魔王ルベタ②
改稿済みです。
砂浜に打ち寄せる波の音がボクの意識を覚醒させてくれた。ゆっくりと目を開ける。茜色の空が視界に広がる。どうやら生きているようだけど全身が痛い。
いつまでもこうしているわけにもいかず、ゆっくりと体を起こす。
「ん?」
何かおかしいぞ。違和感を感じて自分の体に視線を移す。
「な、な、なんだぁ!?」
思わず叫んだ。黒を基調とした服の上に銀のグリーヴに銀のガントレットに銀の胸当て。ボクは全く見覚えがないぞ! それだけじゃない。小人サイズだったはずの身体が人間の大人サイズになっているじゃないか。
「人間になってる? なぜ!?」
混乱している脳を落ち着かせようと深呼吸をする。モンスターが人間になる事があるのだろうか? いやいや、あるわけがない。
『なんということだ。肉体をモンスターごときに乗っ取られてしまうとは……』
聞き覚えのない声がした。近くに誰かいるのか。周囲を見回してみる。しかし、小さな砂浜にはボクしかいない。空耳だったのかな?
『どこを見ておる』
再び聴こえる。やっぱり誰かいる! 再度辺りを見回すが見つけることができない。
『愚か者め。探しても見つかるわけがなかろう』
首を傾げる。どういう意味だろうか?
『まだ状況が理解できておらぬか。貴様は我となったのだ。不本意ではあるがな』
余計にややこしくなる。この謎の声は何を言っているんだ?
『しかたのない奴だ。貴様は崖から落ちた。ここまではわかるであろう』
そうだ。ボクはフォラス島の少年に投げ飛ばされて崖から落ちた。その時の恐怖を思い出すと身震いがする。
『その際、貴様の落下地点には偶然にも我がおったのだ』
言われてみれば、砂浜に誰か倒れていたような気がする。
『絶命の危機に瀕していた我は都合よく落ちてきた貴様を吸収し、その生命力を取り込もうと試みた』
なんだって! それじゃボクはどうなったんだ!?
『結果として、貴様の身体は消滅し、魂は我の肉体に宿ってしまった。理解できたか?』
「ちょっと待ってよ。身体が消滅した? それじゃ、ボクは死んだの!?」
『うむ。そういうことだ』
おい、軽く認めちゃったよ。
「ひどいじゃないか! モンスター殺し!」
『わめくでない。貴様ごときが我の肉体に宿ることができたのだ。むしろ感謝すべきであろう』
なんてことだ。初対面のボクをいきなり殺しておいて、謝るどころか感謝しろとか言ってるよ。
「そもそも君は何者なんだよ?」
『よかろう。知りたくば名乗ってやろう。我こそは魔王リバスである』
魔王様か。
……なにぃぃ!! 予想もしていなかった答えにオロオロとうろたえる。
『驚くのも無理なかろう。魔王である我が貴様ごときと肉体を共有せねばならぬとは嘆かわしいかぎりだ』
「いや、でも、吸収されたのなら、肉体だけじゃなく魂も消滅すると思うんですが……」
脳裏に浮かんだ疑問を投げ掛ける。
『その通りだ。が、あの時の我は意識が朦朧とした瀕死の状態であった。ゆえに吸収が不完全だったのであろう。そして、貴様の肉体のみが滅び、行き場を失くした魂は我の肉体へと宿ったというところだな。迷惑な話だ』
迷惑って、あんたが勝手にボクを吸収しようとしたからこうなったんじゃないか。つまり、ボクが被害者なわけで責められるいわれはないはずだ。
それを主張したところで状況は何も変わらない。それどころか逆ギレされるかもしれない。いや、この人なら確実にキレる。
「そもそも、リバス様はどうしてこんな所に倒れていたんですか?」
暫しの沈黙がやってきた。まずい。聞いてはいけないことだったかな。そんな事を思い始めたころ、リバス様の声がした。
『思い出すだけで実に腹立たしいわ! 我が居城は天空の魔王城とも呼ばれるガゼラース。そこに攻め込んできた勇者どもとの戦闘において、城は破壊され、我は海に投げ出されたのだ』
「天空の魔王城? お城が空に浮かんでたんですか!?」
『うむ。ガゼラース城を知らんのか。なんと無知な奴だ』
フォラス島から出たことがないボクにとっては驚きだ。
「それで潮流に乗ってフォラスに流れ着いたんですね」
『なんだと? ここはフォラス島なのか?』
会話に出てきた島の名前にリバス様が反応する。フォラスだと何かあるのだろうか?
「それがどうかしたんですか?」
『この島があのフォラスならば、我が流れ着いたのは単なる偶然なのか、それとも……』
「あのぅ、それはどういう事ですか? もしかしたら偶然じゃないのかもしれないとか?」
『まぁ、よい。貴様ごときが気にすることではない』
そう言われても気になるんだよね。だけど、しつこく訊くと叱られそうだからやめておこう。
「それで、ボクはこれからどうすればいいんでしょうか?」
『どうとは?』
「リバス様の身体を、リバス様の魂とボクの魂が共有してるというのは理解できました。でも、いつまでもこの状態ってわけにもいかないんじゃないですか?」
『その事か。別に何も気にする必要はない。我の意思で肉体を動かすことができんのならば、今日からは貴様が魔王だ』
そうなのか。リバス様は意外と心が広いなぁ。
しかし、最弱モンスターのボクが魔王になる日がくるなんて思わなかったよ。夢のような話だ。
『魔王になった気分はどうだ?』
「そうですねぇ、なんか実感がわかないっていうか……」
ん? んん? な、な、なんだってぇぇ!! ボクが魔王だって!? そんなの無理に決まってるじゃないか!! なんか流れで受け入れちゃってたよ。とんでもない事を言い出すな、この魔王様は。
「いやいや、ボクに魔王なんて無理ですよ! だいたい断トツの最弱モンスターが魔王になるなんて常識的にあり得ないですって!」
『なんだ、急に態度を変えるのだな。たしかに常識的にはあり得ないであろうが、こうして現実に起こっておるではないか』
それはそうだけど、ボクに魔王なんて大役が務まるとは思えない。これは大変な事になってしまったぞ。
『まぁ、覚悟を決めるんだな』
まるで他人事だな。いきなり魔王にされるほうの身にもなってほしいものだよ。
それにしても、まさか本当にボクが魔王に?
こうなったら魔王として生きていくしかなさそうだけど自信は微塵も持てない。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話は2022/4/3(日) 12:00投稿予定です。