レミィとポポル②
改稿済みです。
「お待たせしました。大したものじゃないですけど召し上がって下さい」
レミィさんがボクの前に料理が盛り付けられた食器を並べてくれる。
お茶碗には白いご飯、小鉢には野菜の御浸し、メインの皿には肉と野菜の炒め物、小皿にカットした果実、そしてグラスにはお茶だ。
突然やってきた、見ず知らずのボクにこんなにしてくれるなんて本当にいい娘だな。
「どうかしましたか?」
料理に手をつけずにいるボクを気遣ってくれる。
「いえ、なんでもないです。突然やってきたのにこんなに親切にしてもらって感激です!」
「もう、大げさですよ。さぁ、冷めないうちにどうぞ」
レミィさんは少し照れたような表情を見せる。ああ、可愛くて優しくて……ほんっとになんていい娘だ。そんな事を思いつつ食事を口に運ぶ。まずは肉と野菜の炒め物からだ。
「お、美味しい!!」
一口食べた瞬間、ボクは率直な感想を言葉にしていた。生まれて初めて食べた手料理なのだから一般的には普通なのかもしれない。でも、ボクにとってはものすごく美味しいのだ。
夢中になって目の前の料理を全てたいらげて、デザートの果実を食べる。それから最後にお茶を飲んで食事を終えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ボク一人で食べちゃったけど、二人の食事はどうしたんですか?」
食事を終えて一息つく。それから、二人のお膳が出ていない事にようやく気付いた。ポポルはため息を吐く。
「今さらだな。魔族は遠慮も知らないのかよ?」
うっ、返す言葉が見つからない。
「ポポル、そんなこと言っちゃダメでしょ!」
レミィさんに叱られてさらに不機嫌になるポポル。
「私たちは食事を終わらせてるので大丈夫ですよ」
レミィさんの言葉に安堵する。ボクが二人の分まで食べてしまったわけじゃなさそうだ。
「ところで、お名前をお聞きしても?」
「そういえばまだ名乗ってなかったですよね。ボクはルベタっていいます」
「私はレミィ、こっちは弟のポポルです。ルベタさんは何か目的があって旅をされてるんですか?」
レミィさんが質問してくる。
「目的も行く先もない気ままな旅です」
実際はフォラスから出たことすらないんだけどね。
「えっと、それじゃ今夜の宿は?」
「決めてないです。野宿でもしようかな」
少し考えたあと、ポポルのほうを振り向いたレミィが口を開きかける。
「オイラは反対だぜ! 魔族を泊めるなんてあり得ないじゃんか。食べ終わったらすぐに追い出すべきだ」
ポポルはレミィさんに発言させない。
「でも……」
ポポルの説得を試みようとしてくれるレミィさんだったけど、ボクが席を立ったことで言葉を止める。
「ポポルの言う通りです。ごちそうさまでした」
ボクはレミィさんに会釈して、ポポルの傍らに置かれたヴィデルガラムを拾い上げる。今日までずっと野宿してきたんだ。今さら野宿をすることに不安はない。
「ごめん、騒がせちゃったね」
突然の訪問を詫びるもポポルはそっぽを向いて目を合わせようとしない。
「ありがとうございました。美味しかったです」
最後に二人に一礼して外に出る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『野宿決定だな。元より人間は魔族を嫌うものだが、あの二人は過去に因縁がありそうだな』
星を見上げているとリバス様が話しかけてきた。
「そうですね。ボクも同じことを感じました。特にポポルはかなりの不信感を持っていましたよね」
『しかし、いずれにしても我らには関係のない話だ。そのようなことよりも今宵はどこで寝るかだな』
「島の中央には森がありますがゴブリンがいるので危険ですね。草原に行けば大きな木があるのでそこなら安全性が高いですよ。実際、ボクもそこで休んでました」
『ふむ。ならばそこに向かうのだな』
「はい」
歩きながらリバス様と会話しているのだけど、周りからは独り言を言ってるようにしか見えないんだろうな。
「ん?」
草原の大木を目指して暫く歩いたところで村から追いかけてくる気配に気づいて振り返る。
「レミィさん?」
息をきらせて追いかけてきた人物はさっき別れたばかりの少女だった。その背後にはポポルの姿もある。
「二人とも、どうかしたんですか?」
ボクのいる所までやって来た二人は弾む呼吸を落ち着かせる。
「ルベタさんさえよければ、今夜はうちに泊まっていって下さい」
「それはありがたいですけど……」
ポポルをチラリと見る。それに気づいたポポルはフンッと鼻を鳴らす。
「姉ちゃんがどうしてもって言うから、しかたないじゃないか!」
こうしてボクはチセーヌへ戻り、一夜を明かすことになった。
次話は2022/4/7(木) 20:00更新予定です。