堕ちた勇者⑤
「チセーヌの方々に認めてもらえたのですね。さすがは白薔薇の勇者様でございますな」
ベレグがチセーヌから屋敷へ戻ってくるころにはスヴェインは既に帰ってきていた。
「そっちはどうなんだ?」
「概ね計画通りですよ。ただ、わたくしの証言に疑念を持っている者もおります。ベレグ様が頑張って下さっているのに申し訳ございません」
「それは誰なんだよ?」
「ランツァ村長です。今後は彼には注意しなければなりませんね」
「しかし、こっちにはアークデーモンがいるんだぜ。いくら村長が強いからって心配することじゃないだろ」
ベレグは楽天的な考えを示す。
「それはどうでしょうか。アークデーモンが我々にとっての切り札なのは確かですが、それに頼りすぎるのは危険です。相手に魔王がいるのですよ」
「それは聞き捨てならんな」
会話に割ってはいる声がし、アークデーモンが姿を現した。
「おやおや、勝手に出てこられては困りますね」
スヴェインはいたって冷静に対応する。だが、アークデーモンのほうは怒りを顕にしていた。
「そんな事はどうでもいい! 貴様は俺があのルベタとかいう魔王に劣るとでも思っているのではあるまいな!?」
「お気を悪くされたのでしたら謝ります。あなたの実力はよく存じておりますよ。しかし、先日の戦いではルベタは万全の状態ではなかったようにお見受けいたしました」
スヴェインはあくまでも落ち着き払っている。
「ふん、たしかにな。だが、仮に奴が万全だったとしても結果は変わらんわ」
「それを聞いて安心いたしました。しかし、問題はそれだけではないのです。あなたとわたくしたちが裏で繋がりがあると知られれば計画に大きな支障がでます。そのような事態を避けるためにお力添えいただくのは最小限にしたいのですよ」
「なるほど。俺ほどの力を持つ者などこの地上にはおらんだろうからな。あまりにも強大すぎる者は目立ってしまうというのも理解できる」
「おお、さすがはアークデーモン! 話が早くて助かります」
スヴェインはアークデーモンを言いくるめてしまった。
「もしもランツァ村長が計画の邪魔になるようならば、わたくしどもで対処いたしましょう」
「それって……つまり…」
「彼にも死んでいただきます」
「ちょっと待てよ。村長はかなり実力者で、フォラスでの人望もある。仲間に引き入れたほうが得なんじゃないか?」
「それは限りなく不可能に近いことはベレグ様もよくご存知のはずですが?」
返す言葉が見つからず口ごもるベレグ。
「全てはフォラスのためなのです。非情にならねばいけない時もあるのですよ」
口うるさくて煩わしくもあったが、いろいろと世話を焼いてくれた村長を手にかけるのは気が引けた。
「言われるまでもないだろうが、今さら後戻りはできんぞ」
ベレグの心中を察したのか、アークデーモンが鋭く睨めつける。
「わ、わかってるさ! じいさんには悪いけど俺だって命は惜しい」
「白薔薇の勇者殿には期待してますよ。この計画が成った暁にはフォラス領主の椅子が待っているのですから頑張っていただかないと」
スヴェインは穏やかな笑顔を見せる。だが、ベレグは、その奥な秘められた得体の知れない何かに恐怖を感じずにはいられなかった。
いつで読んでくださってありがとうございます。
次話からはルベタ編に戻ります。




