冒険者生活 初日
翌朝、ボクは窓から射し込む陽光で目を覚ました。
「もう朝かぁ……」
大あくびをしてベッドから脱け出す。それからシルバーミスリルの軽鎧を装備する。
コンコン
扉がノックされた。
「どうぞ」
ボクが応答すると、レミィが入ってきた。今日も笑顔が眩しい。
「おはよう、ルベタ」
「おはよう、レミィ」
「あのね、朝食ができたみたい。ビュラーヌさんが言ってた」
「そっか。それじゃ、一緒に行こうか」
「うん」
最後に魔大剣ヴィデルガラムを背負って部屋を出る。それからレミィと二人して1階へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やっと起きたようだね。さぁさぁ、とっとと朝飯をお食べ」
階段を下りてきたボクにビュラーヌが声をかけてきた。
『ふん。ババアが偉そうにぬかすではないか。少し口の利き方というものを教えてやる。ルベタよ、我と代わるがよい』
うーん……今、リバス様に代わったら大変なことになりそうだ。よって、今回は却下しよう。
テーブルの上には、おにぎり、漬物、味噌汁、焼き魚といった料理が並べられている。
『貴様、さらっと無視するのだな……』
答えることなく着席したボクにリバス様は文句ありげだが、それ以上は何も言わなかった。たぶん、ボクに代わる気がないのを悟っているんだろうな。
「「いただきます」」
ボクとレミィが声を合わせ、食事が始まる。
「美味しい……」
味噌汁を一口飲んだレミィが沁々(しみじみ)と言った。
「ヒャッヒャッヒャッ……そうじゃろ、そうじゃろ! アタシ特製の味噌汁はそこらのとは一味違うからねぇ」
ビュラーヌが自慢げに語る。
「へぇ。何か隠し味があるんですか?」
レミィが話に乗っていく。
「うむ。レミィ嬢ちゃんには特別に教えてやろうかのぉ。実はな、この味噌汁にはこれが入っとるんじゃ」
そう言って、ビュラーヌは液体の入った小瓶を取り出した。
(たしかに美味しい……)
話を聞きながら味噌汁を味わう。
「なんですか、それ?」
「これはのぉ、アタシの血と汗じゃ!」
とんでもない事を堂々と言い出すビュラーヌ。ボクは口に含んでいた味噌汁を吹き出す。
「なんじゃ、汚いのぉ……」
悪びれもせず、ビュラーヌはボクを汚ならしそうに見る。いやいや、そっちこそなんてものを客に提供してるんだ。レミィも即座に味噌汁を置いて咳き込んでるじゃないか。
『ルベタよ、すぐに我と代わるのだ。このババアをこのままにはしておけん! 魔王である我になんというものを飲ませるのだ!!』
リバス様の怒りメーターが急上昇している。いや、相手が魔王じゃなくてもダメなやつだよ。
「ジョークじゃよ、ジョーク。まったく、最近の若い者にはジョークが通じんのじゃな」
ほんとにジョークなのかな? ビュラーヌが言うとジョークには聞こえないんだけど……
『疑わしいものだな』
ほら、リバス様だって疑ってるじゃないか。それに、レミィも不信感の込めた視線をビュラーヌに投げ掛けているよ。
「なんじゃ、なんじゃ。おまえさんら二人ともアタシを疑うのかぇ?」
ビュラーヌが両手で顔をおおって泣き真似をする。なんだろう、この神経を逆撫でされる感じは。レミィは困ったように苦笑している。
「と、とにかく食べましょう。ね?」
気を取り直して、レミィがボクとを促した。結局、あの小瓶の液体は何なのかな? 怖くて訊けない……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「朝からひどい目にあった……ほんとのところ、あの液体の正体は何なんだろうね?」
冒険者ギルドへの道中、お腹を擦りながら隣を歩くレミィに話しかける。
「さぁ? それはわたしにも……でも、変な物じゃないよ、きっと……たぶん……」
レミィも自信はないんだね……。あの宿屋を選んだのは間違いだったんだろうか。でも、ボク一人ならともかく、レミィに野宿なんてさせられないよね。うん、あの状況ではあの宿を選んばざるを得なかったはず。
「いよいよ、冒険者として初めての仕事を受けるんだよね。緊張するなぁ!」
ボクが自分で自分の行動を肯定していると、レミィが話題を変えてくる。もしかして、あの妖しい味噌汁のことは思い出したくないとか? まぁ、その気持ちも理解できるよ、うん。
「そうだね。冒険者の仕事といえば、モンスター退治とか遺跡探索とか護衛とかたよね!」
「うん! だけど、モンスターはちょっ怖いかな……」
「大丈夫だよ。いざとなったらボクが守るよ」
『未熟者の分際で大きく出たものだな』
うっ、そこはスルーしてくれてもいいんじゃないですかね、リバス様。と本人に言ったところで無駄なんだろうなぁ。
「ありがとう! でもね、ルベタの気持ちはすごく嬉しいんだけど、パートナーとして守ってもらってばかりじゃいられないよ。わたしもルベタの力になれるように頑張るね!」
「レミィ……」
『どちらも未熟者ではないか。最悪、ルベタは殺され、小娘は奴隷として売られるか慰みものにされるか』
うわぁ……性格悪ぅ! そもそもボクが死ぬってことはあんたも死ぬってことでしょうに。
「どうかしたの? もしかして、リバスさんが何か言ってるの?」
ボクの様子から察したのか、レミィが図星をついてくる。
「ああ、うん、まぁ、いろいろとね」
曖昧な返事を返すボク。
「ふーん。あまりいいことじゃないみたいね。リバスさんって女の子にモテないタイプじゃないかしら」
レミィがジト目でボク……というよりリバス様を見る。
『この小娘! 言わせておけば!!』
予想どおりに激昂するリバス様を放置する。
「と、とにかく協力して頑張ろう!」
ボクは若干の不安を抱きながら冒険者ギルドへ向かうのだった。




