説得
(気に入らない! なんなんだ、あのルベタとかいう奴は!! 俺の活躍の場を奪ったばかりか厄介な事を押し付けやがって!)
ピラックから領主邸へと続く道を歩きながら、ベレグは実に腹立たしい思いを募らせていた。計画では、ゴブリンどもを軽く倒して、海賊には少しばかりの金を払って暫く大人しくしててもらう予定だった。そうすればレミィも振り向いてくれるに違いない。本気でそう思っていたのだ。しかし、その浅はかな計画はルベタの存在で台無しになってしまった。
「くそ、どうやって説得しろってんだ」
リゲックの屋敷に近づくにつれて足取りが重くなってくる。
(あの超わがままなリゲックを説得するなんて不可能に決まってるじゃないか。そればかりか敵視されてしまったらどうしてくれるんだよ!)
こんなことなら戻って来なければよかったと、今さら後悔してもどうにもならない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何者だ?」
正門の前にはがらの悪い男が二人で警備をしている。こんなゴロツキなんて蹴散らしてしまいたいが、揉め事を起こしてリゲックに目をつけられたくはない。そんな思いから強くはでられない。
「俺は勇者ベレグです。リゲック様にお話があり、やって来ました。お目通り願えませんか?」
できるだけ刺激しないようにする。
「面倒臭ぇからお断りだ。さっさと帰んな」
(ちっ、雑魚の分際でいい気になりやがって)
内心ではイラつきながらも表には出さない。
「そこをなんとか……」
言いつつ、銀貨を1枚ずつ握らせる。
「おっ、そこまで言われちゃしかたねぇな。待ってろ」
門番の一人が中へと入っていく。
ある日、光属性の魔術を使えるようになってからベレグの人生は一変した。
魔族に対して有効な光属性の魔術を使える者は勇者と呼ばれて様々な特権を与えられる。例えば、船や飛行船など旅する上で必要な乗り物もタダで乗り放題だし、飲食に関しても食べ放題なのだ。しかし、当然のようにデメリットもある。人間と敵対するモンスターや魔族と戦わなくてはならない。
もちろん、誰でも光属性の魔術が使えるようになるわけではない。いくら修行しても無理な者には無理だ。一種の才能とでもいうのか、ごく僅かな人間だけが勇者になれるのである。つまり、ベレグもそうした選ばれた人間だということになる。
「よぉ、待たせたな。リゲック様がお会いになるそうだ」
門扉が開かれる。いっそのこと「会わない」と追い返してくれたほうが楽だった。しかし、ここまで来て何もせずに引き返すのも格好悪い。ベレグ覚悟を決めるしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「久しぶりじゃないか、ベレグ」
相変わらず豪華な装飾品が並ぶ応接室の一際豪華な椅子に腰を下ろしていたリゲックは、入室してきて俺を見て第一声を発した。
「お、お久しぶりです」
幼少期から随分と虐められてきたせいか、リゲックの前だと緊張してしまうベレグ。
「まさか、あれほど泣き虫だったおまえが勇者になるとはな。特権を使って世界中を旅してるんだろ? そのぶんの活躍はしてるんだろうな?」
「は、はい。もちろんです!」
「ならばいい。フォラス出身の勇者がとんだ役立たずでは困るからな。死に物狂いで活躍しろ。もしも魔神を始末すれば俺から褒美をくれてやろう」
「はっ、必ずや期待に応えてみせます!」
「まぁ、せいぜい頑張ることだ。…それで、俺様に話があるらしいな」
ここでリゲックが話題を切り替える。怒らせてしまわないかと考えると背筋が凍り付く思いにとらわれるベレグ。
「えっと…警備隊のことで……」
用件に関しては予想していたらしく、鼻で笑う。
「やはりな。コルオーンを警備隊の隊長にしたのが気に入らんのだろう? ルベタとかいう冒険者も絡んでいるのか?」
「あいつをご存知なんですか?」
ベレグは意外な名前が出てきたことに驚く。
「ああ、知ってるさ。思い出すだけでも憎たらしい!」
「そうですよね! 俺も会った時から気に入らなかったんですよ! レミィとは妙に仲が良いみたいだし、周りからチヤホヤされていい気になってるんすよね! だいたい、魔族のくせに人間と親交をもつなんてふざけてるっすよ」
ルベタへの不満になると、ベレグは思いがけず語ってしまった。リゲックは俺を直視している。
「ほぉ、わかってるじゃねぇか。それにだ、俺様が直々に警備隊へスカウトしてやったのに断りやがった」
「リゲック様がわざわざスカウトして下さったのにですか!? あいつ、バカなんじゃないっすか?」
「俺様に逆らった時点でバカだということは確実だ。しかも、古い事件を調べてるそうだ」
「古い事件?」
「レミィの両親がオーガに殺られちまった件さ。今さら調べ直して何になるというんだ。とにかく、奴の行動全てが気にくわねぇ! 俺様を敵に回せばどうなるか教えてやる。当然、ベレグも俺様につくんだろうな?」
「もちろんっすよ」
リゲックが満足そうに頷く。
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