堕ちた勇者③
港町ピラックを一望できる丘に建つ主なき邸宅。その応接室にベレグとスヴェインはいる。
屋敷のメイド、コルオーンの手下だった元海賊たち、リゲックが集めたならず者集団は、リゲック、バズラウド、コルオーン、ルザの4人が殺害された事実に激しく動揺していた。
スヴェインは、メイドをはじめ屋敷で働いていた全員に少しばかりの金を持たせて数日間の臨時休暇を与えたため、今、屋敷に残っているのはベレグとスヴェインの二人だけだ。
「そんで、これからどうするんだ?」
ベレグがソファーに腰を沈めて訊く。
「臨時休暇を与えた者たちは魔王ルベタがリゲックたちを殺害したという話を拡散してくれるでしょう」
スヴェインが窓から外を眺めたまま言う。
「だろうな。あいつらにそう説明したのはあんたじゃないか」
「おや、そのわたくしの嘘に口裏を合わせてくれたのはベレグ様でございましょう」
「そうしなきゃ殺されるだろうが。俺だってまだ死にたくねぇからな」
「それは賢明な判断ですね」
「次はどう動くんだ?」
再び最初の質問をする。
「明日の朝、わたくしがピラックの皆さんに説明いたします。ベレグ様にはチセーヌ村の方々への説明をお願いします。本日はそのための準備をしておくとしましょう」
「準備?」
「えぇ。わたくしとベレグ様で話に食い違いがあっては困りますからね。綿密に打ち合わせしておかねばなりません」
こうして、ベレグとスヴェインの打ち合わせが始まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はぁぁぁぁ……」
ベレグは深いため息をついてソファーに横たわる。ようやく打ち合わせが終わったころには窓の外はすっかり暗くなっていた。ピラックの夜景が見える。
「邪悪な魔王からフォラスを守った勇者がそんなだらしないことでは困りますなぁ」
席を立って窓辺へと移動するスヴェインの後ろ姿がベレグの目に映る。
「この俺を次のフォラスの領主にするって話だったが本気なのか?」
「もちろんです。お気に召しませんか? 非常に残念ながら、偉大なるダザン様の血を引く方はおられません。ならば、ダザン様のご意志を継ぐ者がフォラスの新領主となるべきでしょう」
スヴェインはクスリと笑って答える。アークデーモンを使ってトゥナムとリゲックを殺した黒幕がよく言えたものだと感心するベレグ。
「ここまで手を汚しておきながら権力を手に入れたいわけじゃないのか? あんたは何をしたいんだ?」
「わたくしはダザン様の望んだフォラスを目指しているだけでございます」
「だったら、あんたが領主になったほうが好きにできるんじゃないのかよ?」
スヴェインは小さくため息をつくと肩をすくめた。
「何もおわかりになっておられないのですね。フォラスの領主となればこの島において大きな権力を得ることができるでしょう。ですが、それで全てを思い通りにできるわけではありません」
「あんたはあくまでもフォラス領主の右腕というわけか」
「そういうことです。それがわたくしにはベストポジションなのですよ」
「俺がフォラスの新領主になったとして、あんたの意見をきかなかったらどうする?」
スヴェインはクククと笑い、ベレグのほうへ振り返る。
「それはわたくしが申し上げずともおわかりになるのでは?」
ベレグは背筋が凍りつく。つまりはリゲックのように消されてしまうということである。
「俺を始末して今回と同じことを繰り返す……だな」
スヴェインがニコリと笑顔を見せる。
「それを理解しておられるのなら問題はありません。それに、わたくしはベレグ様となら良きパートナーとしてやっていけると思っております」
「どういうことだ?」
「そのままですよ。わたくしにアークデーモンという強力な味方がいることをご存知のベレグ様ならば逆らう心配はないでしょう? さて、明日は忙しくなりますので今日のところはお休みください。お部屋はリゲック様の寝室をお使い下さい」
スヴェインは深々と一礼して応接室を退出していく。これから先もあいつに支配され続けるのか。そんなことを考えてしまうと気分が沈むベレグ。余計に重く感じる身体を寝室の豪華なベッドに投げ出すのだった。
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