ガボ・オーガ
うっ、冷たい……。頬に落ちてきた水滴によって意識が覚醒する。
「……ここは?……」
上半身を起こして周囲を見回してみるが全く見覚えがない。どうやらどこかの洞窟のようだけど……
「あっ、気がついたんだな! よかった、よかった」
現れたオーガが万歳をしてボクの目覚めを喜んでくれる。もしかして!?
「君がガボ……なのかい?」
期待に胸を膨らませつつ尋ねてみる。
「おぅ、おでの名前はガボ・オーガ! おまえ、ルベタだな。レミィとポポルの友達! つまり、おでの友達!」
親しげな笑顔で答えるガボ。想像とは違って随分と友好的だ。最悪の場合、戦わなきゃならないかもと覚悟していたのだけど、その必要なかったようだ。しかし、ボクの名前を知っているのはなぜだろう? 会ったことはないと思うんだけどなぁ。
「どうしてボクの名前を知ってるんだい?」
浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「おで、おまえのこと見てた。だから、おまえが悪い奴じゃないこと知ってる」
「どこかで会ったっけ? ごめん、憶えてないみたいだ」
ボクが謝るとガボは愉快げに笑いだした。
「それ、しかたない。本当の姿で会うの初めて」
本当の姿だって?
「どういうこと?」
訳がわからず訊いてみる。
「おで、変身するの得意!」
それまでは尖った耳と牙と角を持った厳つい鬼のような姿をしていたオーガの姿がみるみる変化していく。
「ああっ!」
変化したガボの姿に驚いた。コルオーンたちがピラックを襲撃した時、ボクを背中に乗せて街道を疾走したあの馬がそこにいた。
「あの時の馬が君だったのか」
ガボは元の姿に戻るとニカッと笑う。
「おで、おまえのことはチセーヌ村に初めて来た時から知ってるぞ」
ということはリバス様に吸収されて間もなくから知っているのか。
「その時は猫の姿してた」
「へぇ、オーガっていろんな物になれるんだね」
『オーガに変身能力があることも知らぬのか。本来はその能力を使って人間に近づき喰らうのだがな』
なるほど。つまり擬態するってことか。
「おで、最初はおまえのこと警戒してた。けど、おまえがいい奴だってわかった。おまえならレミィとポポル守ってくれる思った」
「そうだったのか。元々はレミィたちと一緒に暮らしてたんだよね。君がレミィやポポルの両親を殺害したって聞いたんだけど、どうなんだい? ボクには君がそんな事をするような奴には思えないんだ」
途端に俯くガボ。
「おで、あの時の事、憶えてない」
「記憶がないのか?」
問うとガボは黙って頷く。
「あの時、すごく、すごく暴れたい気持ちになった。そこからは何も憶えてない……。気がついたら、おでの手は血だらけ。レウオとメルー、近くで死んでた!」
ガボは両手で頭を抱えてうずくまる。思い出すのも辛いのだろう。
「レウオとメルーというのは、もしかして?」
「レウオはレミィとポポルのお父さん、メルーはお母さん。二人ともとっても優しい! ガボのことも可愛がってくれた!!」
ガボの表情が少し明るくなった。今でもレウオとメルーのことが好きなんだな。
「暴れたくなった時、前兆のようなものはなかったのかい?」
自らの記憶を思い返すガボ。
「頭の後ろのほうがチクッとした。おでの頭に小さい針、刺さってた。それからちょっとしてから、おで、おかしくなった」
なぜ後頭部に針か……。誰かが意図的に刺したのか?
「きっと……きっと、おでが二人を殺した! おで、とても悪い奴!!」
突然のことで驚いた。ガボが自分の頭を何度も殴り付けたのだ。
「ストップ、ストップ! 少し落ち着こう。君は自分が思ってるほど悪い奴じゃない。ボクを助けてくれたのは君だよね?」
どうにか落ち着かせようとする。
「おまえ、命懸けで何度もレミィたち守ってくれた。だから、おでもおまえ守った。それに、おまえならこの島をよくしてくれるかもしれない言ってた」
言ってた? ということは……
「ガボ以外にも誰かいるのか?」
「おぅ、いる!」
「それはいったい?」
「わたしだよ」
突然、聞き覚えのない声が聞こえてきた。慌てて振り向くとそこには一人の男が立っていた。何者だろうか。
『ここまで接近されるまで気付かんとは情けない』
リバス様は既に気配を察知していたようだ。教えてくれてもいいのに。
「驚かせたようだね。申し訳ない」
「トゥナムーー!」
ガボが男に元へ駆け寄る。トゥナムだって!?
「君はルベタ君だね。はじめまして。わたしはトゥナム。リゲックの兄だ」
……待てよ。トゥナムはたしかアークデーモンに殺されたんだよな?
「まさか、幽霊?」
トゥナムとガボはボクの導きだした答えに吹き出す。
「いや、失礼。わたしは生きているよ」
トゥナムはニコリと爽やかな笑顔で言うと、ボクの側までやってきて握手を求めてくる。人当たりが良さそうだ。同じ兄弟なのにリゲックとはまるで違うんだな。
ボクはトゥナムの手を握る。
「さぁ、まずは食事でもしながらゆっくりと話でもしようか」
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