罠①
「あんなにたくさんの人がわざわざ見送りに来てくれるなんて思わなかったね!」
チセーヌとピラックを結ぶ街道の途中。隣を歩いていたレミィが話しかけてくる。
「うん。嬉しいような照れくさいような……」
「きっと、コルオーンから町を守ってくれたのを感謝してるんだと思う」
まるで自分のことのように嬉しそうに話すレミィ。だけど、ボクは首を横に振って否定する。
「あれは一人じゃどうにもならなかった。村長やラルバン、それにピラックのみんなが力を合わせたからできたんだ」
「フフフ……。ルベタらしいね。でも、あの件でルベタが奮戦してくれたことはやっぱりすごく大きいよ。もしもルベタが来てくれなかったら私たちはどうなっていたかわからないもの……。私だって心から感謝してるんだよ?」
よわったな。改めて……しかも面と向かって言われると、なんと答えていいのか思いつかない。
「そんなことより、チセーヌに帰ったら俺の武勇伝の数々を聞かせてあげよう! 心踊る冒険の日々を!!」
あっ、そういえばベレグとポポルも一緒だった。すっかり忘れてた……。
『ふん、こやつに語れるほどの武勇伝など期待できんだろう』
リバス様のツッコミが入る。ベレグはもちろん、レミィやポポルにも聞こえていないのだけど。
「オイラ、聞きたい!」
「ハッハッハ! ポポルは素直だな! よぉし、それならとっておきの話を聞かせてやろう!!」
興味津々のポポルにベレグは気をよくする。
「あっ、そういえば……」
思い出して声を出すボク。3人の視線が集中する。
「いや、大した事じゃないんだ。ピラックへ向かう途中に出会った馬のことを思い出してさ」
「馬?」
首を傾げるレミィ。
「うん。チセーヌのほうから走ってきてボクをピラックまで運んでくれたんだ。すごく速い馬だったよ」
「うーん、そんなに足の速い馬がチセーヌにいたかなぁ……って、ルベタは馬に乗れたのか?」
ポポルが意外そうに言う。
「乗れないさ」
答えた瞬間、ベレグが高笑いをあげる。
「なんだなんだ? 冒険者といっても大したことないんだな。馬くらい乗れないとダメじゃないか」
「ベレグは乗れるのか?」
ボクの質問にベレグは肩をすくめる。
「愚問だね。勇者である俺が馬に乗れないわけがないだろう?」
馬に乗れることと勇者であることは関係ない気がするんだけどな。
「けどさ、馬に乗れないのによく背中に乗って来れたもんだな」
「だから運んでもらったんだよ。ボクはただ乗ってただけだ。到着したら止まってくれたしね」
「まさか! そんな馬がいるわけないじゃないか。バカバカしい話だ」
ベレグが信じられないといった感じだが、事実なのだからしょうがない。
「そんな嘘をついてもしかたないでしょ。私は信じる。それに馬って利口で繊細だって聞いたことあるし」
「そうだな。そのおかげで姉ちゃんも助けられたんだし、オイラも信じるよ」
姉弟は信じてくれたが、ベレグは気に入らないようで憮然としている。
「そんなことより……ルベタ、君にこれを」
ベレグは小袋を取り出すとボクに手渡してきた。
「これは?」
「なぁに、大した物じゃない。旅の途中で手に入れたんだ。君にあげるよ」
驚くほど意外な答えが返ってきた。しかも右手をだして握手まで求めてきているじゃないか。まさか、ベレグがボクに贈り物をしたうえに握手だなんて……。かえって怪しい気もするけど好意を無下にするのも悪いよね。
「ありがとう。大切にするよ」
礼を述べつつ差し出された右手を握り返した瞬間、ベレグは腕を引いてボクを引き寄せてた。
「後で話があるんだ。チセーヌに戻って落ち着いてからでいいから二人だけで話をしたい。その中の紙に書かれた場所まで来い」
ベレグはボクの耳元で囁くと何事もなかったかのように距離をとる。
『ふむ。露骨に怪しいな』
リバス様の言う通りだ。何か裏がありそうだ。その真意を知るためにも乗ってみることにしよう。
「驚いた。ベレグが男の人に贈り物をしているところなんて初めて見たかも……」
レミィは信じられない光景を見たとばかりにポカンとしている。レミィにとってベレグはどんなイメージなんだろうか。
「ひどいなぁ。レミィは俺のことを誤解しているようだね。これでもルベタには感謝しているつもりだよ。彼がいなければピラックは……いや、フォラスは大変なことになってたかもしれないんだから」
「さっすがぁ! やっぱりベレグ兄ちゃんは立派な勇者だ!!」
ベレグに対しての尊敬をさらに深めるポポル。
「ベレグも旅に出て成長したのね。私ったら、それなのに失礼なこと言っちゃって、ごめんなさい」
「なぁに、わかってくれればいいんだよ。なにしろ俺は白薔薇の勇者だからね。そんな小さいことは気にしないさ。ハーッハッハッハッ…」
すっかり機嫌を直したベレグは高笑いをする。
そんなボクたちの前方にチセーヌが見えてきた。
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