ゴブリンの森へ
改稿済みです。
「どうしたの!?」
夕焼けが空を染めるころ、ようやくレミィとポポルの家へ着いた。レミィがリゲックの屋敷から戻ったボクの姿を見て駆け寄ってきた。バズラウドとの戦闘によって体のあちこちにかすり傷や火傷を負っていたから驚いたのだろう。
「これくらい大したことないよ」
「ダメ! とにかく座って!!」
レミィはボクを半ば強引に椅子に座らせる。棚から救急箱を持ってきて手際よく手当てをしてくれた。
「へぇ、随分と慣れてるんだね」
「ポポルがよく怪我をしてきたから……」
なるほど。ポポルは昔からやんちゃだったんだな。
「な、なんだよ。ガキの頃の話だろ」
隣の席に座っていたポポルが声をあげる。ボクからしてみれば今でも子供なんだけど。
「なに言ってるのよ。今だって子供じゃない」
ほら、言われちゃったよ。
「違うよ! もう12歳なんだぜ!!」
「フフフ……。そうやってすぐムキになるところが子供なのよ」
ハッキリ言われてしまったポポル。懸命に抗議するがあっさりと撃沈されてしまう。
「それにしても、リゲックの屋敷で何があったのさ?」
「それ、私も聞いておきたい。無茶なことはしないでって言ったよね?」
話題を変えようと言ったポポルの言葉にレミィがのってきた。これはまずい展開になってきた。
「いや、うん、まぁ……いろいろと?」
「はっきり答えて!」
レミィが至近距離まで詰め寄ってきた。目の前には真剣な表情のレミィの顔がある。
「えぇっと、成り行きでバズラウドっていう人と戦うことになっちゃってさ……」
「あのおっさんと戦ったのか!? それで、どっちが勝ったのさ? やっぱりおっさんのほうか?」
興味津々といった様子で身を乗り出してくるポポル。やっぱりというのが気になる。
一方ではレミィが深いため息をついている。心配してくれるのは嬉しいけど、当時の状況を知るためだったんだからしかたないよね。
「もう、どうしてそんな危険なことばっかりするのよ……」
「心配かけてゴメン。でも、勝って無事に戻ってこられたわけだしさ」
「えっ、あのおっさんに勝ったのかよ!?」
レミィを安心させようとかけた言葉にポポルが反応する。やっぱり負けたと思ってたのか。
「あぁ、なんとかね」
「あいつに勝つなんてすげぇじゃん!」
『ふん、あの程度の輩を強いなどとは片腹痛い。我が肉体をもってすれば中身が最弱モンスターであろうと問題ない』
うーむ、リバス様にはどうにも誉められてる気がしない。
「今回は無事だったから良かったけど、本当に無茶しないでよね……」
ああ、レミィだけは他の二人とは違う。優しさがしみる……。
「ところで、当時のことは詳しく聞けたのか?」
「残念ながらほとんど何も聞き出せなかった。だけど収穫はあったよ。ガボが島の中央の森に潜伏してる可能性が高いことはわかったんだ」
「まさか、森へ行くつもり!? 私は反対。危すぎるわ。犠牲者だって何人もでてるんだから!」
「あのさ、ルベタなら大丈夫じゃないかな。だって、バズラウドのおっさんに勝ったくらいだぜ。それに、ガボを探すついでにゴブリンを退治してくれれば、あいつらも少しはおとなしくなるだろうし」
反対するレミィの横からポポルが賛成してくれる。
「あら、ポポルは賛成なの?」
ゆっくりと振り向くレミィ。それと同時にポポルの表情が凍りつく。
「えっと……あの……その……」
もはやポポルはまともに反論することさえできないようだ。
しかし、ボクたち弱小モンスターだけではなく、チセーヌもゴブリンの被害に遭ってたというのは初耳だった。
ボクの仲間だったガムイラスもどれだけ殺害されたことか。しかも、それらの暴挙にはなんの意味もなく、ただ自らの快楽のためだけの行動なのだ。そうとわかれば、なおさら放っておくわけにもいかない。
さて、レミィをどうやって説得したものか……。
コンコン
玄関の扉をノックする音が聞こえてきて、3人の視線が集中する。レミィが扉を開けると、そこにいたのはランツァ村長だった。
「村長さん、どうかなさったんですか?」
「うむ。ルベタ殿に頼みたいことがあるんじゃよ」
「ルベタに……」
村長の様子から深刻な内容であることは察することができる。もしかしたら、レミィにはその内容に心当たりがあるのかもしれない。表情が暗い。
「わかりました。とりあえず中へどうぞ」
「すまんな。それではお邪魔するとしようかの」
レミィに促され、ランツァ村長がボクたちの所までやってくる。当然、さっきまでの会話は聞こえている。
「やっぱりゴブリンのことか?」
先に切り出したのはポポルだ。ランツァ村長は静かに首肯する。
「ルベタ殿が滞在されておる今こそがチャンスじゃからな」
「村のためにルベタを危険な目に遭わせるのは反対です!」
「無論、わしとて無理強いをするつもりはない」
「ルベタってけっこう強いから大丈夫だよ」
「ポポル! それだけが問題じゃないの。ゴブリンだって魔族なのよ。ルベタに私たちのために同族と戦えっていうの?」
たしかにモンスターも魔族に違いない。レミィはボクの肉体的な危険と精神的な負担を考えてくれてたのか。ポポルはもちろん、ランツァ村長までもが沈黙する。
「それもわかったうえでルベタ殿に頼みにきたんじゃよ。断られることも覚悟しておるし、その時は引き下がるつもりじゃ」
ランツァ村長が口を開く。その様子からはボクに対して申し訳ないという感情が読みとれる。
『どうするのだ? 人間どものために同族を殺す必要はないと思うがな』
たしかにリバス様の言う通りかもしれない。だけど、ボクの答えは最初から決まっている。
「ボクは大丈夫。引き受けるよ」
「おぉ!」
ランツァ村長とポポルの表情が明るくなり、レミィは複雑な面持ちを見せる。
「すまぬ、恩にきる!」
ランツァ村長は深々と頭を下げる。
「いいさ。それに、この村のためだけに引き受けるわけじゃない。ちょっと思うところがあってね」
そう。これはボクにとっても仲間の敵討ちでもあるんだ。
「では、明朝に迎えにくるまで待機しておいてもらえんかの」
「わかった」
ランツァ村長はボクたちに一礼して自宅へと帰っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「すまんな。本当に良いのか?」
翌朝、予定通りにやってきたランツァ村長が申し訳なさげな表情を見せる。
「ああ。任せてくれ」
ボクは答える。昨日、村長が帰ってからレミィは一言も喋ってくれない。ボクにとってはそのことのほうが気がかりだ。
「では、出発の前に広場へ行ってほしいんじゃ」
「広場に?」
すぐに森に向かうんじゃないのか。広場に何があるというんだろうか?
「実は村人たちにも集まってもらっておってな。村の者たちにもルベタ殿のことを理解してもらおうと思うんじゃ」
「ボクのことを?」
問い返すボクにランツァ村長は頷く。
「実際、この村の者にも魔族に対して偏見を持つ者は少なくない。じゃがな、わしはルベタ殿のような魔族もいるということを知ってもらいたいと考えとる。今回の件でルベタ殿が協力を快諾してくれたことを知れば、少しは変わるかもしれん。それに期待しとるんじゃよ」
ランツァ村長もボクのことを考えてくれてたのか。そのことだけでも嬉しく思う。
「わかった。それじゃ広場に向かおう」
「ありがとう。レミィとポポルも来てくれるな?」
ランツァ村長が確認する。二人は頷く。
こうしてボクたちは村の広場へと向かうのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
住人たちは、ボクたちが広場に到着するころには既に集まっていた。
「村長、魔族にゴブリン退治を依頼するってのは本当なのか?」
村人のひとりから早速質問がとぶ。
「本当じゃ」
即答するランツァ村長。
「けど、魔族なんて信用していいものか……」
魔族であるボクを目の前にしてはっきり言うんだね。
「我ら人間にも善悪があるように魔族にも善悪はある。魔族というだけで悪と決めつけるのは間違っておる!」
「でもねぇ、ガボのことだってあるし……。あたしゃ不安だよ?」
「それとて、わしらが知っておるのは結末だけであって、それまでの経緯は知らんではないか。そこに至るまでにどのようなことがあったのかを解明できんうちは、ガボを一方的に責めることはできんじゃろう?」
「それはそうだけどさぁ……」
納得がいかない様子の村人たち。
『ふん。それほどまでに魔族を信用できぬのであれば我らは手を引くべきだ。もとより、この村がどうなろうと関係ないのだからな』
リバス様は随分とご立腹の様子だ。だけど、その気持ちはわからなくはない。
「ゴブリン退治を引き受けたのはこの村のためだけじゃないんだ。ボクだってあいつらには大切な仲間を何人も殺されてる」
村人たちは一様に沈黙する。
「ルベタ殿が滞在されておる今を逃せば二度とチャンスはないかもしれん。それでも反対と言うのならば代案を示してもらおうか!」
「ベレグならゴブリンどもを討伐できるんじゃねぇか!?」
村人側から個人名らしきものが飛び出した。
「ベレグか。あやつはいつ戻る? ゴブリンによる被害は甚大じゃ。我らの生活を守るためには今すぐ行動を起こすべきではないか?」
ランツァの言葉に反論する者はなくなった。
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