レミィとポポル①
改稿済みです。
『それで、これからどうするつもりだ?』
「ボクも同じことを考えてたところです。魔王になったからといってやりたいこともないですし、とりあえずは食事ですかね」
いつまでも海を眺めていてもしかたがない。小腹も空いてきたし、食事を摂るために夕闇の中を歩きだした。
『何を食すつもりだ?』
「この島にはいろんな食材があるので、食べる物には事欠きませんよ」
『ほぉ、それは果実の類か?」
「果実もだけど、野草やキノコなんかでも美味しいのがあります。例えば……」
そう。獲物を狩るような能力を持ち合わせていなかったボクだけど、島に自生する食材ならいろいろと知っていたりする。
『待て。魔王である我に野草を食わせるつもりか? 却下だ。別の物にしろ』
実際に食べるのはボクなのに文句は言ってくるんだね。さすがは魔王様。なかなかのわがままっぷりだ。
「それじゃ、リバス様は何が食べたいんです?」
『近くに人間の集落はあるか?』
人間の集落? いきなり何を言い出すんだろうか。
「小さいけど村がありますよ。たしかチセーヌっていう名前だったかな。……あっ、そうか。食料を分けてもらうんですね!」
『いいや。そこを襲撃すればまともな食料が手に入るだろう』
やっぱり魔王様的な考えだったか……。立ち止まってため息をつく。どうしてリバス様はすぐにこんな発想になるんだろうか。もう少し平和的になってもいいんじゃないかな。
「ボクに強盗をしろって言うんですか? そんなことしませんよ」
『案ずるな。今の貴様は最弱モンスターではない。村の一つや二つ滅ぼすなど造作もあるまい。抵抗する者は排除すればよいだけだ』
あくまでも暴力的に考えちゃうんだな。
「いやいや、そういうことではなくて……」
『えぇい、魔王ならばそれくらいできないでどうする! つべこべ言わず、さっさと村へ向かえ』
リバス様が苛立ったように言う。しょうがない。ひとまずは村へ行くしかないようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
チセーヌ村へ到着した頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
『何もない所だな』
リバス様の言葉通りだ。田畑ばかりで目立つものは何もない。村人も農作業を終えて帰宅しているのだろう。外を歩いてる者は一人もいない。点在している民家の窓からは明かりがもれている。
「ボクも実際に村に入るのは初めてだけど、本当に何もないですね」
『では、適当な家を襲うがよい』
リバス様に促され、ボクは村外れにある一軒家を訪問することにした。
まずは扉を軽くノックする。
「はーい!」
中から若い女性の声が聞こえてきた。
『これから押し入ろうというのにノックなど必要あるまい。そもそもこのような扉など破壊すればよいではないか』
「そんな乱暴なことはしませんよ」
『では、どうするつもりだ? まさか、人間ごときに物乞いするのではあるまいな!?』
「物乞いとは人聞きがよくないですよ。食べ物を分けてもらえないかお願いするだけです」
『貴様! それを……』
目の前の扉が開かれた。
現れたのは18歳くらいの少女だった。艶のある滑らかな茶色の長い髪と澄んだ大きな緑の瞳が特徴的な美少女だ。
ボクの姿を見てかなり警戒している。魔族特有の深紅の瞳に気づいたのだろう。しかも、背中には大剣を背負っているのだから無理はない。
「えっと、どちら様ですか?」
少女が恐る恐る問いかけてくる。
それにしても……かわいい!! ボクはその可憐な姿に見とれてしまって言葉をなくしてしまう。
「あのぉ?」
沈黙したまま立ち尽くしていると、少女が再び返答を求めてきた。
「いや、その、旅の者なんですが、食料が尽きてしまって……。少しでも分けてもらえませんか?」
少女は警戒し、どう対応すればいいのか困惑している。魔族がいきなりやってきて「食料を分けてくれ」だもんね。そりゃそうなるよ。
『だから交渉など必要ないと言っているであろう』
そういうわけにはいかない。それに、是が非でも食料を手にいれなければならないというわけでもない。
最悪の場合でも野草やキノコは手に入るわけだしさ。リバス様の反応を考えると少し怖い気もするけど……。
少女は俯いて随分と悩んでいたが、やがて決心したように顔を上げる。
「わかりました。どうぞ、中へ入って下さい。食事の用意をしますから」
少女が声を掛けてくれたのは、困らせるのも申し訳なく、立ち去ろうとした時だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その優しさに感激と感謝しつつ中へ入る。室内はきれいに整頓されていて、仄かに甘い香りが漂っていた。
「すぐ用意しますから掛けて待ってて下さい」
食卓に備え付けられた椅子を引くとキッチンへと向かう少女。見ず知らずの魔族を家の中に入れるのは勇気が要っただろうに、なんて優しい少女なんだろう!
「おい、あんた誰だよ?」
手際よく調理している後ろ姿をぼんやりと眺めていると背後から突然声が掛けられた。
驚いて振り返る。そこには不審者を見るような視線を向ける少年。見覚えのある姿に思わず絶句する。そこに立っていたのはボクを散々追い回した挙げ句に崖の下へと落としたあの悪ガキじゃないか!
「あっ、魔族じゃないか! おまえなんか早く出て行け!!」
少年は、口をポカンと開けたままのボクに敵意をむき出しにする。そして殴りかかってきた。
少年の腕を掴んで制止する。
『無礼なガキだ。一思いに殺してやるがよい』
リバス様からは予想通りのセリフが飛び出す。もちろん却下だ。
キッチンで調理していた少女が驚いて振り返る。
「レミィ姉ちゃん、どうして魔族がうちにいるんだよ!?」
ボクの存在が納得できない様子の少年は少女に詰め寄る。
「落ち着いて、ポポル! 食べ物がなくて困ってるの。たとえ相手が魔族だとしてもほっとけないでしょ?」
少年はポポルで、少女はレミィさんっていうのか。それにしてもポポルは魔族を随分と憎んでいるみたいだ。
「でも…だからって……魔族なんか!」
「ポポルの気持ちもわかるよ? でもね、困ってる人を見捨てちゃいけないと思うの。わかってくれるよね?」
レミィさんの懸命な説得が続く。
「魔族が信用できない奴らだってことはもう知ってるだろう!? 姉ちゃんは甘過ぎるんだ……」
「うん、そうだね……」
レミィはポポルを安心させるように優しく抱きしめる。
「よし、決めた!」
ポポルはレミィさんから離れるとボクを睨めつけてきた。
「姉ちゃんに免じて食い物はめぐんでやる! その間、おまえが怪しい行動をとらないかオイラが見張ってるからな!! それと、その剣は預かるから渡せ」
ボクが背負っている大剣を指差すポポル。レミィさんを守ろうとしているのだろう。ここは黙って従うしかない。
「剣を預けるのはかまわない。だけど持てるのかい?」
「バカにするな!」
「そっか。それじゃ…」
ヴィデルガラムを背中から下ろして、ポポルにそっと手渡す。
「うわっ!!」
ボクが手を放した瞬間、ポポルはヴィデルガラムの重みに耐えきれず尻もちをついて、大剣を床に落としてしまう。
『このガキめ、我のヴィデルガラムを!』
リバス様が怒声をはく。だけど、ポポルやレミィさんには聞こえていないみたいだ。リバス様の声を聞けるのは肉体を共有しているボクだけらしい。
「大丈夫かい?」
ボクがポポルに差し出した手は、ポポル自身の手で弾かれてしまった。
「うるさい! オイラや姉ちゃんに触るな!」
ポポルは自力で立ち上がると、ボクから離れた位置へとヴィデルガラムを引きずっていく。
「ポポル、今のはあなたが悪いわよ!」
「ふん、魔族なんか信用できるもんか!!」
不機嫌そうにそっぽを向いてしまうポポルにレミィさんはため息をつく。
「弟に代わってお詫びします。ごめんなさい」
「いえ……気にしないで下さい。それよりボクのほうこそ迷惑をかけてしまったみたいで……。すみません」
頭を下げるレミィさんに逆に恐縮してあたふたとしてしまう。
「あなたって不思議な人ですね。なんだか他の魔族の人とは違う気がします」
レミィさんがクスクスと笑う。なんだか気恥ずかしい。
「それじゃ、料理が出来上がるまでもう少し待ってて下さい」
再びキッチンで調理を再開するレミィさんの横では、床に座って膨れっ面をしているポポルの姿があった。
やれやれ、どうにか追い出されずにすんだようだ。
次話は2022/4/6(水) 20:00更新予定です。