああ、知っておった』


 こいつ、あっさりと白状したよ!


 「それなら教えてくれてもいいじゃないですか! いつから気づいてたんですか!?」


 『最初に会った時からだ。気配の消し方は熟練者の域であったし、己の実力を悟られぬよう細心の注意を払っておったしな。まぁ、我には全く意味がなかったというだけだ』


 ぬぬぬ! そんな前から知ってたのか。


 『それに、貴様自身もこやつのことを信用しておったであろうが。仮に我が注意を促したところで素直に聞き入れておったかどうか。さらに言えば、貴様が領主の屋敷を初めて訪問した際、帰り際にそれとなく伝えてやったというのに気づきもしなかったではないか』


 屋敷からの帰り際だって?


 「あぁ!」


 記憶をさかのぼって思い出した。あの時、リバス様は、戦えばただではすまなかったというようなことを言っていた! あれはリゲックのことじゃなかったのか!!


 『やっと理解したか』


 リバス様、もっとわかりやすく教えてほしかったです……


 「わたくしと戦闘中だというのに随分と余裕がおありのようですな」


 リバス様との会話中も激しい斬撃を繰り返していたスヴェインは不快感をあらわにしている。スヴェインにとっては独り言を言っているようにしか見えないのだろう。


 「でしたら、これでもその余裕な態度をとっていられますかな?」


 スヴェインは練り上げた魔力で作った真空の刃を飛ばしてきた。神風系中位魔術ウインドカッターだ。


 「くぅ!」


 真空の刃が左頬にかすり傷をつける。それに気をとられて回避が一瞬遅れてしまった。ショートソードの切っ先が右脇腹をかすめていく。剣術だけじゃなくて魔術も得意なのか。


 スヴェインはなおも攻撃の手を緩めない。縦横無尽に閃くショートソード。防御魔術ガードの恩恵で致命傷は負っていないがダメージは着実に蓄積されている。


 なんとか間合いをとろうと後退するもすぐに詰められてしまう。


 「だったら、これならどうだ」


 《俊足》で加速してスヴェインの左をすり抜ける。だが、次の瞬間にはスヴェインはボクの目の前に立っていた。


 「なっ!?」


 信じられなかった。その動揺が再び隙を生んでしまう。スヴェインの強烈な蹴りがボクの鳩尾みぞおちに直撃した。後方へと勢いよく吹き飛ばされる。これは効いたぞ。


 「この程度のことで動揺するとは実戦経験が足りていない証拠でございますな。スキルはルベタ様の専売特許ではないのですよ。まして《俊足》の使い手など珍しくもありません」


 え? そうなの?


 『まぁ、そういうことだな。《俊足》や《剛力》などは数多くの者が修得しておるわ』


 知らなかった。これからは気をつけよう。剣術・魔術に加えてスキルを使うとなると、スヴェインはますます油断できない相手ということになる。


 魔王の紋章を解放すれば形勢逆転も可能なはず。だけど、あれは諸刃の剣だ。


 『紋章の力を使うのに抵抗があるようだな。いかに愚かな貴様とて学習はしたということか。だが、このままでは勝てる可能性は低いと言わざるを得ん』


 紋章の解放を躊躇ちゅうちょしているボクにリバス様が言う。その間もスヴェインの激しい攻撃は続く。斬撃は鉄の棒で受け流すことができる。しかし、不意に繰り出される神風系中位魔術ウインドカッターを回避できない。


 『さて、どうする?』


 リバス様に決断を促される。ボクは上空に跳躍すると《飛行》を使ってスヴェインとの距離をとる。そして、迷いを振り切って紋章を解放した。その瞬間、魔力が一気に溢れてくるのを感じた。

いつも読んでくださってありがとうございます。

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