旅立ち④
ピラックの港に大勢の人が見送りに来てくれた。波止場にはすでに定期船が入港していて、積み荷の揚げ下ろしが行われている。
「いよいよ旅立つ時がきたのだな」
寂しさを滲ませてトゥナムが呟く。
「また必ず帰ってくるさ。それまでのお別れだ」
差し出した右手をトゥナムは無言で力強く握り返してくる。
「ルベタが帰ってくるころには強くなってるから勝負しろよな。そんで、オイラが絶対に勝つ!」
「ああ、楽しみにしてる」
ポポルがお手製の木剣の切っ先を突き付けて宣言するが、堪えきれずに溢れだした涙が頬を伝って足元を濡らしている。
「あの、レミィの姿がないみたいだけど?」
ボクは思いきって訊いてみることにした。
「レミィ姉ちゃんなら……」
ポポルは言いかけて見送りの群衆を気にする。どうしたんだろうか。同じように視線を移す。
「えっ?」
ボクは短く声をあげた。
「ごめんなさい! 通してください!!」
少女が人々をかき分けて近づいてくる。レミィだ。しかも、旅支度が済んでいるようだ。
「よかった。間に合ったようだな」
トゥナムが安堵する。まさか……
「はあ、はあ……」
レミィはボクの前までやってきて、弾んだ息を整える。
「レミィ、まさか!?」
「ええ。たとえルベタが反対してもついていくんだからね!!」
固い決意を秘めた視線を真っ直ぐにぶつけてくる。
「だけど、ポポルはどうするのさ?」
「オイラなら大丈夫だぜ!」
レミィに代わってポポルが答えた。
「オイラ、警備隊の見習いとしてトゥナム様の屋敷で暮らすんだ」
「なんだって!?」
そんな事は今まで一言も言ってなかったはずだ。そりゃあ、ボクに報告する義務はないけど……。それにしてもいきなりすぎる。
「何も突然に決まったわけではないのだ。少し前からポポルから相談を受けていてね。わたしがみたところだが、ポポルには剣術の才があるように思う。ゆくゆくは立派な警備隊員にと期待しているのだよ」
「ヘヘヘ……島のみんなのために戦っているルベタを見てたらさ、オイラもみんなを守れるくらい強くなりたいって思うようになったんだ」
そうだったのか。まだまだ子供だと思っていたポポルもちゃんと自分の道を見つけていたんだな。だったら、それを応援するしかないよね。だけど……。
「それでも、レミィを連れていくのは危険すぎるよ。魔王であるボクを狙う敵は数多くいるはずなんだ。ボクと一緒にいれば絶対に巻き込まれる。ボクにはレミィを守り抜く自信なんてない…」
「そこは考慮している」
トゥナムが口角を上げる。
「レミィは君がフォラスを去る日に備えて魔術の修行を積んできている。特に、回復や治療、補助系の魔術に関してはルベタ以上の使い手だろう。あとは実戦経験だけだが、わたしが相手となって模擬戦闘は行っている」
そうか! このところレミィが夕暮れ時から辺りが暗くなるまで帰ってこなかったのはそのためだったんだ。そこまでしてたなんて……
『貴様も腹をくくるべきではないか?』
リバス様が言う。たしかに、レミィの意思を変えることはできないだろう。
「わかったよ。一緒に行こう!」
ボクが承諾するとレミィの表情がたちまち明るくなる。
「うん、ありがとう! 私、がんばるからね!!」
ボクとレミィはお互いに見つめ合う。今、すっごくいい雰囲気だ。ボクの鼓動が自然と高まる。
「おーい、出港の準備はできたぜ。そっちはどうだ?」
定期船の船長から声が掛かる。ああ、せっかくいい感じだったのに……
「いつでもオッケーですよ……」
ガックリと肩を落としつつ答える。レミィは少し照れながらもクスクスと笑っている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ボクはレミィと一緒に船に乗り込んだ。波止場に詰めかけた人たちは口々に激励やら別れの言葉やらを叫んでいる。こうして集まってくれたことに心から感謝しながら手を振って答える。
「私、今よりももっともっと成長して帰ってくる」
隣で同じく手を振っていたレミィが改めて決意したように言う。
船はゆっくりと動きだして、ピラックの港から離れていく。
ここからボクの……いや、ボクたちの旅が始まるんだ。そこにどんな出会いや出来事が待っているのか。膨らむ期待と少しの不安を抱き、遠ざかっていくフォラスを見つめていた。
1章はこれで終わりです。
終了してみれば、予定よりも大幅に長くなりました……。それに反省点も多々ありました……。
ここまで読んでくださった読者さんには本当に感謝です!
2章を始める前に、9月3日0時よりスピンオフ作品『落ちこぼれ魔族は魔王を目指す』を投稿予定です。
内容は、魔王リバスの過去の物語です。もし、興味を持っていただければ是非お読みください。




