アークデーモン戦②
「うぉおお!!」
《俊足》を使って一瞬のうちにアークデーモンの眼前まで迫り、間髪入れずにダガーを左胸に突き立てる。
「こんなものか?」
ダガーの刃はアークデーモンの胸板を僅かに傷つけただけだった。
「くそっ」
一歩後退しつつ、メイスによる打撃を左頬にヒットさせる。《剛力》を使っているのは言うまでもない。
「随分と手緩い攻撃をしてくるんだな。それともまだ本気じゃないのか?」
冗談じゃないぞ。こいつが手加減して勝てる相手ではないことはわかっている。最初から全力で攻撃しているのにダメージをほとんど与えてはいない。
「それでは今度はこちらの番だな」
強靭な肉体から連続して繰り出されるパンチやキックはその一撃がとんでもなく重い。防御魔術していても骨が軋み、相当なダメージを受けてしまう。もしも防御魔術を習得していなければ耐えられなかっただろう。
「敗ける……わけには……いかないんだ!」
アークデーモンが腕を大きく振りかぶった一瞬の隙に《俊足》で背後をとる。
「これなら……どうだ!!」
渾身の力を込めてアークデーモンのうなじをダガーで斬りつける。くっ、なんて硬さなんだ! まるで鋼鉄を斬りつけたような感覚だ。
「そうそう、少しは抵抗してもらわねばつまらん。だが、そんな貧弱な攻撃では俺を殺すことなどできんぞ?」
「がはぁっ!!」
アークデーモンの強烈な回し蹴りをくらってしまった。凄まじい衝撃に体は勢いよく吹き飛ばされて地面で何度もバウンドする。
「うっ……ぐぅ!……」
全身の激痛に耐えて立ち上がる。どうしたものかな。全く勝てる気がしない。それでも戦わなきゃダメなんだ! こんな化け物をこのままにしておけばレミィやみんなが!!……。
「魔王も大したことはないのだな。その辺に転がっている人間どもに比べれば骨はあるが所詮は俺の敵ではない」
ボクの実力が期待はずれだったのだろう。アークデーモンはがっかりした様子だ。
乱れた呼吸を整えながら思考を巡らせる。悔しいけど奴はボクよりも遥かに強いのは間違いない。かといって逃げ出すわけにもいかない。そもそも逃げ切るのは不可能だろう。だったらどうする? 今のボクにあいつの防御魔術を打ち破って致命傷を与えることなんてできるんだろうか!?
「万策尽きたか。もういい。おまえには興味が失せた。死ね!!」
猛烈な勢いで迫るアークデーモンの右手の爪が鈍い光を放つ。チャンスだ! ボクはダガーに魔力を込めて投げる。奴自身の突進力が加われば確実にダメージを与えられるはずだ!
「うそ……だろ……」
アークデーモンは投げつけられたダガーを左手の爪で粉砕してしまった。なんて奴だ! あの攻撃に反応できるのか!?
「終わりだぁ!」
ボクの眼前までやってきたアークデーモンは止めの一撃を放とうと再び右手を上げる。
「くっ!」
ボクは《飛行》を使って全速力で飛び上がった。
「往生際が悪い!」
すぐさまボクのあとを追ってくるアークデーモン。かかった! ボクは両手でメイスを握りしめると急降下して迎撃する。
「ぬぐぅ!」
《剛力》を使って振り下ろされたメイスはガードする暇を与えずアークデーモンの頭部に直撃した。これは確実に効いているはずだ。そうでなくちゃ困る。今のところ、ボクにはこれ以上の攻撃はできないのだから。
「むぅ!」
弾き返されて地上に激突するアークデーモン。舞い上がった砂煙がその姿を覆い隠す。着地したボクはメイスを構えて次の動きに備える。
「な……ん……だ!?」
突然の目眩に両膝をついてメイスを杖代わりにする。どうにか倒れずにいるものの体が鉛のように重く、立ち上がることができない。少しでも気を抜くとそのまま気絶してしまいそうだ。激しい動悸に息づかいが荒くなる。さらに右手の魔王の紋章から魔力が消えかかっている。
『限界のようだな。これ以上紋章を使えば意識を失うと忠告したであろう』
そんな! このまま殺られるのか!?
「体調がすぐれぬようだな。その状態では戦えんだろう。しかし、貴様を見逃してやるほど俺は甘くないぞ。せめてもの情けだ。一思いに殺してやろう!!」
アークデーモンは魔力を練り上げていく。
「あれ……は?……」
『火炎系上位魔術か。今、これほど強力な魔術をくらえば死は免れぬな』
くそっ、回避しようにも体が動かない!
「うおぉぉぉぉっ!!」
突如、上空から舞い降りてきた巨大な鳥は、ボクとアークデーモンの視線を集めながらまっすぐにボクの所へと近づいてきた。そして、ボクの両肩を掴むとそのまま海上へと飛び去る。
「ちっ、何者か知らんが余計な邪魔をしてくれる!」
アークデーモンが翼を広げて追ってくる。ダメだ。すぐに追いつかれてしまう。
「ぐあぁぁっ!」
アークデーモンが放った火炎系上位魔術が巨大鳥に直撃する。
「なっ!?」
一瞬、自分の目を疑ってしまった。ボクを掴んで海上を移動していた巨大鳥は、その姿を変えたではないか! 今、そこにいるのは鬼属のモンスターだ。こいつはまさか……。
『ほぉ、オーガではないか』
リバス様は相変わらず冷静だ。オーガということは、もしかして?
「逃がさぬ!」
アークデーモンは大火傷を負って苦痛に顔をゆがめているオーガに止めを刺そうと右手を上げた。
「ぬあぁぁ!」
オーガはボクが持っていたメイスを強引に奪うと投げつける。
「ぬぅ!」
アークデーモンは回避する。だけど、その間にボクとオーガは海の中へと姿を消した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オーガは海中に入るとすぐに魚へと変身し、ボクをくわえて猛スピードでさらに深く潜っていく。海中まで追ってきていたアークデーモンも追撃を諦めたようで地上へと引き返していくのが見える。だけど、既に限界を越えていたボクはそこから意識がどんどんうすれていくのだった……。
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