宿探し③
「けっ、やっぱ魔族を殺るのは骨が折れるぜ」
リーダー格の男は吐き捨てるように言い、ボクとレミィを交互に見る。
「俺とザッカルとギラーであの魔族を殺る。ディグとジャンはあの女だ」
「了解、ザレスの兄貴!」
ザッカルと呼ばれた大斧使いの男がリーダー格の男の右隣に移動する。リーダー格の男がザレス、大斧使いの男がザッカルか。
「くそっ……ザレスの兄貴のスケベ心のおかげで災難だぜ!」
ギラーと呼ばれた弓使いの男が愚痴る。
「るせぇ! 魔族を殺りゃ俺らの名前にも箔がつくだろうが!」
ギラーの愚痴に反論し、ほかの二人を見遣る。
「ディグとジャンもあの女を倒したら、こっちに加勢しろよ」
「だとさ。ザレスの兄貴に反省の二文字はないらしい。さっさと終わらせるぞ、ジャン?」
重鎧と大盾とハンマーの男が肩をすくめる。彼はディグって名前か。そして、そのディグに話を振られて無言で頷いた槍使いがジャンだな。
べつにどうだっていいんだけど、あいつらの名前はわかった。
「いくぞ!」
ザレスたちが一斉に動く。
「させるものか!」
ボクは《俊足》を使って槍使いジャンとの間合いを一気に詰める。
「んな!?」
ボクの動きが急に速くなったことに対応できず、ジャンの動きが一瞬止まった。その隙にヴィデルガラムを上段に構える。袈裟斬りの軌道を描いて振り下ろされた魔大剣はジャンの鎖骨をへし折る。
「ぎゃあぁ……ぐぉっ!」
悲鳴をあげるジャンを蹴り飛ばす。次のターゲットは……!
ヴィデルガラムを中段にうつしたボクの左頬を、弓使いギラーの射た矢がかすめていく。咄嗟に回避していなければ危なかった。
「ちぃっ! スキル使いかよ!? しかも、なかなかの反射神経じゃないか!」
ザレスは予想外の事態に顔をしかめる。
「作戦変更だ! ザッカル、ギラー、ディグはあの魔族を殺れ。あの女は俺が押さえる」
ザレスは作戦の変更を伝える。
『ほぉ。柔軟に対応してくるではないか。それなりに経験を積んでいるということか』
リバス様が他人事のように感想を述べている。レミィひとりでザレスを相手にするのは無茶だ! なんとかしないと!!
「おっと、行かせねぇぞ!」
レミィの元に駆けつけようとするボクの行く手を重鎧の戦士ディグが遮る。
(重鎧と大盾か……今はレミィの所へ急がなきゃ!)
ボクは重鎧のディグを避けるように脇をすり抜ける。
「させるかよ!」
跳躍した斧使いザッカルが掲げた大斧を振り下ろしてきた。
「うわっ!」
飛び退いた直後、斧使いザッカルの大斧が地面をえぐる。
「くっ!」
斧使いザッカルの攻撃を避けたボクに、弓使いギラーが再び矢を射る。ボクはヴィデルガラムで受け止めて凌ぐ。
「おらよぉ!」
重鎧のディグが振り抜いたハンマーがヴィデルガラムによる防御をこじ開けた。
「がはっ!!」
ボクの胸部に強烈な一撃が炸裂する。身体が勢いよく宙に舞い上がる。シルバーミスリル製の胸当てがなければ致命的なダメージを受けていたかもしれない。
宙返りし、体勢をととのえて着地したボクは射られた矢をヴィデルガラムで弾き飛ばす。
「まだだぁ!」
斧使いザッカルが両手で握った大斧を薙ぐ。
ブォンッ
ボクが飛び退いた直後に大斧が空を裂く。
下段に構えたヴィデルガラムを逆袈裟斬りの軌道で滑らせる。
「ぬぐぅっ!」
腰部にヴィデルガラムの打撃を受けた斧使いザッカルが低く声を漏らす。
『なんとも甘いな。ヴィデルガラムに魔力を流し込んでおれば、こやつは仕留めておれたというのに……』
リバス様は呆れたように言う。たしかに、それはそうかもしれない。だけど、命まで絶たないですむのなら、それに越したことはない。
「野郎!」
ガキィンッ
甲高い金属音が響く。重鎧のディグが振り下ろしたハンマーをヴィデルガラムで受け止めた。
「ふん!」
《剛力》で腕力を強化してハンマーを弾き返す。重鎧のディグは2、3歩後退する。
「ちっ!」
ボクからの追撃を警戒した重鎧のディグは大盾を構える。だけど、ボクにその気はない。
構えた大盾を踏み台にして跳ぶ。
「もらったぁ!」
その瞬間を待ち望んでいた弓使いギラーがすかさず矢を射た。それこそ、ボクの狙いどおりだった。《飛行》によって素早く空中を移動すると同時にヴィデルガラムを上段に構える。
「ひぃ!」
弓使いギラーの頭上まで移動したボクは、恐怖に染まった弓使いに魔大剣を振り下ろす。鈍い音を立てて左上腕骨を折られた弓使いギラーは地面にうずくまって悶絶する。
着地したボクは、斧使いザッカルと重鎧のディグに向かって駆け出す。
「くそ!」
重鎧のディグがハンマーを振りかざして迎撃してくる。それを跳躍してかわし、大斧を杖代わりにして立っているザッカルの顔面に蹴りを入れる。
「ぐべっ」
短いうめき声を漏らし、斧使いザッカルは地面に倒れた。もはや戦意は完全に消え失せたようだ。
「くそったれ!」
自棄になった重鎧のディグがハンマーを何度も振り回す。ボクは容易く回避しながら反撃の隙をうかがう。
「いまだ!」
右手に力を込めて振り抜いたヴィデルガラムはディグの側頭部をとらえた。
「う……お……」
ディグは白目をむいて地面に沈んだ。




