マーティル船長
定期船の船長室。マーティルは窓の外を眺めていた。
フォラス島の領主トゥナムとは旧知の仲だ。その彼が死亡したと聞かされた時には驚かされたが、実は生きていたとわかった時の驚きと喜びはさらに大きなものであった。
先ほどの魔族が魔王であること。弱き者の気持ちを理解し、それを守るために力を振るっていること。フォラスのために尽力してくれたこと。様々なことをトゥナムから聞かされていた。
親友の言うことを疑っていたわけではないし、トゥナムの人を見る目は信用に足るものだと思っている。しかし、人間を、弱者を守る魔王など本当にいるのかという気持ちがあったのも事実だ。
(あの魔王……自分が何を言われようが気にしちゃいなかったが、連れの嬢ちゃんが危害を加えられた途端に雰囲気が明らかに変わった。大切な者を守るためなら、相手がだれであろうと躊躇うことなく戦うタイプだな。なかなかの漢じゃねぇかよ)
マーティルはひとり笑む。
コンコン……
「入れ」
ノックの音にマーティルが返事する。扉が開かれて船員が食事を運んできた。
「失礼します。お食事をお持ちいたしました」
「すまねぇな。机に置いといてくれ」
「はい」
船員が指示どおりに机の上に食事を置いて退出する。
(まぁ、あの魔王がどんな人物であろうと関係はないか。カビラルに到着すればお別れだ)
マーティルは席に座って魚介スープを一口すすり、イクラ丼を頬張る。それからシーフードサラダを口に運ぶ。
「魔物だぁ! ウォーターマンが現れたぞ!」
マーティルが刺身を食べようと箸を伸ばした時だった。甲板で見張りをしていた水夫の叫び声が聞こえてきた。
「ちっ!」
マーティルは壁に掛けてあった戦斧をとり、船長室から飛び出した。




