アークデーモン戦①
「ここまでくれば大丈夫かな」
海辺の高台から街道へと戻る途中の林道で魔王の紋章の力を抑える。
『奴らもこれで暫くはおとなしくなるであろうよ』
「そうですよね。いざとなれば魔王の紋章もあるんだし、恐いものなしですね!」
『愚か者が。今の貴様程度では紋章の力を御せぬと言ったであろう。未熟な者が紋章を使えばその反動は大きくなるのだぞ』
「反動?」
『やれやれ。自覚すらしておらんとはな。すぐに嫌でも理解できよう』
「!?」
まさにその時だった。激しい目眩と倦怠感が同時に押し寄せてきた。これが魔王の紋章を使った反動ってやつなのか?
「く……そ……」
側の木立に寄りかかってなんとか立ててはいるけど、身体が重い。まるで鉛のようだ。
『無理もあるまい。未熟者の貴様がいきなり魔王の紋章を行使したのだからな。だが、そうしなければあの5人を相手に勝利することはできなかったであろう。今は体を休むの……』
リバス様は言い終わる前に言葉を止める。その理由はボクにもわかった。海辺の高台から強力な魔力を感じる。いったい誰がこれほどの魔力を持っているんだ? ボクが知る限りの人物で最も高い魔力を持っているのはランツァ村長だ。しかし、それよりも遥かに強い力を感じる。
『どこに向かうつもりだ?』
踵を返したボクにリバス様が問いかけてきた。
「この魔力の持ち主が何者なのか確かめたいんです。もしも、悪意のある奴なら放ってはおけませんよ」
『ふん、愚かだな。満身創痍の貴様が行ったところで何になるというのだ? 言っておくが、紋章をこれ以上使えば貴様は意識を失い、下手をすれば数日は目覚めぬだろう。その間は全くの無防備となるのだぞ。それこそ、あのポポルとかいう小僧でも殺れるほどにな』
「だとしても、あれだけの魔力を持ってる奴が暴れだしたらレミィやみんなが危険です」
『まったく……。勝てる見込みのない相手に戦ってもしかたなかろうが。なぜ、貴様は他人のために命を懸ける?』
「ボクにもわかりません。でも、何もしないでいるなんてできません!」
『理解し難い考えだな。いずれにしても、止めても無駄というなら何も言わぬ。勝手にするがよい』
リバス様は半ば諦めた口調となる。ボクは重い体を無理に動かして高台へと急ぐ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なっ!?」
驚愕のあまりに言葉をなくしてしまう。海辺の高台へとやってきたボクが見た光景は地獄絵そのものだった。
血の海に沈んだルザの巨躯には頭部がなく、その傍らには黒焦げの焼死体となったリゲックの遺体が横たわっている。バズラウドは鎧を砕かれ、全身を鋭利な爪でえぐられた傷痕を残して絶命していた。そして、コルオーンもまた心臓を貫かれて息絶えている。唯一、生存しているベレグは腰を抜かして泣きながら震え上がっている状況だ。
「あぁん?」
巨大な2本の角とコウモリのような翼を持った悪魔がボクに視線をぶつけてくる。
「ルルル、ルベタ! 助けてくれ、早くこいつをなんとかするんだ!!」
涙ながらに懇願してくるベレグ。その姿に勇者感は微塵もない。
『やはりな。魔力の主はアークデーモンであったか』
アークデーモンだって。たしか、リゲックの兄トゥナムを殺害したっていう魔界のモンスターだったよね。まだ、この島にいたのか。
『さて、これはいよいよ貴様の命運も尽きたようだな。今の貴様では勝つことはおろか逃げることもできんだろう。残されたのは死だけだな』
うぅ……、絶望的な意見を言ってくれるよ。だからこそ、引き返すことに反対していたのだろうけど……。
「やってみなきゃ……わからないじゃない……ですか!」
叫んで紋章を解放する。その魔力を敏感に感じ取ったアークデーモンが口角をあげる。
「ほほぅ。この魔力……魔王の紋章か! そんな物を宿しているとは驚いたぞ。だが、面白い! 魔王の紋章とはどの程度の物か見せてもらおうではないか!!」
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