海賊撃退戦①
「リバス様、馬ってどうやって止めればいいんですかね?」
ピラックに向けて街道を疾走する馬の背中にしがみつきながら訊ねる。
『知らん』
短く簡潔な答えが返ってきた。ボクだって馬に乗った経験など持ち合わせていない。まして手綱をはじめとした馬具が一切ないのだ。こうなっては、馬が自主的に止まってくれるのを期待するしかない。
『まぁ、心配なかろう。この馬は状況を把握した上で貴様を乗せているようだ。到着すれば止まるだろう』
馬が状況を? ……にわかには信じられないけど、可能性はあるのか? こいつはチセーヌ方面からやってきてボクが背に乗るのを待って、ピラックへと走り出した。これが偶然とは考えにくい。だけど、この馬はなぜボクたちを助けてくれるのだろう?
『ピラックが見えてきたようだな』
リバス様の言葉に街道の先へと視線を移す。ピラックの所々で火の手が上がっている。海賊たちは相当暴れているようだ。レミィたちの安否が気になる。ボクの焦る気持ちが伝わったのか馬はさらにスピードを上げてくれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ありがとう。助かったよ!」
馬はピラックに到着すると自主的に立ち止まってくれた。ボクは礼を述べると先を急ぐ。
民家の扉は破壊され、あちらこちらで住人が血を流して倒れている。そのなかには既に息絶えている者も多くいた。
「ひぃぃぃ! た、頼む。助けてくれ!」
聞こえてきた男性の声に振り向く。そこには手斧を振り上げた海賊とその足元で腰を抜かしている男の姿があった。
「なに!?」
《俊足》で二人の間に割り込んで海賊が振り下ろした手斧をメイスで受け止める。海賊はいきなり現れたボクに驚愕している。
「今度はこちらからいかせてもらうよ」
メイスで手斧を弾き飛ばす。武器を失った海賊の表情が恐怖に染まる。
「うぐっ」
みぞおちを蹴りあげられた海賊は地面に四つん這いとなった。その背中にメイスの先端を突き立てる。海賊は地面に激しく叩きつけられ気絶してしまう。
『少しは戦い方が身についてきたか。我に比べれば赤子同然だがな』
まったく、リバス様は素直に褒めることができないのかな。
「大丈夫ですか?」
側で腰を抜かして事態を見守っていた男性に声をかける。
「あ、ああ…」
男性は呆然としつつ返事をする。まだ状況が理解できていないようだな。
「病院へ行きたいんだけど、どう行けばいいかわかりますか?」
できるだけ冷静に落ち着いた口調で訊く。
「……それなら、そこの道を左に行けばいいよ。けど、海賊が大勢いるはずだ。近づかないほうがいい」
「それでも行かなきゃならないんだ」
男性が指し示した道にも数人の海賊の姿が見える。奴らを蹴散らしながらレミィたちの所へ向かおう。
「助かったよ。本当にありがとう! 君も気をつけてくれ」
走り去ろうとするボクに男性が声をかけてくる。
「うん」
ボクは片手を軽く上げて答えると先を急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「てめぇ、俺たちの仲間をやりやがったな!」
さっきの騒動を見ていた海賊の一人が短剣を片手に襲い掛かってくる。振りかざされた短剣はボクの頭上を水平に通過していく。
「くそっ」
攻撃をかわされた海賊は数歩後退する。その隙を見逃さない。鋭く突き出されたメイスの先端部が腹にめり込み、堪らず前屈みになった海賊の背中へ止めの一撃を放つ。
気絶したのを確認して進路に目を向ける。そこには新たな敵の姿があった。少しでも早く病院へとたどり着きたいところなのに、これではきりがない。たけど、今は前進あるのみ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さっき会った男性に教えてもらった道は坂道になっていた。そこを駆け下りてくる海賊を迎撃するべく懐から取り出したダガーに魔力を込める。
「ぎゃあ!」
狙いを定めて放たれたダガーは迫り来る海賊の右足に突き刺さった。悲鳴をあげて地面を転げ回る海賊からダガーを引き抜いて先を急ぐ。
坂道を駆け上がるボクに海賊どもが次から次へと襲いかかってきて思うように進めない。今、倒したのが何人目なのだろうか。
「くそがぁ!」
新手が背後から剣を片手に襲ってくる。振り向き様にメイスを薙ぎ払う。弾き飛ばされた男は地面で悶絶している。
「病院へ急がないと!」
これ以上の新手が現れないうちに急いでこの場を離れることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あった!」
ようやくたどり着いた病院の扉は既に破壊されていた。索敵しつつそっと中を覗く。何人かの医者や看護師が床に倒れているが、海賊たちの姿が見当たらない。
「大丈夫ですか?」
中に入ってまだ意識がある男性医師を抱き起こす。
「うぅ…。わたしは大丈夫だ。君は誰かね?」
「ボクはルベタ。チセーヌから来ました」
「わたしはこの病院の院長をしているハルズという者だ。チセーヌから来たと言ったね。もしかしてランツァさんのお知り合いかね?」
「村長は無事なんですか!?」
ハルズさんは首肯する。
「あぁ。2階の病室で海賊どもと戦っている。わたしはいいから急いで応援に行ってくれ!」
たしかに2階から強い魔力を感じる。ボクはゆっくりとハルズさんを床に寝かせると階上の病室へと向かう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うわっ!」
2階に続く階段を上りきったところでボクの目の前を真空の刃が横切っていった。
「ほれほれ、どうしたんじゃ。その程度ではわしは倒せんぞ。さっさとかかってこんか。もっとも、海賊ごときに遅れはとらんがのぉ」
村長が海賊相手に戦っている。それも実力は圧倒的に上のようだ。
「元気そうだね、村長。心配する必要はなかったみたいだ」
ボクの姿を見た村長はニッと口元の笑みを浮かべた。
「ルベタ殿か。丁度よいところに来てくれた。ここはわしに任せて早く港へ向かうんじゃ。町の娘がさらわれてしもうた。そのなかにはレミィもおる!」
なんだって! 即座に踵を返すボクを村長が呼び止める。
「待て! 病室の壁際へ行け!」
病室の壁際だって? わけがわからないまま、邪魔になる海賊を蹴散らして病室に入る。そこにはポポルの姿があった。
「ルベタ!」
ポポルがボクに抱きついてきた。普段はやんちゃでもやっぱり子供だな。よほど怖かったのだろう。
「ポポル、ルベタ殿から離れるんじゃ。今は一刻も早く港へ行かねばならん。奴らの海賊船が出港してしまう前にな」
村長に言われてポポルはボクを解放してくれた。
「ここでいいのか?」
壁は一部が壊れてしまっている。ここからなら港が一望できるようだ。村長は頷くと手のひらをこちらに向けて魔力を集中し始めた。何が起きるんだ?
「レミィたちを頼んだぞ!」
言い終わるが早いか、猛烈な突風が発生してボクを港のほうへ吹き飛ばす。これは神風系下位魔術だ。
「うわぁあ!」
体が空中を舞う。なんてことをするんだ、あの人は。
『じじいめ。手荒なことをするではないか。おい、今すぐに《飛行》を使え』
そうか。ここからなら飛行を使えば港まで一直線で行ける。精神を集中してボクは空を飛ぶイメージを固めた。フワリと体が浮かび上がる感覚がした。よし、成功だ。
ボクはそのまま港に停泊している海賊船へと向かった。
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