旅立ち②
二週間が経つのは本当にあっという間だった。レミィは相変わらず復興作業の合間にどこかへ出掛けているようだ。心なしか最近はそうした時間が増えたようにも感じる。
『明朝、いよいよ旅立つのだな?』
夕暮れになり、レミィとポポルの家に戻り、居間で椅子にもたれかかっているボクにリバス様が話しかけてきた。
「はい」
短い返事をする。
『本当によいのか?』
「何がです?」
問い返すと、リバス様は暫し沈黙したあと、言葉を続ける。
『レミィと別れてもよいのか、と訊いておるのだ』
「いいも悪いもありませんよ。ボクは魔王なんですよ? ボクと一緒にいれば必ず危険に巻き込まれるじゃないですか。今のボクには彼女を護りきる自信がないんです」
『……そうか。ならば何も言うまい』
もちろんボクだって寂しい思いもあるし、このままここで暮らしていくのも悪くないかもしれない。それでも旅立つことをやめるつもりはない。この島だけじゃなく、もっと広い世界を旅したい。いろんな物を見たり、いろんな人と知り合いたいし、いろんなことを学びたい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どれくらいの時間が経ったのだろうか。ボクは居間の椅子に腰を下ろしたまま、これまでのことを思い返していた。ポポルに追い回されたこと。リバス様に吸収されてしまったこと。レミィとの出会い。ランツァ村長やラルバンとの出会ったこと。そして、スヴェインやリゲック、コルオーン、ルザといった者たちとの激戦の数々を……。魔王となってからは本当にいろんな出来事があったな。
「……それにしても遅いな……」
レミィもポポルもまだ帰ってきていない。いつもならばとっくに帰宅している。外はすっかり日が沈んでしまっている。二人に何かあったのか? 漠然とした不安が募ってくる。
ボクは二人を探しにいこうと立ち上がり、足早に玄関まで行くと扉に手を掛けた。
「あっ……」
ボクが扉を引くと、そこにレミィの姿があった。ちょうど入ってくるところだったのだろう。一瞬だけ驚いたような表情を見せた。
「どうかしたの?」
訊いても答えず、レミィはボクの手を取る。いったいなんだというのか。
「遅くなってごめんね。準備に手間取っちゃって……」
「準備って?」
何か予定があっただろうか? 何がなんだかわからずに問い返す。
「ねっ、これからトゥナム様の所へ一緒に行ってほしいの!」
「今から!? ……そりゃ、べつにかまわないけど、どうしてさ?」
「行けばわかるわよ。さあ、早く早く。トゥナム様に馬車を貸りてきたんだから!」
レミィは少し離れた所に停まっている馬車へとボクを誘う。とりあえずは従うしかなさそうだ。
『こやつに隠し事は無理なようだな』
リバス様が半ば呆れたように洩らす。
「リバス様は何かご存知なんですか?」
『いや。何も聞いてはおらぬ。が、おおよその想像はつく』
小声でリバス様訊くがちゃんとした答えは返ってこなかった。
ボクは御者の老人に会釈しておとなしく乗り込む。続いてレミィが乗り込むと馬車は領主邸に向けて走り出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さあさ、着きましたぞ」
馬車を領主邸の門前で停車させた御者の老人が扉を開けてくれる。
「やあ、よく来てくれた!」
馬車から降りたボクとレミィをトゥナムが出迎えてくれる。
「トゥナム……これはいったい何事なんだい?」
「とりあえずついてきてくれ。話はそれからだ」
トゥナムは、やはり質問に答えず、先頭に立って屋敷へと向かう。ボクは訳もわからずレミィと共に後に続く。
「みんな、今宵の主役の到着だ!」
ボクが屋敷の玄関ロビーに姿を見せた瞬間、歓声と万雷の拍手が沸き起こる。見知った顔が集まっていた。スヴェイン一派との決戦の際に奮戦してくれた人たちもいる。事態が理解できずに呆然としているボクの元にポポルが駆け寄ってくる。
「へへっ、ビックリしただろ!?」
「あ……うん……これはいったい?」
「皆、君を盛大に送り出そうと集まったのだよ。送別会というやつだ。だが、それだけではない。ルベタが再びこのフォラスに戻ってきてくれるようにとの願いも込められている」
そうだったのか……それで、今日はレミィもポポルも帰ってこなかったんだな。ボクのために……。おもわず目頭が熱くなる。
「おいおい、主役が泣いてちゃダメだろ」
「そうそう! 早くこっちへ来いよ。せっかくのご馳走が冷めちまうぜ」
「おう! 酒だってあるんだぜ。トゥナム様がこの日のために用意してくれてたんだ」
集まってくれた皆は開宴を待ちきれぬといって様子だ。
「そうだったのか。ありがとう!」
「かまわんさ。わたしたちこそルベタには感謝している」
トゥナムの言葉にボクは首を横にふる。
「ボクは大したことはしていない。それに、リバス様がいなければスヴェイン一派に勝つことなんてできなかった」
「……そうか。では、ルベタだけではなく魔王リバス殿にも感謝しよう」
「リバス様も喜ぶと思うよ」
『何を勝手なことをぬかしておる。人間ごときに感謝されたとて嬉しく思うはずがなかろう』
照れ隠しなのか本心なのかわからないツッコミがはいる。もちろん、トゥナムには聞こえていない。
「ルベタ、主役として皆に声を掛けてくれないか?」
「えっ、ボクが!?」
「ああ。ここにいる皆はルベタのために集まったのだからな。ここはひとつお願いできないだろうか?」
うぅ……そう言われると断りにくいんだよな。思案に暮れているところにマイクが差し出されてきた。これはいよいよ「嫌だ」とは言えなくなった。腹をくくってマイクを受け取る。目の前には大勢の人がボクの言葉を待っている。
「えっと……その……」
なんと言えばいいのか。緊張で言葉が見つからない。
その時だった。それまで後ろに控えていたレミィがボクの隣に立って左手をそっと握ってくれた。それだけのことだけど不思議と安心できた。ボクは深呼吸して集まってくれた皆を見る。
「今日はボクのために集まってくれて本当にありがとう! でも、スヴェイン一派を倒すことができたのは、ボクの中にいるもう一人の魔王リバス様や、フォラスで暮らす多くの人たちの協力があったからこそなんだ。明日、この島を旅立つボクにとって今夜のサプライズは驚きと喜びを与えてくれた。そして、必ずこのフォラス島に帰ってくることを誓う。今夜は大いに楽しもう!!」
「よぉし、よく言ったぁ!!」
「絶対に帰ってこいよ! 約束したからな!!」
グラスを掲げて思い思いのことを叫ぶ人たち。みんな満面の笑顔だ。見ているボクもなんだか嬉しくなってくる。
こうして、旅立ち前夜の大宴会は幕を開けたのだった。
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