魔王と姉弟②
見上げた濃紺の夜空に浮かぶ月からの柔らかな月光を浴びながら遠い過去に思いを馳せる。もう、二度と戻れぬ過去に振り返るなどナンセンスだな。自嘲の笑みがこぼれる。
『リバス様も物思いに耽ったりするんですね』
「くだらん。過去のことなど考えたところで何の意味もない」
『そうでしょうか? いい過去ばかりじゃないでしょうけど、その全てが現在のリバス様を作ってるんですよ。過去に何があったのかわかりませんし、無理に聞かないです。でも、その過去を忘れなければ未来を変えることはできるかもですよ』
「……随分とめでたい考え方だな。暫し黙るがいい」
ルベタを黙らせ、夜の静寂の中で佇んでいるところに近づいてくる気配が感じる。
「我に何用だ?」
振り返ることなく、背後の人物に声を掛ける。
「ごめんなさい。もしかして、お邪魔だった?」
やや驚いたようなレミィの声が聞こえる。
「かまわぬ」
短く答えてやると、少女は我の横までやってきて草むらに腰を下ろした。
「綺麗ね」
レミィは頭上の月を見上げて呟く。我は何も答えない。だが、特に気にすることもなく話を続ける。
「私ね、リバスさんと話をしてみたいって思ったんだ」
「我は貴様に話すことなどないがな」
素っ気なく答える我に対して、レミィはクスリと笑う。
「私にはあるの! んっとね、ポポルがリバスさんに謝ってた」
「謝るだと?」
「うん。ちょっとだけ言い過ぎたかも、だって」
「ふん。気にする必要はないと伝えてやるがいい。あの小僧は憎たらしいが、自分の考えを述べただけにすぎん」
隣からまたしてもクスクスと笑い声が聞こえる。
「ごめん、ごめん。リバスさんって本当はいい人なんだね! 私、魔王ってもっと恐いものなんだって思ってたから、つい……」
ルベタだけではなく、こやつも我を優しいなどとぬかすか。どういう考えをしておるのやら。
「さて、と」
レミィがおもむろに立ち上がる。ようやく立ち去る気になったか。これで静かになる。そう考えていた我に向かって深く頭を垂れる。いったいどういうつもりなのだ。
「本当にありがとうございました! リバスさんとルベタがいなかったらフォラスはどうなっていたことか……」
「そのことか。全てはルベタがやったことであって我は関係ない」
「ううん。ルベタにはもちろん感謝してるけど、リバスさんだってルベタをサポートしてくれてたんでしょ? だから、やっぱりリバスさんにも同じくらい感謝してる!」
「ならば、勝手にするがよい」
「うん、勝手に感謝しとくね。それじゃ、おやすみなさい!」
我は駆け去っていくレミィの後ろ姿を無意識に見送っていた。
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