フォラス島の歴史
「おっ、元気そうだな!」
病室へとやって来たラルバンが片手をあげる。
「ラルバンも来てくれたのか」
「当たり前だろ。海賊からピラックを命懸けで守ってくれた英雄様だからな。それにひきかえ、リゲックの野郎は何してたんだか……。昨日も顔すら見せないときたもんだ。警備隊の連中も事態が収まってから海賊どもを連行しただけだったし、普段から威張ってるだけで肝心な時にゃ役に立たねぇんだよな!」
ラルバンが顔をしかめる。
「ところで、ラルバン。昨日、トゥナムって人のことを詳しく聞いてなかったんだけど、教えてくれないかな」
ボクは気になっていたことを訊いてみた。暫しの沈黙。
「あ、いや、別にどうしても訊きたいってわけじゃないんだ」
まずい事を訊いたのかという考えがボクの脳裏によぎる。
「ふむ。ルベタ殿には話してもよかろう。うまく言えんが、ルベタ殿ならばあるいは何かつかめるかもしれん。根拠はないがな」
沈黙したままのラルバンに代わって村長が口を開く。
「そうだな。ポポル、すまねぇが、部屋に誰も入らねぇように見張っててくれ」
「おぅ!」
ランバンに言われ、ポポルが病室の前に陣取る。
「さて、と。まずは基本的なことなんじゃが、このフォラスはどこの国にも属しておらんというのは知っておるか?」
「そうなのか?」
初耳だ。
「ふむ。では、この島の歴史から説明しようかの。ここはかつて【魔の住まう禁断の島】と呼ばれ、狂暴な魔物ばかりが巣くい、人間は一人として住んどらんかったそうじゃ。ところが、ある時、フォラスという人物が数人の仲間とともに上陸し、人が住める環境を作り上げたとされとる」
「その人の名前をとって、この島はフォラスって名付けられたのか」
村長は静かに頷く。
「じゃがの、フォラス様は決して自らが島の王になろうとはしなかったそうじゃ。もちろん、住人がそれぞれ好き勝手な事をすれば無法地帯となるから、皆のまとめ役として活動しておったらしい。そして、そのフォラス様こそがリゲックの遠い祖先というわけじゃ」
「そっか。だからフォラスの血を受け継ぐ子孫が領主となって権力を持っているのか」
「まぁ、そうなんだが、話はそれだけじゃねぇんだ」
村長に代わってラルバンが話し始める。
「フォラス様の子孫はこの島の輸出入を取り仕切るようになったんだ。そのうえ、警備隊を備えるようになり、より強大な権力を得るようになった」
『なるほどな。よくある話だ。同じ一族が権力を占有するようになれば腐敗するということだ』
リバス様が解説を入れてくる。
「本来、警備隊は領主の警護と島の治安維持を目的としているんだ。おかしくなったのはリゲックの野郎が当主になってからさ」
吐き捨てるように言うラルバン。
「スヴェインはリゲックの親父さんの代から仕えてるのか?」
「ああ、そうだ。ダザン様は流れ者だったスヴェインを自分の右腕として迎えたんだ。さらに、この島と各国との交易を盛んにして発展させようとされていた。スヴェインはそんなダザン様の忠実で有能な執事だったのさ。実際、ピラックには商船が頻繁に寄港するようになった」
ということは、今のピラックの繁栄の基盤を築いたのはスヴェインとダザンっていう人なのか。
「たがよ、そんなダザン様も流行り病にかかっちまってな。自分の死期が近いことをさとったんだろうよ。ある日、トゥナム様とリゲックを呼び寄せて、トゥナム様に跡を継がせると宣言したのさ」
「リゲックがおとなしく納得したのか?」
ラルバンが鼻を鳴らす。
「野心家のリゲックが納得するわけがないさ。即刻、ダザン様に抗議したが、結局はダザン様の考えを変えることはできなかった」
「そこまではわかった。それで、トゥナムは?」
「トゥナム様はダザン様とは違った形でこの島のために尽くしておられた」
「違った形?」
問い返すとラルバンは頷いてみせる。
「交易よりも住人たちの暮らしの支援に重点を置いておられたんだ。元々、この島は豊かな自然と共に生きてきた。そんな暮らしを大切にしたかったんだろうな」
うんうん、それは共感できるぞ。
「で、そのトゥナムはどうして当主の座を退いたのさ?」
「行方不明になっちまったんだよ。魔物の目撃情報もあったことから、魔物の手にかかったとされている」
「ラルバンは納得していないのか?」
話すラルバンの様子から推測する。
「ああ。目撃された魔物ってのはアークデーモンだったのさ」
『なんだと? たしかにそれは妙な話だな』
アークデーモンの名が出たことにリバス様も疑問を抱いたようだけど、ボクには何がおかしいのかさっぱりだ。
「あのぅ、アークデーモンって?」
「異界に住まう魔物じゃよ。いわゆる魔界の住人というやつじゃな」
村長が教えてくれる。
「その魔界の住人がなぜこちらの世界に?」
「そこなんじゃよ。魔界の住人がこちらの世界に現れる理由としては主に2つ考えられる。まず一つ。なんらかの原因で発生した空間に歪みからやって来る可能性。じゃが、それは非常に珍しいケースじゃな」
「もう一つは?」
「……何者かが召喚術を行使して、こちらの世界に呼び出した場合じゃ。その場合は何らかの契約を結んでおるはず」
「契約?」
聞き返すボクに村長は頷く。
「魔界の住人はこちらの世界のモンスターより遥かに高い戦闘力を有しておる。その力を借りる代わりとして何かを差し出すといった具合じゃな」
そんな危ないやつがこっちの世界に!?
「それじゃ、アークデーモンがトゥナムを襲ったのは何者かとの契約なのか?」
「それがわからねぇんだ。そうだとすれば、最もあやしいのはリゲックだ。だが、あいつが召喚術なんて高等魔術を行使できるとは思えねぇ」
「それじゃ、偶然?」
「いや、偶然だとすれば、被害者がトゥナム様だけだというのが腑に落ちねぇのさ。何の契約もなくアークデーモンが現れたのなら、被害は少なくともフォラス全体に及んでいるはずだ」
「なるほどね。どちらにしても疑問が残るのか」
「そういうこった。まっ、ルベタが気にかけることじゃないさ。それよりも今は体を休めることを考えるんだな!」
その後は世間話をして、ラルバンたち三人は帰路についた。
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