勇者ベレグ
「ちっ、誰だか知らねぇが妙な奴が出てきやがったぜぇ。今日のところは引き上げるぞぉ」
コルオーンはルザを含む部下たちを連れて屋敷へと引き返していく。部下といってもこの間まで海賊をやっていたような連中なんだけど。
「やぁ、ポポル。元気にしてたかい?」
駆け寄ってきて抱きつくポポルの頭を撫でる青年。あいつがベレグか。ゴブリン討伐に行く前に聞いた名前だったな。
「おかえりなさい」
ポポルに続いてレミィが歩み寄る。
「ただいま、レミィ。寂しい思いをさせてすまなかったね」
「え?」
レミィはキョトンとした表情をするもすぐに笑顔をなる。
「急に帰ってくるからビックリしちゃった」
「何を言ってるんだい。近いうちに帰るって手紙で伝えただろ?」
「あっ、そういえば!」
レミィはすっかり忘れていたようだ。
「ハーッハッハ……。君が俺の帰りを忘れるなんてあり得ないじゃないか。それとも照れ隠しなのかな?」
少し困ったような表情を見せるレミィ。照れ隠しではなく本気で忘れていたようだ。ここ最近はバタバタとしていたし、仕方ないかもしれない。
「ごめんなさい。私、本当に忘れてた」
謝るレミィにベレグは高笑いをする。
「いやいや、俺にはわかるよ。君が照れ隠しをしてるってことくらいはね」
『とんでもなく思い込みが激しいな』
リバス様が呆れている。同感だよ。
「違うの。本当に忘れてたの」
「アッハッハ…。君が恋人の帰りを忘れるはずがないじゃないか」
「恋人? 誰と誰が?」
意味がわからないといった様子のレミィ。
「決まってるじゃないか。レミィと俺がだよ!」
「えぇぇぇ!! どうして!? いつからそんな話になってるの!?」
レミィは驚愕のあまりに大声をあげて困惑している。
「ハッハッハッハ……。隠さなくてもいいじゃないか。大丈夫だよ! 他の女の子が嫉妬しても俺が守ってあげる」
おぉ、ベレグのほうはものすごいポジティブだ。
「そうじゃなくて! 私たち付き合ってなんてないよね!?」
レミィは尚も抗議を続けるがベレグは全く気にしていない。
「わかった、わかった、オーケー、オーケー! 今はそういうことにしておこう。こんな大勢の前だと恥ずかしいって気持ちもわかるからね」
ウインクをしてみせるベレグ。
「だから!……」
レミィはさらに反論しようとするが無駄だと気付いたのか、ガックリと肩を落としている。
「ところで、噂で聞いたんだけど、ゴブリンによる被害が急増してるそうだね。でも、俺が来たからにはもう安心だよ」
「あっ、それなら大丈夫よ。ルベタと村長が解決してくれたから。ねっ、ルベタ」
ボクに手を振るレミィ。なんとなく近づきたくないような気もするけど無視するわけにもいかない。
「へぇ、君がね……。ま、いいさ。この近海で海賊コルオーンが暴れてるそうだね。俺が追い出してあげよう!」
「それもルベタが倒してくれたの」
今、一瞬だけベレグの視線が鋭くならなかったか?
「……君は何者だい?」
「ボクは冒険者ルベタ。ここ暫くはフォラスに滞在している」
「俺は白薔薇の勇者ベレグ。俺が留守の間に随分とご活躍のようじゃないか。まぁ、フォラスを守ってくれてたことは感謝するよ」
そんなこと言ってるわりには、その敵意むき出しの目はなんだろう?
『白薔薇の勇者だと? ヘタレ勇者の間違いであろう』
リバス様のツッコミに吹き出しそうになってしまう。もしも聞こえていたらどんな反応をするのだろうか。
「どうかしたのかい?」
様子がおかしいことに気づいたベレグが怪訝な表情でボクを見る。
「い、いや。なんでもないんだ」
「ルベタもけっこう強いんだぜ」
「らしいね。それも当然さ。君、魔族だろう? その紅い眼を見れば分かる。何が目的なんだい? 魔族が見返りもなく人間に力を貸すとは思えないんだけどね」
『ヘタレ勇者め。魔族に対して偏見を持つ者も少なくはないのを利用して、周囲の貴様に対する評価を無条件で落とすつもりか。まったく、浅はかな考えだな』
リバス様は呆れているようだ。そうだとすればセコいなぁ。とても勇者のすることじゃないぞ……。
「たしかにボクは魔族だ。ボクがこれまでしてきた事は自分の意思で勝手にしただけで、それに対しての見返りを求めるつとりはない」
「ルベタが魔族であろうと島のために働いてくれたことには違いねぇ」
「それにルベタは私たちのために命懸けで戦ってくれたの! それなのにそんな言い方はひどい!!」
「あ、いや……俺はただ……」
ラルバンとレミィに指摘されてベレグは口ごもる。
『やれやれ、貴様が勇者である自分より注目されているのが気に入らなかったのだろうが、器の小さきことよ。勇者が聞いて呆れるというものだ』
そうか。リバス様の言う通りだとすれば何か活躍の機会があれば……。
「世界で活躍してる勇者ならリゲックを説得してコルオーンたちを追放できるんじゃないかな!?」
「な、な、な! 俺がリゲック様を説得するだって!?」
急に慌てだすベレグ。どうかしたのだろうか?
「そいつぁ、いい考えだ! 大活躍の勇者様に言われたとなればリゲックも無下にするわけにゃいかねぇだろうからな」
「ま、待ってくれ。コルオーンはそいつが撃退したんだろ!?」
「そうなんだけど、リゲックが警備隊の隊長として雇っちゃったの。それで、皆も困ってたのよ。お願いしてもいいかしら?」
ベレグはレミィの期待が込められた視線を浴びせられて絶句してしまった。これはこれでおもしろい。
「し……しょうがないな。それじゃ、リゲック様を説得してみようじゃないか……」
ベレグは顔をひきつらせながらも承諾するのだった。
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